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19話 学生たちの、夏休み(4) 2/2

悪いことってやけに正確に分かるよね。


これこそが第六感ってやつ?

女の子が好きなオーラとかってやつ?


「……………………………………」


僕は僕の頭が解析した声の波形を意図的に無視する。


いやいや。


いやいやいやいや。


ないでしょ。


そりゃああの子ともこの近くで、っていうかここの上でバイトしてた子だけどさ。

あの子もおんなじ学校だけどさ。


いや……いやいやいやいや。


そんな僕の思いを無視しながら儚いメガネさんの電話は続いているらしい。


ずっと続いてて。


「………………………………うん。 うん、ほんとうです。 ……あ。 …………ほ、ほんとう……なの、よ? …………そう、いちばん奥のところの。 うん、………………………………急がなくて良いって………………あ」


切れた通話から戻って来た儚いさんはぼーっとしながら僕を見ている。


「……………………………………」

「……………………………………」


やっぱりじーっと見られてる。


……いやいや、無い無い。


無いでしょ?


き、きっと同級生の誰かに違いない。


僕はありえない偶然っていう妄想を意識して排除しながら逃げようとしてゆりかに抱きつかれて逃げられなくなる。


「……ゆりか。 ……………………………………ゆりか」


聞いてない。


楽しそうにりさりんさんと話すついでに彼女の両手を、彼女から見てちょうど良い感じに背の低い僕の肩に乗っけているらしい。


ああ、女子ってやつの距離感……。


そんなのはどうでも良くって、とにかくただでさえ想定外の関澤さんにくっついたりさりんもとい杉若さん、杉若さんが呼び寄せた友池さんという3人がいるんだ。


もう振り切ろう。

多少強引でも良いだろう。


じいやに呼ばれてるって言って全速力で走ろう。


うん。


お迎えが来ていることにしよう。


参考書はネットで買えば良いんだし時間の無駄だしなんかヤな予感するし。


この子たちの話に巻き込まれたままファミレスとかカフェとかお昼とかに連れて行かれるよりはずっとましだ。


軽く夕方になっちゃう。

お酒を呑むより不毛な時間だ。


せっかく会話をしない期間でリフレッシュしていたところなのにこれじゃまたすぐに元どおりになっちゃうじゃないか。


急げ急げ。


「うーわ。 うわー……高校ってこんなんやるの? なんか記号とかやったら長いイミフな文章とか。 魔術てきー。 魔方陣とかに書かれてそう。 あ、やっば、ちょっと興味湧いて来ちゃった」


「ある意味すごいわねぇゆりか。 ……でも本当、何書いてあるのか分からないわね……なんで数学でこんな長い文章書くことになるのよ? あと何この記号だらけなの……私たちこんなのやるの……?」


「あの……」


「りさりん、頭使ったしおなかすいたー」

「そういえばそうね」


「えっと」


「もともとお腹が空くまで適当に本屋でもって感じだったんだし、まだちょっと早いけどお店はもう開き始めているわよねー」


「僕はそろそろ」


「お昼行っちゃう? 良いって言ってくれたら響さんも友池さんとお友だちも誘って。 せっかくお友だちになったんだし!」


会って10分で友だち認定はちょっと早すぎるって思うな。


眼鏡さんもそう思うでしょ?


「だから」


「良いねぇ! えっと、全部で……5人? 結構な大所帯になりそー」

「だったらまずお店決めるところからね。 みんなの好みとかあるだろうし……あ、食事制限とか響さんは大丈夫なのかな。 入院してる人とかってそういうのあるって」


「……………………………………」


「響はだいたいのもの平気だって言ってたし平気っぽい! あんま食べないけど」

「そうなの」


聞いてくれない。


なんで聞いてくれないのこの子たち?


無視してるわけじゃなくて単純に耳に届いてない雰囲気。


「……………………………………」

「……………………………………」


眼鏡友池さんと視線が合い続けている。


……君なら僕の気持ちをよーく分かってるでしょ?


