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46.X3話 偽乳と牛乳 2/2

「……つまりゆりかは胸がコンプレックスなんだよ。 そうやってかがり、君がわざとでなくても腕を組むと強調して煽っていると感じられるように」


「? …………………………えっ」


ここまで言ってようやくに自分の胸の話題だったのに気がついたらしい彼女。


ゆりかはともかく僕からもじっと見られていてさすがに恥ずかしくなった様子。

胸を隠すように抱いて目を逸らしたメロンさん。


……なんだか初めて女の子らしい反応を見た気がする。


「……まぁもういいや、怒りを抱いてもしょーがないってのはよくよく分かってることだしさ……許せはしないけど。 んでさ、話は変わるけど。 いや続きみたいなもんだけどさ」


「……まだ続くの? 僕は出ていった方が」

「まぁまぁ、これからが本題なのよひびき」


本題?

でも僕は必要ないでしょ?


なんならこういうのは君たちふたりだけのときにしてくれないかな……なんで女の子ってこう、他人を巻き込むの……?


「そんな仲間たちでもさ……なんての? 偽乳とか言ったりするソレ、パッド入りブラ。 悲しみの余りに思わず自分でってのはあるけどさ、でもソレを誰かから勧められた子なんていなかったんだけど? あ、もち私も含めてね……お母さんにだって言われたことすらないよ。 ちなみに自分からつけてた裏切り者は処したけどそれは置いとくとして」


裏切り者?


……いけないいけない、今のゆりかに構うととっても良くなさそうな雰囲気。


空気に徹していよう、空気に。


僕は空気だ。

反応してはいけない。


女の子同士のこういう会話、「僕は聞いてませんよー」って感じにしつつもその場に置物になるって言う高度な技術が必要なんだ。


「かがりんはいったいどこからそんな冒涜的な考えをお持ちになったの? ぱっと見、小学生でブラが要るか要らないかって年齢に見える響に、ホント、どーやったらそうしよって思えたん? それは犯罪者の思考だよ? ねぇ? それともそのお店になんかそーゆーいかがわしいマニュアルでもあったの? ねえ? ねぇ??」


「だってかがりだから」って思ってたけども、確かに気にはなるよね。


「え? マニュアル? そういうものは特になかったわよ?」

「んじゃなんでなのさかがりん! あてつけか! あてつけなのか!!」


「あてつけでもなんでもないわ? それに私は早くから必要になったから」

「ぐぬぬぬぬぬぬぅ」


「なったものは仕方がないでしょう? ……だから自然と着けていたから、誰かに特別に聞いたわけではないのだけれども。 でも、書いてあったもの」


書いてあった?

聞いた、じゃなくって?


……まさか。


いやいや。


けどかがりだからもしや。


「……かがり。 一応聞いておくけれど、どこに? 書いてあったって」


嫌な予感はするけども聞いてみる。


「それはもちろん私が大好きな少女漫画によ! 一般常識って書いてあったわ!」

「ふぁ!? マンガぁ!?」


その大きなメロンを張り出すようにして満足げな顔をするメロン。


「恋愛漫画や小説でお胸の大きさに悩むヒロインの女の子が……そういう場面があったのよ。 だからお胸が小さい子ってそういうものなのでしょう? だってあのときの響ちゃん、お胸のことを気にしているように見えたものだから。 だから漫画の女の子たちみたいに不便でない程度に盛ることのできる可愛いブラを」


していないしていない。

いや、あのときはしていたんだっけ?


……ダメだ、思い出せない。


「お勧めしてあげたの!」


お口が開きっぱなしのゆりかと目が合う。


「それに、そういう説明をしても響ちゃん、別に嫌だとかも言ったりしなくって私が選んだかわいいものをいくつか買ってくれたもの! だから良いお仕事をしたのよ!」


「いやいや……いやいや、いやいやいやいや!?」


……確かにあのときは、女の子の体になってどんな反応すれば良いか分からないもんだからって諦めきって着せ替え人形になっていた。


当時はかがりの言うことが正しいんだって。


服屋の店員さん、しかも高校生に見えたこの子の言うことが、女性の……たとえ小学生に見えたとしても一般的なことなんだと思っていた。


だからこそパッド入りのあれを初めの頃に何回か着て、そうしたらなんだか不思議な高揚感があって、でも慣れてきたらすぐに飽きてタンスの奥にしまい込んであるあれを勧められるままに買ってしまったわけだけれども。


