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46.X5話 女装…… その2


ああ、もう僕はダメだ。


こんな写真を回し見されて正常な精神でいられるほど、僕は強くないんだ。


いや、弱いんだ。

そうなんだ。


中学生のこの子たちなんかよりも、ずっとずっと。

それこそ、この見た目のとおりに。


いや、下手をしたらこの子たちよりずっと幼いんだ。


だって幼女だもん。


それもそうか、だって今の僕はこの子たちよりも幼いんだ、だから。


「……あー、かがりんや、それとみなさん。 私もノっておいてアレなんだけど、そーろそろ褒めちぎるの止めて差し上げないとひびき死んじゃいそうよ? 恥ずか死ってやつで」


がたっと音がしたから見てみた方向にはすごい目してるさよ。


「や、だからほんとにって意味じゃないって……こんな気の抜けた良い方で危ないわけないからさよちんは安心して?」


いや、ここ病院だし……場所が悪いって思う。


とりあえずゆりかが……ようやくに、遅すぎるけれども助けを出してくれた。

僕は果たしてどのくらいの時間辱められていたのかは分からないけどね。


遅かったけどね。

君にも堪能されたけどね。


ああ。


「あ……え、えええええっと……響さんごめんなさいっ! ……あの、私もあまり…………顔、とか、見られ、たく……ない、という気持ち、分かっている、はず……なのに。 なのに、私、は…………」


「……いや、いいさ。 気にしないで、さよ。 そう、これは僕が招いたもの。 うん、良いんだ……」


さよの方が危なっかしいからちょっとだけ辱められた記憶が薄れる。


いきなり顔を赤くするほどに血圧と脈拍が上がっているさよは本当に体悪いんだからよっぽどに心配なくらいだし。


「でも、別に気にすることないんじゃないの? 響さん」


僕のことを随分と堪能していたりさりんが割り込んでくる。


「だって響さん、去年までは女の子としてやってきたわけでしょ? もちろん肉体的にも、れっきとした女の子なんだし」


ごめん、これ言っちゃうと1から説明しなきゃだから言ってないんだけど、僕男として生きてきた正真正銘の男だったんだ……証拠は物理的になくなってるけども。


「だから心が男の子だったとしたって、おかしなことはなにもないんじゃない? あ、私も響さんのそういうのについてちょっと調べたけど、今ので傷ついたりしたらごめんね? そういうとき、ちゃんと言ってね? 私、どこまで響さんのそういうのについて話したらいいか分からないからさ」


「おー、りさりん。 なんだか今日のりさりんは知的だねぇ」


「知的じゃないっって……茶化さないの、もう。 で……まぁ、普通に、女の子としての普通としてスカートの服装とかもしていたはずなんだし、今さら特段そこまで恥ずかしがる必要は……いえ、ちょっと待って」


スカートなんて穿いたのはこの1年になってからです。

その前に穿いてたら女装趣味ってことです。


でも今はスカート穿いてるから立派な女装家です。


……男に戻ったときにクセが残ってたらどうしよう。


「ねー、ゆりかー?」

「あい?」


む、急にりさりんの声が高くなった……これ、女性が怒る前のやつだ。


「ちょーっと、こっち来なさーい?」

「なんで? なんかりさりんの顔こわひ」


「いいから。 じゃないと本気で引きずってくわよ?」

「はい、わかりました」


「ほら、抵抗しないでさっさと来る」

「はい」

「ホントに分かっているでしょうね?」

「ハイ」


「……みんなはちょっと待っててねー?」


そう言い残したりさりんと首根っこ捕まえられた感じのゆりかが病室から出行って扉が閉まって、みんなイスに座ってくれて……僕の周りと部屋の密度が下がってほっとした。


って思ったらすごい声。


「なによ女装って!!」

「りさりーん、ここ、病院。 他に人、いる。 中、入って、静かにする」


「なんで急にカタコトになってるのよ……まったくもうっ、だからっ!」


静かになったって思って僕と同じように明らかにほっとしていたさよと……ハテナが頭の上でくるんくるんしているだけのかがりを見ていたら、出て行ったはずなのにすぐに戻ってきたふたり。


もっとも入って来たときとおんなじように母親に怒られている子供、いや、母猫と子猫みたいな状態になっているりさとゆりか。


……冗談じゃなしに、比喩表現じゃなしに……ゆりかが首根っこ、襟を掴まれてぶらんとしている。


「そんな話の流れだったら気にもするでしょ、常識的な人間だったら誰だって! ましてや響さんなんだし! あんたあんかよりもずっとずっとずーっと頭よくて常識そのものな響さんなら!!」


……あ、そっか……りさりんとさよはさっきまで居なかったから、僕が女装してるっていう話題知らなかったんだ。


知られたくなかったけども、今さら後悔してももう遅いよね。


「だからりさりんうるさいよぅ、耳元で廊下の端っこまで響く声出さないでよぅ、あとあといい加減に襟引っ張りながら歩かせるの止めてよぅ、チョークだよこれチョーク!」


「そういうデリケートな話題は絶対に避けなさいって、あっれほどさんっざんに言っておいたでしょ!? お正月に響さんから聞いてから、みんなで調べて! なのにここでそれ蒸し返したってこと!? そりゃあ、あんな顔するわよ!」


「だってぇひびきがいいって言ったんだよぅ、ひびきんがぁ! 平気そうな顔して! あと今回の写真な主犯はかがりんだしさぁ!」


「人のせいにしない!」

「せいじゃないもん!」


僕のことを想ってなのは分かっているから、それ自体は嬉しいんだけれども……その……やっぱり声が大きすぎるんだけど……?


