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46.X10話 さよと本と感傷と その1-2


さよに続いて本屋に入ってから少し。


こそこそと尾いていくついでに、いろいろと物色していく。


「ふむ」


少し見ない内に品ぞろえがすっかり入れ替わっている。


……そういえば、こうして本屋に来たのも半年ぶりくらい?


だって9月の始めで寝ちゃって、起きたら真冬で、そんでもってあの年越しからの入院ってわけで……とっても忙しくって。


だから、こうしてひとりで出かけること自体がほとんどなかったんだし。


思えば相当に僕の主観では忙しい時間を過ごしてきたんだ、そりゃあ当然にこうなる。


この数年間の平穏が嘘みたいな幼女生活。


そうしている内に良い感じの本が見つかる。


よし、積んでおいたあんまり目立たないここにさりげなく置いておいて、あとで戻ってこよう。


今の貧弱な僕の腕じゃ持てて3、4冊だもん。

力がなさ過ぎて小脇に抱えるってのすらできないのが悲しい。


腕自体が短いっていうのもあるのかな?

どうなんだろう。


けど、本屋って楽しい……あ。


そもそもさよをストーキングもとい観察していたんだった。


あわてて彼女をちらっと見に行くけども、数歩移動してただけだった……危なかった。


けど、さよも相当な本好きなんだね。


ずっと本を見て回っているし、かなりの数をカゴに入れて歩いている。

女の子の腕力であれはそろそろ厳しいんじゃないかって感じ。


僕たちが本屋に入ってから結構経つ。


僕はすぐに疲れる体だから、本屋の正面にあるベンチで休んでは戻ってを繰り返しているけども、あの子はずっと立ちっぱなしで吟味しているんだもん。


これだけ眺めていられるっていうのは、下手すると前の僕よりも体力があるんじゃないかって感じ。


いや、さすがにないか。

ないはず……たぶん。


……いや、年中ごろごろしてるニートとがんばって学校行ってる学生とじゃ、体力的に負けていた可能性すら……。


なんか落ち込んできた。


どうしよう。


落ち込んできたけども「僕もそれなりにいいものを見つけたし」って元気になる。


帰ったら……ん、もうお昼が近い。


朝ぶらっと出て来て、見つけたさよを観察しつつ本を巡って回って。

とっても有意義な時間だったけども、そろそろ頃合い。


目的がいつの間にか変わって本屋の中でうろうろしてただけで満足しちゃったし。


かなり疲れたし、軽く声でもかけて軽く話して帰ろ。

見つけた本を見せ合うくらいなら、さよも楽しんでくれるだろう。


そうして気分を紛らわせてから帰って本を読むんだ。


うん。


なら、まずは僕が見つけた本たちを……いい具合のところに積み上げておいた本たちを買っていこう。


……そうだ、手が小さいんだからカゴに入れなきゃね。


入り口だっかな。





「?」


僕は目の前の光景が理解できない。


「??」


僕は固まる。


「……え?」


この棚のすみっこ、ちょうど凸凹しているところに今日の収穫を忍ばせておいたはずなのに。


ない。


ない?


何かがおかしい。


……積んでいた本たちが、僕が目立たないようにって積んでおいた、重くて持ち歩けないからって僕用に置いておいた、ここに、ない。


「あれ……」


結構雑に平積みされていたこのエリア。

さっき置きに来たときとは変わっちゃっていて、どの本もほとんど均等になっている。


さっきまではもっと凸凹していたのに。

……その凹なところに隠しておいたのに。


それが、ない。


ない。

ない。


なくなっちゃっている。


僕が置いておいた、見つけたはずの何冊もの本が、ない。


……店員さんに片づけられちゃった?


脚の力が抜ける感覚。

体力が少ないからこそ分かる絶望感。


……いや、僕が悪いんだ。


そもそも買うつもりがあるんだったらカゴに入れて歩き回ればよかっただけの話。

なのに横着をしていい感じのところを見つけて置きっぱなしだったんだから。


横着せずに取ってきたカゴに入れておけば「お客さんのなんだね」って、「買うつもりあるんだね」って思ってもらえたはずなんだ。


それに本って、普通の人は買っても1、2冊。


さらに、元々置いてあった場所から離れておいてある本は……たとえ誰かがまとめて置いたって分かるようなものでも「きっと買わずに帰ったんだ……戻しに行かなきゃ行けないこっちの苦労考えてよ」って判断されるのが常識なんだろうから。


