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50話 幼女にTSしたけど、ニートだし……どうしよう 1.9-2/2

漆黒の宙に広がる無数の構築物。


それらは様々な形をしていて……円形のものと円盤状のものと円錐状のものが多いが色も大きさも一貫性がなく、ただただ仲良く、ぶつかるにはあまりにも離れすぎている距離を置きつつ宙に浮いている。


星々とは違って自らが人工的な光を放っている――そして光で頻繁に通信をしているそれらは、人が造りだした物という1点だけで共通しているもの。


それらは基本的には静止しているが、それらよりもさらに小さいものたちもまた光を放ちつつ高速で行き来しているのが……近くまで寄ればよくわかる。


その小さいものたちも数え切れないほどにあり、行き来も頻繁。


よくぶつからないものだと感じるほどの量だが……そこは3次元の宙、しかもそれぞれの静止している構築物たちはそれなりに離れているわけで、だからこそ事故などは起きないのだろうと予想される。


その構築物たちは……現在の拠点としている恒星の周りに点在する星々を――いくつかの都合のいい惑星の周りを周回する軌道に乗っているものが大半であるため、厳密に言えばただ宙に止まったまま浮いているわけではない。


星の動きが緩慢だからこそこうして止まっているように見えるだけで……時間単位で見てみると、みな少しずつ規則的に動いている。


さて、その中の惑星のひとつ、いちばんに構築物が群れるように張り付いていて大人気のその星。


外からはきらきらと光るちりが輪のようになっているように見えるほどにまで特別に密集しているその惑星には、全く手を加えずとも居住可能な穏やかな大気と水と、そしてなによりも少ないながらも陸地があるために……原生生物が、知的生命体がいなかったために。


これまでの長期間……何世代ものあいだずっと無機質な材質の中に再現した自然というものをむさぼるしかなかった人々が、大挙して訪れている。


もっとも人口があまりにも多すぎるため、実際に降りてこられるのはほんの一握りに過ぎないのが不満の種だが、似たような……一部の区域だけを覆って人工的に似たような自然という物を造りだした惑星も複数あるために、そこまでの騒ぎにはなっていない。


そしてこの大人気の惑星は……ここから移動してしまう前に、せめて1回はは訪れたい、そして住みたい。


それが無数の構築物たちの中に住んでいる人々の共通の、憧れの夢となっている……らしい。


大気と海があると言うことは青を基調として白い雲に覆われた部分がところどころにあるわけで、さらには点在する陸地のおかげでただの青と白の2色だけではないその惑星の……綺麗で、まるで「地球」のような惑星の、けれどもあきらかに渦を巻く雲と陸地が少ない……そこの、赤道付近にある小島のひとつ。


そこで、幼い少女が声を上げる。


いや、金切り声を。


「まったくも――! なによなによ、いっつも! もうっ、あなたって子は!」


「……姉さん」


「なに!」

「うるさいぞ、迷惑になる」


「だーれが迷惑になるのよっ! どーせ防音が張られているんだから誰にも迷惑はかけないわよ!」


「違うよ、僕が迷惑なんだよ。 僕はうるさいのが苦手なんだって」

「……~~っ!」

「わかってくれた? いつも言っているけど僕は姉さんみたいに」


「私の話を聞きなさいったら! 私はあなたのお姉ちゃんなのよお姉ちゃん!」

「……はぁ……」


言えば言うほどにエスカレートしていき、言いたいことを話し終えるまでは何をしてもどう言っても……逃げても無駄。


しかも今は……いや、先日から今まで、そして当分には逃れられそうもないため、選択肢はただひとつ。


耐える。


ただそれだけ。


「姉」を持つことになってしまった「弟」の宿命だ。


――見渡すかぎりに海と水平線しか見えない小島でありながら、小島といいつつもそこそこの面積を誇り、さらにはいろいろと条件がそろっているために「連合艦隊」――呼び方は出身ごとに異なるが、ともかくもその中のエリート層だけが足を踏み入れることができるそこの浜辺に構えられた基地の中で、幼い……外見からすると13、4くらいであり、さらには女性らしい膨らみもまだ少ない少女たちが姦しい。