助けて?


「……僕は迎えが」


「あ……あの………………………………お会計終わって、すぐそばにいるみたいで。 私の、その……………………………………友だち、が。 もう来るって」


分かってなかった。


「友池さんたちも、ご飯。 よければこのあと一緒に食べてく?」

「………………………………………………………………えぇ、よろしければ」


「………………………………」


僕はしょげたけどがんばってみる。


……中学2年の子供に良いようにされてたまるかって気合を込めてみる。


「あの、済まないのだけど」


「さよちゃ――――ん、お待たせ――――っ!!」


僕のか細い声はそのでっかい声に吹き飛ばされた。


……間に合わなかった。


失敗したんだ。


しょうがない、またひととおりの自己紹介合戦が終わるまでは辛抱しよう。

それが終わったら今度こそは帰るんだ。


なんとしてでもご飯の前には。


だって今日は煮卵がいい感じの味のしみ具合なんだ。

ラーメンなんて重いものはこの胃はお昼でないと受け付けないんだ。


だから僕は帰るんだ。


「さっきの電話あまり聞き取れなかったのよーごめんなさい。 でも屋内だし並んでいたから長くなってしまってもって思ったのよ。 アナウンスの声とかって電話するときにはジャマよねぇ、普段は聞き逃してしまうくらいなのに。 でも、待ち合わせにはけっこう早いけどどうしたの? 急にこのあいだ話した響ちゃんのことを聞きたがるなんて……あ、響ちゃんについてまた聞きたくなったのかしら!!」


怒濤の文章がひと言に凝縮されて発せられる。


僕はゆっくりと振り向く。


振り向いた。

そして見上げた。


「……………………………………」

「………………………………?」


くるんっとかしげるくるんくるん。


……いや、分かっていたんだ。

第六感でなんとなく分かっちゃってたんだ。


振り向くと……いろんな意味ででかい下条さんがそびえていたんだ。


なんで君がここにいるの?

……呼ばれたからだよね……。


「………………………………ってあらあら、そこにいるのは響ちゃん?」


人違いです。


その辺を無作為に抽出したら絶対に1人はいる感じの男だったときの僕ならまだしも、長い銀髪で背が低くて……な今の僕は言い逃れできない。


そもそもこの服装もこの子が選んだものだしな。


もう終わりなんだ。


「ほんものよねぇ、その格好だし。 最近見ていなかったけどその格好をしているとほんとうにまるで…………」


なんかほっぺに両手を当ててトリップし出すかがりさん。


ああ、この子はいつでもマイペース。


「およ? 響? 響ちゃんだなんて……そんなかわいい呼び方されてるの?」


ぐいっと僕の肩を引き寄せられて抱き寄せられたけど女の子な部分が当たらないから平気。


でもやっぱり良い匂いがして困るんだ。

年下でも異性は異性。


……精神的な性別が大切なんだってよーく分かるな。


「あらあら?」

「うぉでけぇなにこれりさりんなんか目じゃねぇ……」


気持ちは分かる。

中学生どころか一般的な女性にあるまじきでかさ。


ゆりかがこの場のみんなの代弁者だ。


「……………………………………」

「……………………………………」


ひと呼吸置いて……なぜかメロンとレモンがすっと対峙する。


僕を挟んで。


目の前にはメロンの気配が……うなじにはレモンの気配が詰め寄ってくる。


なんで?


っていうかなんか怖くない?

