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46話 彼の、準備 1 3/6

「響くんのことだから興味本位じゃないだろうけど……うーん、どこまで話して良いんだっけ?」

「最近はあんまり話さなくなりましたから忘れましたにゃあ」


この2人はねこみみ病については特殊な立場。

表に出ている情報もそうでないのも知っているはず。


そう思って訊いてみている。


「ま、いっか。 響くんはネットに安易に書き込んだりする子じゃないっていうのはわかっているし……もしそうだったら私たちのこと、あのときのことはすっかり出回っているわけだし?」

「そーいえばそーですにゃ」


そっか、今はSNSの時代。


友達に話す感覚で全世界に広めちゃう世代だもんね……今の僕の見た目的にも。


「あ、ごめんね? 一応、一応なんだけどね、スタッフの人が『そういう可能性も否定できないから』って。 だからあの後しばらく響くんのこと疑って、ネットの……私たち関係の書き込み、熱心に調べちゃってたから」


「いえ。 アイドルのセキュリティ……安全と、あと機密を考えたら当然だと思います。 別に気にしません」


あんなに乱暴に追いかけてくる人たちもいるくらいだ、この子たちの弱味を知りたいっていう人も多いだろうし。


そういうお仕事だしな。


「よかった。 あ、それで、ねこみみ病で困った場合なんですけど、これは……私たちでも全部は知らせられてないから、私たちが知ってるくらいしか話せないんだけども」


この子たちでも知らないことが。


……つまりこの子たちが「知らせられてない」って知っている程度には……めんどくさいものがあるんだ。


「で、困ったことになった場合には本人か周囲の方からの連絡で係の人が駆け付けて手助けして。 さらに認められれば特例措置が発動するらしいですね」

「らしいですにゃ……特にケモノ化の場合だと」


特例措置。


なんだか物騒な響きだけど、逆に言えばそれで守られる側にとってはとっても頼りになりそう。


「たとえばですね、最悪お家にいられなくなる……なんてことが。 あ、ご家族の問題だけじゃなくって、その、ご近所さんとの問題とかで、ね? そうなったら本人だけでも一時的に保護してあげたり、ご家族ごといろいろと変えてお引っ越し、なーんて感じで……まぁドラマである『なんとか保護プログラム』みたいな感じだそうです」


「外国だとその辺もっと進んでるって言いますもんにゃー」

「あー、懐かし。 昔、探偵もののドラマに出たなー」


ポニーテールをもしゃもしゃしている岩本さんはすごく懐かしそう。


……僕よりちょっとだけ年上だから子役としてとかヒロイン役とかかな。


「昔って私が何歳のときですかにゃ? 10歳超えてましたかにゃ?」

「……みさきちゃーん?」


あ――……そっか、そうだよね……これこそが世代の違いってやつだよね。

この2人は一見同じ高校生同士だけども片方は僕の世代なんだもんね。


「じー」


「年齢のことはね、……あ」

「……ふにゃっ!?」


またコントになるのかなって思ってじーっと見ていたんだけど……なぜか2人とも同時に下を見て黙り込む。


「?」


「……え、えーっと! 続きですにゃせんぱい!」

「っ! そ、そうだったわね!」


よく分からないけど……ふたりしてぴったり息が合った動きだったあたり、またコントするつもりだった?


「こほん、滅多にないことのはずなんですけどにゃ、困ったことに……変わった本人がそれを受け入れられなくって、いろいろあって、それで入院……メンタルのケアをするために、することもあるそうですにゃ?」


「そういうのってケモノ化だと深刻なんだってね――……。 まぁ、若くなるだけなら基本、嬉しい以外にはなんにも起きないしね。 学生だとちょっと困るかもだけど。 まぁ女性からの『自分だけ若くなってずるい!』っていう妬みはしっつこいけど。 あとババアネタが定着したのもムカつくけどそのくらいだし」


女性の年齢の話にはお口チャックだ。


「んでケモノ化は……この国じゃまだ、少なくとも教えてもらえる限りではないみたいですけど。 外国では……そのヤな話でごめんなさいですにゃ? 生えたのを本人とか家族とか周りの人たちが『取らなきゃいけない!』って無理やりに取ろうとして大ケガをしたり……だって体の一部になっちゃっているんですからそうなっちゃいますにゃ? 人の耳とかだって引っ張ったら痛いですにゃ? ましてや刃物を使ったりしたら血もどばどばですし……そういうことですにゃ」