片方はベッドで管に繋がれて寝たきりになっていて、片方はそんな彼女を見下ろすように仁王立ちしたままに……さっきからずっと怒っている。


ずっとずっと怒っている。

怒り狂っている。


女性の怒りとはこういうものだ。


ついでに言えば同じような話が何度も繰り返されているのだが……怒り猛っている姉の方の怒りはまだまだ収まらないらしい。


なお、それを指摘すると手をつけられなくなるため「弟」は……諦めきっている「彼」は、少しばかりの抵抗として同じような返事をし続けるしかない。


「だーかーらー言ったじゃない!」


ばんばんと机の上を叩く彼女。


「あれほどに言ったじゃない!! なんっかいも、口酸ーっぱくして言ってたじゃないの!」


ばんばんばんばんと机の上を叩く彼女。


「なーんで話聞いてくれなかったのよ! 聞いていてくれたならそこまでなることはなかったでしょーに!」


「だから、うるさいと言っているんだけど」


「『だから』は私のセリフよ! ちょっと黙りなさい!! 『だから』禁止! 姉の命令は絶対なの!!」

「……病室に押しかけてきて繰り返す言葉ががそれなの……」


ぎゃんぎゃんという表現が相応しい騒ぎ方をしているのは、腰まで届く黒い髪をストレートに下ろし、その黒い瞳をベッドに横たわる「弟」――または「妹」に対して……半分以上は心配から、もう半分はいつもの彼女のクセで怒っているうちに怒りが湧いてくるという性質によるもの。


それを理解しているし……そもそもとして「女性とはそういう生きもの」なのだととっくに諦めているために、黒髪の少女が怒りすぎない程度に愚痴をこぼしているのは……まったく同じ顔とまったく同じ体格を持っている、けれどもその体毛が銀色というだけの少女。


あとは体じゅうに管をつながれて横たわり、光を浴びせられているのも違いとしてはあるだろうか?


傍目には痛々しいのだが、本人は……痛みもないことだし情報さえ読んで静かにしていればそれで満足な性格の彼女は、一切と気にしていない。


……その姉は真逆の性質を持っているからこそ、ここまで苦労しているのだが。


「ねぇ聞いてるのソニア……じゃなかった、えと、『響』! こっち見なさい!」

「聞いてるよ……僕がしでかしたことがどういうことかも、よく、ね。 さっき説明したように」


「それがわかってないからこそこの状況なんでしょうがー!!」


少女の怒りはまだまだ収まらない。


――まるでくるんとしていた彼女みたいだな、と「彼」は思う。


「だから! もう!! ほんとにもー!!! わかってるの! ねぇ!! 連合艦隊の最高司令官のあなたが今ここで倒れちゃったもんだから! あなたが本調子に戻るまでのあいだにどんだけの被害が出ると思ってんのよ! ついでに私たち、いえ、みんなにすっごーく心配させたんだし!!!」


「すっごーく!」のところでとうとう音が防壁を破り、廊下や隣の部屋へと漏れたことは……経験上、間違いがない。


「妹」「ソニア」そして「響」と呼ばれる彼女は見えないようにため息をつきながら、そろそろわかってほしいと説得の方向性の切り替えを試みる。


「頼むからもう少し静かにしてよ姉さん。 それに済まないと何度も言ったよ。 あのときはこうするしかなかったんだって」


「それもわかってるから怒ってるのよ!! わかってるの!! だけどあなた自身を削ることをして、もう少しで死んじゃうかもしれなかったっていうのに! あーもう! 私はね、分かる! ソニア、ひびき! ……とにかくも怒ってるの!」


とうとうに勢いが落ちた姉と、それでほんの少しだけ安心した妹。


ふい、と、お互いに……少しだけ、顔を背ける。


「響」と呼ばれた彼女は――見た目こそ何年か分だけ成長しているものの、けれども別のところ……遙か遠い遠い場所で、1年ほど前に突如として今ここにいる「響」の幼かったころの外見になってしまった――させてしまった、同じ名前を持つ彼だった彼女とそっくりな彼女。


「いつものことだ」とため息を……まだまだ怒り猛っている姉に気がつかれないように、そっと、もう一度ついた。


――幼い方の「響」という幼女と自認する彼だった彼女と、そっくりそのまま、同じように。


姉を持つ妹という身分と、ひとまわりも年下の女子に振り回される男性だった少女という身分は――中身がほとんど同じだからこそ、同じ反応をするしかない。


魂とは、そういうもの。


「もー、こーなったらしょーがないわ! いーかげんに言うこと聞きなさいな! あなたはあの子……あの子も『響』だからややっこしいことこの上ないんだけど! なんとかならなかったの! とにかくあっちの子に迷惑かけたくない、その一点張りだったけどね! もう決めたから!」