どうしちゃったのふたりとも。


「響ちゃんと仲良さそう……響ちゃんのお友だち?」

「響? ちゃん付けって響的にオッケーだったん?」

「そうよね、響ちゃんって人とおはなしするのが面倒くさいだけで人見知りではないものねぇ」

「ひびき? 響の性格知ってるけどヤなものはヤだって良いなよ? なんなら私が言うよ?」


前と後ろから全くの同時に話しかけないで欲しい。

まるでヒマなときに聞いてるイヤホンで聴くあれみたいじゃないか。


そうして僕の上で視線が合っているらしいふたり。


僕は蚊帳の外なのに中心だ。


「………………………………」


メロンが近づく。

レモンが密着したらしいのが分かる。


あー、ブラジャーって形が崩れないようにって意外と硬いんだよね。

そういう説明を受けて選ばれて買わされたから知ってるよ。


でも男に「当ててんのよ」は行けないって思う。

たぶん男って見られてないんだろうけど。


だって肉体は幼女だしな。


「……………………………………」

「……………………………………」


何かを言いたげなふたりの無言が突き刺さる。


遠巻きにしているらしいりさりんと友池さんは気配すら感じない。


……めんどくさがっていつもどおりにネットで注文して今日は適当に過ごしておけばよかった。

そうしていたらこんな面倒くさいことにはならなかったのに。


どうして今日に限ってやる気なんか出しちゃったんだろう。

どうして今日に限ってめんどくさがらなかったんだろう。


「響ちゃん?」

「ひびきー?」


どうして女の子っていきなり声が低くなるんだろう。


誰か教えて?





「……………………………………」


誰も教えてくれなかったし疲れた。


もうすぐにでも寝たい。


せっかく別々に時間を調節してうるさくならないようにって、顔を合わせないようにって気を配っていた下条さんと関澤さんとがまちがってエンカウントしてランデヴー。


そうしてちょっとのサイレンスの後、僕は両手を片手ずつつかまれてアブダクト。


その先はいつも彼女たちと会っていたファミレスだ。


『いつもの…………そう』

『へぇ。 いつもなんだ』


「いつもの」って言ったらもうワントーン声が下がったのが怖かった。


漏らしそうだった。


トイレを早めに行く習慣がなかったら多分漏らしてた。

危うく男どころか人としての尊厳を失うところだった。


なんで女の子はぜーんぶ……1から100までみんな話しておかないことについてここまで怒るの……?


別に良いでしょ、他人なんだから……駄目なの……?


駄目なんだよね、今日思い知ったよ……。


しかもふたりだけに説明するならまだしも、この場にはりさりんこと杉若さんと眼鏡さんこと友池さんも同席している。


なんで「友だちだから!」で新しいふたりの前ではじめっから説明しなきゃならなかったの……?


女子ってそういう種族なの……?


そういう種族だったかも。


「……………………………………」


煮卵は帰ったらすぐに容器を移そう。

それでお酒を呑んで気持ちよくなるんだ。


4人の中学生の前で説明させられた代償は強烈だ。


……別に経緯を話すのは良いんだけど、僕は何でかボックス席の「お誕生日席」っていうところに座らされてずっと4対の視線に晒されていたのが効いている。


そっかぁ、人生で初めて座ったけどここって注目されたくない人間にとっては苦痛でしかないんだ……。


帰ったら奮発したけどもったいないって思ってたお酒飲もう。

こんなときくらいたくさん飲んでもいいだろうしさ。


「んで、いろいろごっちゃになってるからここは考察班な私が話を整理してみると」


そういやゆりかってアニメとかマンガとかゲームの設定を考察する掲示板に出没しているとか言ってたっけ。


そんなどうでもいい情報が頭をぐるぐるする。


「まず響は、さるお金持ちの家の子。 しかもそんじょそこらの小金持ちじゃなくてガチの」

「………………………………」


まぁ間違ってない。

僕自身が僕自身の判断で僕自身のために使えるお金がたくさんあるのは本当だし。


問題は幼女になっちゃったもんだからそれを引き出せなくなってるってことなんだけど。


「響? まちがってたりこういうのイヤだったら言ってね?」

「……………………………………」


間違ってないから良いです。

そういう意味を込めての沈黙。


それにどうせ「やだ」って言っても謎の尋問は続くんでしょ……?