どうも、ゆりかの反応を見る限りでは……普通じゃない。


僕は女歴がもうすぐ1年になるのを前に衝撃を受けた。


「いやいやいや、だからねフツーは……って言っても響みたいな上流階級っぽい、てか確実なとこは置いといて……あ、いやたぶんどこでもおんなじだわ。 うん。 一般的にはどんな環境だったってフツーの女子はパッド入りブラなんて……コンプレックス解消のために自分から選ぶ以外にはないからね? いや、マジで。 そんで人には絶対言わないし。 あ、見栄とか見栄えってのもあるけどそれは裏切り者だ」


「え? そうなのゆりかちゃん? ……い、いえ、でもお友だちの中にもそうした方がいいからってお姉さまやお母さまに言われてしているっていう子が」

「それ家族だからね!? 秘密、言っても平気な距離の人たちだからね!?」


「……え」


それを聞いて固まるかがり。


僕はずいぶんと前から固まっているけれども。


かがりから僕を隠すように、すすすすーっと背中を向けながら……両手を広げながら近づいてくる……後ずさってくるゆりか。


「……ま、まぁ、響が同級生だって聞いていたって。 どー見てもロリロリしい、あるいはショタショタしい響に胸、盛るなんて発想したかがりさんが。 うん、私よりも背の低い響に対して……つまりは銀髪ロリ巨乳に仕立て上げようってしてたってゆ――……えっと、その。 つまりはやっべーお人だってわかって……ね?」


こつんと背中が僕のおでこに当たったと思ったら振り返ってきて……なんだか悲しそうな顔をしながら僕を抱きしめてくるゆりか。


……なるほど、レモンだ。


あるとは分かるけれども……ブラジャーの柔らかい丸み……あぁ、パッドじゃなくって形を守るためのそれでできている丸み、だってレモンさんだから……それを顔に、目元にふたつ感じる。


頭の上から悲しそうな声が降ってくる。


「……私。 正直。 少し。 ちょっとだけ。 ……ううん、いや、やっぱりね、それって……ヒく、か、なぁ……? ……ね、ねぇ響? 他にはヘンなこと、されてないよね? 響が無知だからって、そんときは今よりも警戒心なかったからって言って体許したりしてないよね!? 例えば剥かれて下着をかがりの手で穿かされたりとか着けられたりとかしてないよね!?」


なんか本気で心配してるっぽいゆりか。


……かがりって純粋過ぎるからそういう危ない気質は持ってないって思うよ。


けども嘘は良くないこと。

どうせいずればれるんだ、ひと思いに言ってあげよう。


「うん。 上だけだけどね。 ブラジャーのつけ方というものを教わったときに脱がされた。 ああ、下は流石に断ったよ」

「響ちゃん!?」


女の子同士でも体育のときとかプールとかでお互い見たりするんじゃないかなとは思うけども、さすがに初対面とかそれに近い状態でするのは女の子同士でも普通じゃないっぽいね。


「ねぇ、かがりん? 響のこと、つい最近までは女の子だって思ってたんだよね? 幼女だって思ってたんだよね? なのに知り合いの段階から……一見さんの状態でハダカに剥いていたりしていたの? 私、ブラ初めて買うときだって何個か持って来てもらったくらいだったよ……?」


くるりと回って僕を見下ろしてぱっつんな髪の毛が僕の顔にかかるくらいまで近づいてきたゆりか。


「ね、響。 ほんと。 念のため。 念のためだよ? 今後はね? そ、その……かがりんとふたりっきりになるのだけは避けた方がいいかも。 いや、マジで。 ホントマジでよ? ……響が男の子だって知ってる今だからこそ本気で。 私からの忠告。 うん。 なんか危険な香りがするの……」


かがりはかがりだから問題ないと思う。


ゆりかの考えているような「そういう危ないこと」なんて起きるはずがない。

この子の場合はただ単純に着せ替え人形をしたいだけ。


お人形さん遊びをしたいだけ……ってのを言ったらまた大変なことになりそう。


「……大丈夫だと思うけど」


「その油断! だって響だから! その隙の多さが乙女……あ、いや、えと……乙女の反対な表現分かんないけど、とにかくカラダの危機なんだってば! つまりは貞操の危機ってやつなの!」


何がどうなってこんな話題になったのかは分からない。


けどかがりは大丈夫だって思う。


……でもかがりの近さは普通じゃなかったみたいだから気をつけはしようって思う。


あのゆりかがここまで本気で心配してるもん。

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