「……姉さん……まさか。 それは止めてほしいと、あれほど」


銀色の少女……「響」と呼ばれた少女の上にのしかかるようにして黒髪の、姉の方の少女が迫り、有無を言わさない雰囲気を出し始め……妹の方は察する。


こうなるともう言うことを聞いてくれないということを知っているから。


……数ヶ月前に全身で攻撃を受けて力尽き、遠くにいる「響」へも届いてしまった申し訳なさでいっぱいの、先日の戦闘のことを思い出す。


……あれからしばらく様子がおかしかったし、きっとあれがトドメだったんだろうな。


うっかりと、倒れたあとの会話を覚えていないと言ってしまったのもまずかっただろうか。


……ひょっとしたら「また」、あちらの「僕」に助けられてしまったのも知られてしまっているのだろうか。


必要だったとはいえ、だからこそ迂闊だった……と、「ソニア」という名前も持つ妹は、頭を振る。


「全滅したら、それまで。 でも逆に言えば、全滅する前にあなたが間に合わなかったらそれまでなんだもん。 もーガマンの限界だわ! いっつもぎりっぎりで対処してたら私の心臓が持たないんだから! えっと、それで? 最近合流して……えーっと」


「……数はいいじゃないか。 とにかく大所帯になったんだよね?」


「もー多すぎてよくわかんないけどタチアかノーラなら知ってるからいいわよね! ……って違うわ!」

「いつも忙しいね姉さん」


「その途方もない数の命とあなたを守るためには代えられないの! 分かるわね! だから――」


これ以上抵抗しても無駄だと、首の力を抜いてまくらにぽすっと頭を沈ませ、ふわっと銀髪が散らばるのを感じる「響」。


それに合わせてもっと顔を近づけて……息がかかるほどにまで迫り、黒髪が銀髪に混ざるようになった状態で黒髪の少女は、姉として……妹である最高司令官に、命令を下す。


序列を完全に無視しているが、逆らえる者は誰ひとりとしていない。


なぜならば当の……最高司令官、最高指揮官、最高責任者の「響」が同意する意見なのだから。


逆らえば他の大多数から、ただただ見捨てられる。

それまでなのだから。


「あそこの……えっと、なんて名前だったかしら」


――ここで黙っていたら気が逸れるかも、と考える彼。


「……あなたが言わなくても2人に聞けばわかるわよ?」

「……地球、だよ」


――無駄だったらしいな……今日の姉さんは手強い、と考える彼。


そこから顔を背けようとして片手でほっぺを握られ、最後の抵抗も無駄になる。


――少し、痛い。


そういう想いを込めて黒い両目を覗き込むも、効果はなかった様子。


「そう、それよ!」


もうひとりの「響」のいる世界の名前を聞き、しばらくのあいだ……1度だけ、いや、姉である彼女が気がついていないだけで厳密には2回も来ていたのだが……いずれにしろこちらへと訪れ、そして彼女と少しばかりだが話をしたあちらの「響」の事を思い出して静かにしていた黒髪の少女……アメリ。


妹が幼い姿になり、さらには……とても素直になって口答えもせず、まるで妹のはずなのにかわいい弟のように感じたあのときのことを思い出し、今までの怒りしか浮かんでいなかった顔から一気にごきげんな顔つきになる彼女。


「やっぱり来てもらいたいものね、だってかわいいんだし。 あ、もちろん私たちを助けてほしいんだけどね!」と言いつつ、目の前の妹のほっぺを、ほほをわしづかみにしながら宣言する。


「だからチキュウのあなたにもう1回だけでいいから『力』を貸してもらうのよ! ――いいわよね? 『響』。 拒否権はあなたにはもうないわ!」


――じゃあなんでいちいち聞くんだ、と思う彼。


 「だってそうでもしないと……私たちは……私たちはぁ……」

「……分かっているよ……必要だってことは。 でも……はぁ……」


見つめ下ろしてくる黒い瞳から薄い色の瞳を……顔を固定されているためにわずかしかできないながらも逸らしつつ、銀髪の少女は思う。


――済まない、あちらの「僕」。

君に再び迷惑をかけちゃうけども――もう防げないんだ。


1回切りのはずだったのに、もう3回も。

初めに「力」を貸してもらうときには、そう言っていたのにね。


だからこそ同意してもらったというのに……このザマだ。


――本当に済まない、と。





一方で、そこから遠く遠く離れた場所で、ぱんぱんに詰まったリュックと紙袋を片手にマフラーと髪の毛をいじりつつ……彼だった彼女の響は、なじみのあるふたりと再会した喜びを胸に、嘘をつかなくていい相手が増えて自然な笑顔を……控えめな笑顔を覗かせながらそんなことも知らないで、ただただ……車の中で揺られていた。


いずれ、もうひとりの自分と……記憶のある状態で再会することになるなどとは思ってもいない、「魔法さん」程度の存在と1年間かくれんぼを続けていた「響」は、ただただ嬉しさに浸っていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白く一気に読んでしまいました 続編も期待しています!!! 続編も頑張ってください
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