想像したらおしりがひゅんってなった。


岩本さんも顔をしかめている。

島子さんのしっぽが蚊取り線香のようになっている。


「……はい、痛いのやめやめ!! 私だって嫌いなんだから……いい感じの方もね! コスプレなんていう文化が、一般的に好意的に受け入れられ……過ぎてるとは思うけど、ともかくそのせいで『ある日突然コスプレに目覚めたみたいだったから……』っていう理由でぜんっぜん発覚しなかったケースもあるんだっけ。 SNSとかに挙げても普段の言動のせいでなかなか気がつかれないとかね。 特に女の子たちの間じゃそういう冗談が流行ってるらしいし。 ……のんきだけど、このくらいでちょうど良いのかもね」


「幸せの代償ですにゃ?」

「みさきちゃん、それはなんか意味ちがくない?」

「そうですかにゃ? ……響さんはどう思いますにゃ?」


「……えっと」


ある日から耳とか尻尾を生やして平然としているのがコスプレで済むのかって思うけど、多分その程度にはねこみみ病が浸透していて……よくみんなコスプレとかするんだろうな。


「……少なくとも見た目が変わっても否定的に捉えないっていうのはいいことだと。 たとえ平和ぼけでも、それはいい方面の鈍感さっていうもので……言い換えると『寛容さ』とかいうものになるんだと感じます。 完全には無理でしょうけど、ねこみみ病はただの変化なんだって、見た目が少し変わっただけなんだって、みんなが知るのなら。 ……ねこみみ病になった人も周りの人も多少は、幸せになると思います。 そういう意味では確かに恵まれていますね」


誰がいつ何になるのか分からないって言うねこみみ病。


次は自分からしれないんだからそうして怖くない方がいいって思う。

移る病気とかでみんなが疑心暗鬼になるよりはよっぽど。


「やっぱこの子、絶対頭いいって、普通の中2じゃないって!」

「だから聞こえてますにゃー?」


「いーの、さっきちょっとばかしネガティブなこと言い過ぎちゃったからこのへんで挽回しておかないと」

「……ってことらしいですにゃ」


「いえ、別に僕は」


……そうだよね、年齢詐称してるのって大人からなら分かっちゃうよね。


「というわけで、そういうトラブルがない大半のケースでは、普通はお役所を経由して書類……ねこみみ病関係者用のですね、それを書いておしまいですね。 私たちのときは症例が少なかった時期だったのでいろいろと調べられましたけど。 ねぇ?」

「あ――……。 あのときは、ほんっとたいへんでしたにゃぁ」


「ま、今なら集まったデータと照合してサクッと当てはめて『はいおしまい、困ったことがあったら直通電話で相談してね!』でおしまい。 さっきも言ったような困ったことがあったりしたら、こっそり匿ってお引っ越したりして、これまでとおんなじような感じに暮らせるように……学校とか就職先とかを提供してくれる。 だよね?」


「はいですにゃ」


「なんかおかわり欲しいわねー」っていいながらメニューを開く2人……うん、女性は甘いものなら無限だよね。


そんなことよりもしっぽが揺れている。


ゆらゆらと。

ゆらゆらゆらゆら。


そうか。

こうしてみみとかしっぽが生えたりすると感情まで分かりやすくなるんだな……そう考えてみるとちょっと大変なのかも。


けど、どうせなら……どうせ幼女になるくらいなら、僕にもそれが生えたりしていたらみんなに感情を……主に困っているときと怒っているときのを伝えやすかったかもなぁ。


いやいや、もしそうなっていたら家から出るのがもっと遅れて、そのせいでかがりたちに会えなかった可能性があるんだ。


だって「絶対に人に見せられない!」ってなっただろうし。

それとも「これはどうしようもないから素直に誰かに頼ろう」ってなったかな?


どっちにしても、銀髪ねこみみしっぽ幼女とかにでもなったら……きっと想像するまでもない扱いになったはずだ。


絶対小動物扱いされてはずだ……あの子たちに。


だからこれでいい。

うん。


あ、そうだ。


「……もうひとついいですか?」


「ん? 今日の響くんは熱心ねぇ」

「興味持ってくれて嬉しいですにゃ」


「……その。 岩本さんと島子さんがねこみみ病だって分かったときと、そのあとのこと。 いろいろと大変だったって言っていましたけど、それについても……おはなしできる範囲で聞かせていただいても……?」


ねこみみ病の一般的な扱いとか、ちょっと大変な場合とかのことは分かった。


……なら、もし「実際になったらどうなるのか」。


自分が若返ったり何かが生えたりして姿が変わっちゃったらどんな感じに保護……もとい調べられるのか。


この子たちは、ねこみみ病がメジャーになる前にそれを経験したはずだ。


だから……前例がないかもしれない、数が少ないかもしれない場面だったらどうなるのか。


そう、例えば「男が銀髪幼女になっちゃったりした場合」――どんな扱いを受けるのかって。

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