「大丈夫っぽいねぇ……あいかわらずだねぇ……。 で、どんだけかっていうとメイドさんとかいて着替えとかからお手伝いされるレベルで? でも響はそういうの嫌いな感じ。 んで送迎と護衛をいっつもされてるくらいの過保護で、あと年の離れたお兄ちゃんっ子」

「………………………………」


メイドさんとか執事さんとかはかがりさんの妄想でお兄さんは僕です。


なーんて言ってもどうせかがりが「私見たもの!」とか何歳児かって感じで言い張られるからそれで良いや。


こういうのって何歳のときかに大体の子供がなるんだってね。


「でも響ちゃんはこの春、私たちと会うまではずっと病気で入院していたのよね? あと、今もまだお家で療養中だって聞いたわ!」

「………………………………」


何故か威張っているメロンさんがいる。


「こっそり……といってもお付きの人が傍にいつもいるらしいのだけど目立ちたくないっていう理由もあって、お兄さんの服を着てお家を抜け出すくらいにはやんちゃさん。 それで、前からそこの……ええと」


「私? ゆりかだよ?」

「ごめんなさい、ゆりかちゃんと『も』『お友だち』なのよね?」

「うん。 私『も』響の『お友だち』だよ?」


トーン下げるのやめて?


「……………………………………」

「……………………………………」


「………………………………この夏は君たちとの。 せっかく知り会ったんだからということで……外との友だちを作るという理由で許可を得て外出している。 …………あぁ、そんな感じだ」


こうでも言わないと納得しなかったからしょうがない。

僕は無言のプレッシャーに負けてかがりが納得してくれそうな論理を引き出した。


ようやく必死のつじつま合わせが上手く行ってこっそりため息。

どうにかこうにか齟齬なく繋げられた……と思う。


少なくとも今、疑問を投げかけられない程度には。


嘘じゃない嘘って大変なんだな。


4人から注視されながら話すのとっても苦しかったんだけどなんとか乗り切れた感じだけど、僕、もう帰りたい。


帰っちゃ駄目?


駄目っぽい。


懐かしい小学生の頃の帰りの会を思い出す。


そうだよね……君たちは2年前まで小学生女子やってたんだもんね……そりゃそうだよね……。


「響ったらけっこう大胆ー。 いやまぁさ、今思えばそこかしこにそのヘンリンはあったんだけどさ。 それにしてもそこらのマンガとかのキャラよりよっぽどマシマシだよねぇ響の属性」


だって盛りに盛ってるし。


「事実は小説を越えるってほんとーなんだねー」

「波乱なのね……生まれも違うって感じだし別世界の話すぎて実感がないくらいよ。 人並み外れて……背が低いし、美形だし。 髪の毛が羨ましいし」


「あ、髪の毛すっごいよね。 日の光苦手だからいつも隠してるけど」

「あら、そうだったかしら?」


左側にはレモンさんとりさりんさんが座っている。


「でも……そう、体が。 ずっと病院にいるほどだったの……でも退院できてほんとうによかったわね。 でも、まさか………………………………あの、知らなくって連れ回しちゃってごめんなさいね?」

「大変だったけど平気だ。 大変だったけど」


その件についてだけは強気で文句を言っておく。

口を尖らせるも気がつかれないのは知ってたけど。


「それにしても、洋館、召使い、メイドさん…………セバスさん…………一族。 いいかも…………」


かがりさんが謎の詠唱を始めた。


「おや、魂が疼くかい下条さんとやら」

「たましい……えぇ………………………………、とっても良いわね……」

「ぐっときておる。 闇の住人か」


それにゆりかが共鳴している。


ここは本当に現実世界なんだろうか。

ひょっとして魔法さんのせいで幻覚とか見てない?