運動部だからなのかなぁ……いや、嬉しいけどさぁ……。


やたらと熱くなっているりさと、珍しくしゅんとしているゆりか。

そしてあわあわとして言葉にならない言葉を発しているさよ。


……ひとり、こっちからは興味を完全に失いつつ僕の写真と思しきものを見つつ「えへえへ」って何とも奇妙な鳴き声を発して自分の世界に戻っているかがり。


つまりはとっても混沌としているのがこの病室という空間だ。

いや、5人も集まるとこうなりがちだった気もしないでもないけども。


……どうしよう、これ。


僕の話なのに僕の手から離れっぱなしの、この状況。


「その前の話よ、前の! なによ女装って! 響さんの性同一性……とかいうものは本当に大変なものなんだって分かったから避けましょうって、言っておいたわよね! あのとき!」


「だってぇ、りさりん」

「だっても何もないわ!」


「ふぇぇ……」

「ふぇぇでもないっ」


「ぴぃぃ……」

「……ゲンコツいっとく?」


「ひぇっ」


うん、やっぱりこの中じゃりさとさよは常識人だね。


いやまあふざけてないときならゆりかとかがりもまともな方だとは思うけども……ほら、結構いつもふざけてるからさ……。


まあ調子に乗りがちなゆりかと、どうしようもないかがりは今少しの成長が待たれる感じかな。


りさが怒り続けていると、いつ病室のお隣さんが……隅っこだからまだ大丈夫かもしれないけども怖い人が来たりしたら僕が怖い目に遭う。


それは嫌だ。


「……いいんだ、りさ。 ありがとう、怒ってくれて」


「響さん? ……いえ、ここは誰が見てもどー見てもこんのバカゆりかが悪いんだから、締めるときはきちっと締めないと!」


りさりんの後輩は大変そう……面倒見は良くても厳しそうだから。


「ううん、ゆりかとかがりは悪意があってしていたわけじゃないんだ。 あくまで友人として……多少の盛り上がりもあっただろうけれど僕を貶めようとして言っていたわけじゃないんだ。 それが分かってるから大丈夫だよ」


「そう……かもしれませんけど、でも!」


なんで急に声小さくなったって思ったら丁寧に話してるんだろ……けどりさは本当にいい子。


友達のためにこうして怒ることができる。

とても貴重な存在。


「この先……の学年だったり、高校だったり。 大学……社会。 そういうところ、もっとたくさんの人がいる世界に出たらそういうわけにはいかないんだよ」


僕は僕自身の人生経験がほとんどないから本とか映画とかからの借り物で言う。


「今だって、僕のような人に対する偏見……いや、知らないというものや誤解や歪められた情報しか持たない人たち、知っても理解はできない人たちが大半を占めているんだ。 だからこそそのうちきっと興味本位や悪意を持って、初対面で嫌なことを言ってくるというのも増えてくるはず。 それこそ、あからさまな嫌みとかだったりね」


僕自身は嫌なことに遭ったことはないけども小説の中じゃ意地悪な人はこれでもかって居るんだ。


きっと現実ならそうなんだろう。


「そっ、そんなことないです! 響さんに対してそんなことする人なんて!」

「そ、そだよひびき、世の中そんなに恐いものなんかじゃ」


「うん、もしかしたら違うかもしれない。 だけれどもきっと確実に、僕たちの想像できない思考回路を持った、自身の感情を優先して動いている人というものは存在するんだよ」


……「この子たちは結構純粋な女の子たちで、見た目も良いから悪い男に引っかかるかも」、そう思ったらちょっと大げさに言っておいた方が良いかなって思う。


「みんなは小説とかドラマとかアニメ、映画も好きだけども……その中に、創作だとしたってそういう習性を持つ人がいるっていうのは知っているはずだよ。 それが現実にも……そこまでではないにせよ、いるということもね。 創作は、現実を越えない。 悪意は、悪意から生み出されるものじゃない。 そのモデルとなる人物たちは現実に、確実にいるんだよ」


女の子になって分かったけど、女の子はとにかく人から見られる。


まぁ僕がこの通りの洋物幼女だからかもしれないけども、それ抜きにしても男だったときの何十倍って感じ。


この子たちもきっとそう。


だから「危ない人に着いてっちゃダメ」って感じのこと言ったつもり。


「……あの、えっとね? 響ちゃん」


そういえばますます静かになっていたなって思ってたらかがりが静かだったのか。

どおりで話の途中に唐突に遮られずに楽だったわけだ。


そうだよね、僕がこれだけ長く話すのなんて滅多にないもん。


「その、ね? 響ちゃん、ものすごく……何と表現するのかしら、ナーバス? シリアス? それとも神経質? そう考えているみたいだけれど……少なくとも私は響ちゃんのこと、たとえ社会に出たって誰も性別のことでなにかを言ってくる人はいないと思うのだけれど……?」


「?」


くるん?

かがりはそんな暢気な反応を返して来る。


……こういうのがほほえましいんだけども、男って言うのは獣。


警戒して損することはない……けども、さすがに言い過ぎちゃって部屋の空気が冷たくなってた。


そんな中をくるんくるんしながら一瞬で吹き飛ばす感じのかがり。


……一瞬「かがりがいて良かった」って言いかけたけどもよくよく考えたらこの状況そのものがかがりのせいじゃん。


君が何とかして?


僕はまたベッドの上で体育座りして待ってるから。

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