だから、僕が悪いんだ。


しょうがないんだ。


だって、本を置き去りにしたんだから。


子供と本は置き去りにしちゃ行けないんだ。


さよの様子を窺うのと本を選ぶのとで忙しくして、うろうろしていて……置きっぱなしのままだったんだから、ここへ来るのを忘れていたんだから。


がっくりときた。

久しぶりの脱力感。


失敗したっていう、やるせなさ。


喪失感。


「はぁ……」


僕はもうだめだ。


自然にため息が出る。


「…………」


……冷静に考えてみると大したことじゃないんだけども、なんだかすっごく落ち込むのが僕。


なんでこんなにもやもやするのかは分からないけど、もしかしたらこれが女の子の体になったから感情が出やすくなっている証なのかもしれないけど、それはもうどうでもいい感じ。


……集めていた本の大半は、大体どこにあったか覚えてるし。


うん、そうだ。

悲しんでいる場合じゃない。


早く済ませないと、さよが帰っちゃうかも。

そうだ、最初の目的は彼女と軽く話すっていうことだったんだから。


うん、それならさっさともういちど回って1冊でも多く救出してから買って、それから早くレジへ行って、それで彼女と軽く話をするって言う普通の人みたいな爽やかさで帰るんだ。


「……あ……あの……」


そうだ、最初の1冊はここにあったからなんとなくでここに集め出したんだった。


だったらまずはこれをカゴに。

この調子で他の本も探しに行こう。


「あの、……えっと……ひ、響さん……?」


「ん?」


記念すべき1冊目を手に取ったまま、僕は横からの気配を感じて振り向いて顔を上げる。


僕からするとほどよい距離……1メートルくらい離れたところ。


顔が前髪とメガネで包まれていて、横へ垂らした髪の毛はおさげになっていて、ワンピースにカーディガンっていうこの時期としてはちょっと寒そうな格好をしている少女。


友池さよが両手でカバンのヒモを握りつつ……よく見慣れたように、おどおどとしつつ立っていた。


あれ?


なんでこの子がここに?


……あ。


僕、けっこう長い時間ここでしょげていた?


そんなに?

それで、気がつかないうちに気がつかれちゃっていて?


さっきまでは逆だったのに。


え?


僕ってそこまでぽんこつだったっけ?


「……やっぱり、響さん……でした……」

「あ、うん」


こういうとき、どうやって反応すれば良いか分からないのが僕。


「み、見間違いかって思った……んですけど、でも、響さん……みたいだったので……」


ゆっくりと近づいてきて、50センチくらいのところで止まってくれる。


そう、僕にとってもさよにとっても心地よい距離まで。

だって彼女と僕は、在り方がとっても似ているから。


だからなんか落ち着いてくる。


「おはようございます……あ、ち、違いますね、もう……」


挨拶を間違えて落ち込んでるさよ。


うん、分かる。


僕たちみたいなのは会話の数が少ないもんだから間違えやすくって、で、帰ったらのたうち回るんだよね……。


「……ここで会うだなんて、初めて、ですけど……響さんも本が、読むのが、好き、でした……なら、そう不思議なことでは。 いつもこの駅で……お昼とかお茶とか、していますし、お休みの日に、響さんが……この本屋さんに来るのは、当たり前、ですよね……」


全然用意してないタイミングで話しかけられると頭が動かない。


けどこの子はすっごくゆっくりしてるからだんだん気持ちが落ち着いてくる。


うん、こういう間が大切なんだ。

かがりとかゆりかとかりさとかみたいにいきなりテンションMAXで話しかけてこないありがたみ。


彼女は軽く屈んできて、目線が近づくと前髪が少し開く感じになって、しかもメガネのフレームの上から見つめられる形になって、めったに見たことがないさよの裸眼が1対、僕の目と合う。


なんとなくそれが輝いている感じがする。


不思議な気持ち。


普段は髪の毛とメガネと距離とで隔てられているはずなのに、だけども普段からよく顔を合わせているのにね。


……でも僕、偶然とはいえこの子を見つけたからこそ観察しようと思ってここまで尾けて来たのに。


キリのいいところで「偶然会ったね!」って爽やかな感じでさよに声をかけようとしていたのに。


……いつの間にか僕の方が本に夢中になっちゃっていて、立場が逆転している。


ああ、僕は何をやってるんだろ。

いつもいつも失敗ばかりして。


……それもこれも、このひ弱な体が悪いんだ……きっと。


うん、なんかこの体だと集中力が持たないって言うか周りがあんまり見えないっていうか……うん、背が低いし、しょうがない。

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