「………………………………ほんとうに、そういうご家庭、あるんですね…………」


話が途切れてちょっとした静けさに口を開くさよ・友池さん。


話すの苦手にしてはこの子、けっこう話すらしい。


「…………ふつうです、あ、私の家は…………ですけど………………私も体が弱くて、何度も入院と、それと、手術……しているので。 気持ちが、響さんの。 分かる気がします…………。 同じくらい、過保護にされすぎると、嫌気が差す、というのにも、……です」

「おおう、こっちもまたディープなのをさらりと」


そして右にはメロンメガネが塞いでいるんだ。

ついでにメガネさよさんは本当のご病人だったらしい。


……なんかごめんなさい、こんな嘘ついて。


「………………………………」


僕から言っておいてなんだけどこの設定、どう考えても現実感ないよな。


今までばらばらに言っていたのをまとめただけで僕のこれまでをアレンジしたものだから完全に創作っていうわけではないんだけど……だからって、いくらなんでもこれはなぁ……。


盛りすぎでしょ……なのにこの子たちは4人とも疑っている様子がないのは何でなの?


この子たちにとっては本当のことに聞こえるの?


疑うことを知らないのか、それともマンガや映画といった文化に毒されているのか。

それともいきなり疑うのもアレだしって追及しないでいてくれているのか。


男女以前に世代が違いすぎるからその辺がいまいち分からない。


けど「本当にそう思う?」とか聞いたら絶対めんどくさくなるからこのままでいいや。


それに僕には人の機微ましてや女性の子供の女子なそれを察するなんて高度なことはできないから、この子たちから問われない限りは分からないし分かりたくない。


まぁ、今は表面的にでも納得してくれているってことは突っ込む気はないってことって理解。


「………………………………」


それにしてもやっぱりはじめから隠さずに魔法さんのこと以外はぜんぶ話していれば、これだけ悩んで胃がしくしくしなくってどれだけ楽だったことか。


この体になった直後で混乱していたからとはいえ、方針も設定も固まっていないあのときに「どうせ1回しか会わないでしょ」とかいう謎の自信で外に出たのがそもそもの発端。


まぁ実際あの状況でこれが現実なのかどうか把握するにはあれくらいしか思いつかなかったわけだけど……もう少しやり方無かった……?


無かっただろうなぁ、あれがあのときの僕が選んだ行動だもんなぁ。

後悔しても遅いんだ。


それに、くるんとぱっつん。

この2人とここまで付き合いが濃くなるなんてあの時点では想定できるものじゃなかったんだし。


できたとしたってせいぜいが萩村さんと元悪魔な今井さんだけだ。


いやぁ、それにしても久しぶりに肝が冷えるって体験をした。

針のむしろだったな。


ちなみに久しぶりって言うのは言葉の分からない外国を旅行してたときに車にひかれかけたときが直近。


命の危険と同等な危機感を覚えるんだからやっぱり女って怖い。


話し終わるまでずーっと声が低いままだったから怖かったし。

きっとそっちが素だったんだろうな。


女って怖い。


女性って電話のときとか咳払いもせずにボイスチェンジするしな。


ということはここにいるみんな……いやメガネさんはハスキー系だから違うかな……3人は外向けの声を作っているの?


女って怖い。


もっと男の単純さでいればみんな幸せなのにね。


ひとり怯える僕を置いてきぼりにして……みんなは僕のことを聞いてひととおり満足したのか会話に花を咲かせている。


お互いのことについてとか夏休みの宿題のこととか、まぁ学生らしいたいしたことじゃないんだけど。


「………………………………」


だけど。


もう芯から疲れ切っているから帰りたいんだけど、あえて忘れていたんだけど……僕が座っているのはお誕生日席で左右にふたりずつでブロックされているわけで。


つまりなにかというと……話をしながらみんなが食べ終わって満足するまで逃げられないんだ。


「………………………………」


「? 響ちゃん? ひとくち食べる?」

「あ、ずるいっ」


そうじゃない。

そうじゃないんだ。


……こうなったらなるべくこれ以上の余計な設定を増やさないように最低限で使い回す。

そうして矛盾が起きないようにするのとなによりに僕自身がそれを覚えていられないっていう課題をクリアしないといけない。


それで良い具合にそっと抜け出して帰るんだ。


「………………………………………………………………」


僕にそんな高等なコミュニケーションできるのかな。


無理だろうな。

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