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45話 彼女からの、告白 2 2/7

「ちょ、だからいい加減離れて……も――……」


かがりをやっとのことで引っぺがしたらしいゆりかが荒い息をしている。


うん……かがりって結構力あるもんね……振りほどけないの僕だけじゃなかったんだね……。


「あーあ、ガマンできててえらいなーって思ってたらこれだよ。 でもあんがとね、ここまで口挟まないでくれて」


ゆりかの口がひくひくしている。

目もちらちらと僕へ助けを求めている。


あのすっごい笑顔を至近距離で見たら、そういう反応になるよなぁ……。


わかる。

すごくわかる。


だって着替えさせられたあとすぐっていっつもこんな感じだから。

それも着替えるたびにだ。


ああなっているかがりは半分トリップしているようなものだから別に放っておいても害はないんだけども、ひたすら耳元で何ごとかをささやきながらほっぺをすりあわせてくるから怖いんだ。


「……かがりはもう少し離れようか。 ゆりかが落ち着かないって言っている」

「んー、しょうがないわねぇ」


そう言うとちゃんと離れるかがり。

聞き分けが良いのも僕的には良い子って感じ。


「……それで、ゆりか」

「んぅ、なんだい響や。 おはなしはもーおしまいよ? なるべく覚えといてほしいなってだけ、だから答えとかは要らないって」


「いや」

「ふぃ?」


僕の半分くらいしか生きていない彼女が、こんなに小さな女の子が……今の僕の方がちっちゃいけども……ここまで言ってくれたんだ。


「僕には」


きちんと応えなきゃいけないんだ。

それがたとえ先延ばしのものであっても。


「恋愛的な感情とか、そういうのはよくわからないんだ。 だからその気持ちに応えることはできない」


「………………………………っ!」


初めて見る……ゆりかが泣きそうな顔。


「……そ、そうだよね……わかってるってばさぁ、だからさっき予防線も」

「だけどね、ゆりか」


この歳になるまで……学生時代というものを一応は経験してそれなりの人と接して、それからそこそこ生きてきて。


それでも僕にとって誰を好きになるとかいう気持ちは……純粋に人として好きだっていう気持ちなら叔父さんとか飛川さんたち、あるいは近所の話し好きのおじいさんたちみたいに抱いたことはある。


……でも、話に聞くような、恋い焦がれるという気持ちは今までいちどたりとも抱いたことがないし、それに囚われたこともない。


だから多分。


下手したら一生このままなのかもしれないけど、でも、これだけは伝えておきたいんだ。


「ゆりか。 僕はその気持ちが、とても嬉しい。 きっかけがどんなものであっても見た目がどんなものであっても、僕を好いてくれて……それを僕に向けて言ってくれたのが、嬉しい。 そうした気持ちを僕に抱いてくれたこと、それ自体がとても嬉しいんだ。 ……この先なにがあったって、僕は今の君の気持ちを忘れないよ」


「……あら。 あらあらあらあら!」


「……………………ひ、ひゅえ……」


たとえなにがあっても……この先二度と会えなくなったとしても、みんなといて楽しかったっていう気持ちと一緒に、ゆりかのその気持ちを受け取ったっていうのも思い出としてきちんと閉まっておきたいんだ。


ゆりかのぱっつんの下の目を、改めてじっと見る。

陽の光が差し込んで茶色っぽくなっている、その目を。


「もし未来で。 たとえそれが近くても遠くても……僕が、君が僕に持ってくれたような気持ちを理解したら。 頭で理解するんじゃなくてきちんと理解したら、たとえそのときに僕や君に別の……好きな人というものができていて、あるいは結ばれていたとしても」


まぁ多分そうなるんだろうけども。

だって人は1年でこんなにも変わるんだから。


「たとえ君が僕に対するその気持ちを薄れさせてしまっていたとしても、懐かしい記憶になっていても。 僕が理解して再会したときには……今こそこんなにどっちつかずの僕だけど、きっと、今の君の気持ちに対しての答えを絶対に届けるよ。 『あのときはありがとう』って」



……僕が返事をしてからしばらくのあいだ、部屋はずっと静かだった。


ゆりかもかがりも身じろぎもしないでただただじっと僕の方や手元を見つめていて、さっきまでのが嘘のように静かになっていて。


話に夢中だったから今まで聞こえていなかったような、いつもの……入院してからいつものになっている、廊下の外から聞こえてくるアナウンスの音とか廊下で歩いている音とかそういうものが聞こえるようになって来たくらいには静かになっている。


けども反応がないな……ちょっと変だったかな。


僕だってとっさのことだったからきちんとした答えにはなっていなかったと思う。


だけど、それでもこうして目の前で話しているとそこそこ話の筋が通っていなくたって意図がちゃんと伝わるんだって、この子たちと触れ合って知ったんだし……多分問題はないはず。


目の前で、手と手が触れ合う距離で話しているとなんとなくで分かることがあるっていうのを、この歳になってようやくに知ったんだ。


「…………………………」


それにしても静かだ。


普段からこうだったら毎日でも来てくれていいのにって思うくらい。


そんなゆりかはいつの間にかそっぽを向いていたらしい。


一方でかがりも……なんだかぼーっとしたような表情。

かがりはいつものことか。


なにかしら変なことを考えているんだろう。

どうでもいいか。


「――――――――――――素晴らしいわっ!!!」


「!?」

「お、おう? かがりんや、まずは落ち着こ?」


「静かで安心するなー」って緩み切った心にかがりの奇声が刺さる。


毛穴がぶわっと開く感じがする。

本当にびっくりした。


君、ここが病院だって忘れてない?

僕が入院してる設定忘れてない?


「……まさか。 まさかまさか私が! 現実で! 目の前で! それも、お友だち同士が!」


あ、これ止まらないやつ。


「マンガとかドラマとか映画とかでなく本物の愛の告白! それも、それも……情熱的な告白と紳士的なお返事という場面に思ってもみなかったわとっても嬉しいわすごいわ涙が出てきちゃうわだって今日今この場でふたりに立ち会えただなんて私感激よ!!!」


「すげぇ……一気に言いおったよ」


すごいよね、この子。


「……ま、かがりんならそー来るわな。 知ってた」


この子に耐えられる君もすごいって思うよ。


僕は無理。

心臓弱かったらショック死するくらいだもん。


そんなかがりは……思いっきり勢いをつけて立ち上がったせいでイスが倒れそうになって、慌てて後ろへくるんとして……なんとか大きな音を立てずに済んだ様子。


「あ、よかったねかがりん、立ち上がってイス倒してド派手な音出さずにすんでさ。 ……ま、かがりんはかがりんだからね、恋愛命なんだしこーなるのは知ってたよ」


「あらそうなの? ゆりかちゃんさすがね?」


これ、わからないで適当に返事しているやつだな。


詳しいことを説明するといつもなるやつ。

わかっていないからきちんと説明しないとくるんくるんしたままになるやつ。


……だから少しでもわからないことが出てきたらすぐに考えるのを止めて、なんとなくで流すクセをどうにかしたほうがいいんだって夏休みのときにあれほど……。


……さすがに高校生くらいには治るよね?


治ってくれないと僕が心配だ。

この子の将来が不安すぎて。


やっぱこのまま残ろうかなって思うくらいには心配。


「そんなにはじけてるのに最後まで黙っててくれたかがりんマジ天使。 ……だから途中でもしゃもしゃしてたのは見逃したげる」


うん、そうだよね……友人の告白の場面でおかしもしゃもしゃするって相当の度胸だよね……映画でポップコーン食べてる感覚だったんじゃないかな。


「でも思ってたとーり、告ってとってもはずかったけど。 でももうひとりこの場にいるってだけで、そー意識してただけで……ときどき音が聞こえてたおかげで、ちょっとはマシだったかも。 今だからわかるけど、響とふたりっきりだったら私、途中で止めたりチキンしてたかもしれないし」


「チキン? あら、そういえば響ちゃんは普段どんなご飯をここで」

「かがり、ゆりかの言うチキンは恐らく食べものの話じゃないよ?」


「ぐぅ」と鳴るかがりのおなかの音が抗議している印象。


……この子を同席させてよくもまぁ無事に終わったものだ。


本当に。

奇跡的に。

何%の奇跡なんだろう。

小数点以下?


「んで、響」

「……何?」


今はどうでもいいかがりのことは置いておいて、ゆりかだ。


ふわっと髪をかき上げて……あ、汗かくとそうしたくなるよね、涼しい風が入ってきて汗が乾く感じになって。


「さっき『けっこー好き』って、なんだかめっちゃくちゃにあいまいな感じで言ったけどさ? あれが今の私の本音なんだよ」


「本音……?」


「……??」


「そ、本音。 てのも響と私たちには『時間』ってゆーものが、タイムリミットがあるわけじゃん? 海外に行っちゃうってゆーとんでもないの。 だから『今しか言う機会ないな、ならついでに私の気持ちみんな言っちゃえ』ってなったんだけどね。 でもさ、そもそも私さっき言ったみたく響に会う、たった1年前までカラダこそ女の子……いちお、かがりんよりは思いっきしひびき寄りのお子さま体型だけどさ……だけどさ! そこのでかいのさんとは比べものにならないけどさ!!」


「落ちつくんだゆりか。 女性の魅力は顔や体じゃない。 心、精神。 価値観、人そのものだよ。 ……少なくとも僕にとってはそうだから無闇にそう悩まなくてもいい」


「嘘」


「僕が1回でもかがりに抱きつかれて鼻を伸ばしたことあった?」

「あ、ないね。 むしろ飼い主に頬ずりされて嫌そーな顔してる感じだった」


だろうね。


「……どうして私がそこで出てくるのかしら?」


「…………響」

「今度は何?」


ゆりかが脱力している。


「……ひょっとしてこの子のせいで今みたいになってる?」

「元からだけど否定はできないね」


「……男って性自認、だっけ? あるのにないすばでーに抱きつかれてもあの顔だもん……大変ね」


「ゆりか」

「はいよ」


「君は、精神年齢がはるか下の男子から下心無しに抱きつかれて男性的な魅力を感じるか? じゃれつかれてそう思えるか?」


「うん……そうだね。 私が男だったとしても……あんなたわわがあっても無いねぇ……」


だよね。


良かった、僕の感覚が正常で。

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