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44話 彼女からの、告白 1 3/4

ゆりかからの堂々とした告白。


それが少しだけ途切れた静寂が……少しだけ離れたところ、かがりのお口の中でもぐもぐしている音で少しだけ邪魔されていて、だけど僕にとってはちょっとばかり心強い。


……というかなんでゆりかはかがりがいるような……静かにしてこそいるけどいつガマンできなくなるかわからないような子がいる状態でこんな大切な話をし出したんだろう。


だって、分かっているはずなのにな。

かがりがこういう……恋愛っていうもの命っていう感じでいつも過ごしていて静かにできなくて、話すことと食べることが大好きな子だっていうのが。


まぁ結果的にはこうしてまだぼりぼりって感じのくぐもった音が聞こえてくるし、くるんくるんしてはいるけど……おとなしくはできているからいいのかな?


……あ、そっか。


僕が、初期の僕が女子とのコミュニケーションみたいな本を漁ってたときにあったあれだ。

女子は告白でさえ……漫画とかで本当にあるみたいに親友とかを連れて来て立ち会わせる。


あれか。

あれだな。


僕にその感覚はぜんっぜん分からないけども、そうだと理解してみると理に適っている。

そういう意味ではゆりかも男っぽいって自分で言いはするけど女の子、なんだな。


「で、これで最後。 だんだんといろんな理由で減っていった話し相手とか遊び相手……私がいちばん楽しいって思えるシュミが好きっていう相手がね。 いなくなったんだよ。 トドメが来たの」


「いなくなった?」

「うん。 ……今度は男子側の問題でねぇ」


「いなくなった」って聞いて少しびっくりしたけど物理的にというわけじゃない。

当たり前のことだって分かっていても、こういうのっていきなり言われるとびっくりする。


「前だったらなんにもなかったはずの、フツーに友達やれてた子たちがさー、おんなじ話題で盛り上がれて休みの日とかには誰かの家とかでゲームとかして遊べたその子たちがさー。 もちろんほとんど男の子だったわけだけどさー。 ……思春期ってやーね、急にみんなよそよそしくなって距離取りにくくなってとげとげしてくるんだから。 あ、今ひびきにこくはくちゅーの私もか。 まいっか、それはそれで」


とげとげ?


「んでね、男子たちと……今まで遊んでたよーな子たちと放課後にちょっと遊んだりしてるだけで、たったのそれだけで意識されちゃってたみたいでね? 私がいちばんどーでもいいって思ってたような女の子っていう属性で。 『なーんかたまに変な感じになるなぁ』っての感じるようにはなっていたんだけどさ……私としては同性の? いや、私が男子寄りだからもち『男の子の友達』って思ってた子とかがさ、いきなり告ってきたりしてね。 それもそんな気配まるでなかったじゃんって子たちからも立て続けに……あ、響もごめんね? たぶん今の響もそのときの私とおんなじような感じだろーけど、せっかくだから最後まで言わせて。 お願い、ね?」


「……もちろん」

「ありがと。 そういうとこも……好き」


そう言われて反射的に目を逸らした先。


「!!!!」


くるんくるんしているかがりをちらっと見て落ちつけた。


でも……目が、彼女の目がものすごくらんらんとしている。

くるんがくるんくるんくるんくるんくるんしている。


体が前のめりになってつま先立ちになって、そして口の中と手元が空っぽになっている。


……そろそろ限界そうだ。


終わるまで持つんだろうかこの子。


「そーゆーのが何回かあるとさ? 私としては当然その気がなかったわけだし、必然的にその、お互いに距離が開くワケじゃん? 告白って、してもされても以前の関係には戻りづらいワケなんだし? ……っていうのも覚悟の上の今なんです、はい。 ま、それは話し終わった後のひびき次第ってことで。 で、そうこうしているうちに私とおんなじような話題で楽しめる子っていうのはほんの一握りの女子だけになっていって、その子たちともあんまり話せなくなっていっちゃって。 だって、次々と色づいて来ちゃったもんだからさ。 なーんで中学になった途端こうなのかねぇ、ほんと」


ふう、と息を吐き、すう、と吸って。


「結局ね。 去年の今ごろ……いや、もうちょい後か、まではね。 りさりんとかの、ふつーに性格とかが合って少しだけマンガとかゲームとかそーゆー話題にもついてきてくれるような女子しかいなくなってたの。 や、ぼっちとかそーゆーのじゃなくって学校でフツーに話せる子ならいたよ? いたけど休みの日とかに遊べる子が減ったってこと」


去年の今ごろ。


つまりは1年前くらい。


――そういえば確か、かがりとゆりかにはじめて会ったのって。


「……重くなっちゃったけど! けどね!! あ、あとかがりんはもちっと我慢してね? これからが大切なとこだから!!!」


「!!!!!」


ゆりかがぐ、っと指でサインして、かがりがすっごく嬉しそうな顔をしながらおなじのを突き返して。


さすがゆりか。

真横にいて顔を見ていなかったとしてもくるんくるんしていたのを察していたか。


「てな感じでさ。 去年の春休み……あ、もうすぐだよね、今年のも……は、そーゆーモヤモヤしたのとか、あとはそれまでみたいに友達んちで1日中ゲームとか……まー、りさりんとかともできたけど、でもやっぱなんかちがうし。 あ、これりさりんに言っちゃダメよ? すっげー怒られそうだから。 んで『せっかく時間があるから』っていつもみたく宿題だけ先に終わらせてから、ワゴンでまとめて手に入れてきた古ーいゲームとかしてたの。 古い機種のとかパソコンのとか。 ちょうどたまたま安くなってたギャルゲーっていうの、暇つぶしにね」


ギャルゲー。


この子たちの年齢どころか僕の年齢的にも古いジャンルのそれ。

ゆりかがよく話題に出していたっけ。


僕は全然したことがなかったからあんまりついていけなかったけど、よく「この中ならヒロインはどれがいい?」とか聞かれていたっけ。


「で、そのギャルゲーなのだよ。 当時は結構流行った感じの、今やってもそこそこおもしろくってヒロインが多くって、っていうタイトルの。 ちっと調べれば私だってなんとなーく知ってるって感じのさ。 それの、あるタイトルの……ある子のルートを進めてて、お腹が空いたけどお母さんいないしお金はもらってたしでお昼に出て、その先で――まさかの、つい昨日今日で攻略中にあったようなシチュまんまな場面と、ヒロイン……じゃなくて男の子だからヒーローだよね。 そう、会っちゃったんだよ。 出会っちゃったんだ」


そうしてゆりかは「ふへっ」ってあいまいな笑顔を浮かべつつ、僕がなんとなく察したその続きを口にする。


「今思えばさ? 性別は反対なんだけどそのお相手が君なんだ。 つまりは君が、私にとってのヒロインだったのだよひびき。 あのときのかなーり混んでたお店で『知り合いじゃないのに相席にさせられちゃう』っていう、これまたゲームであった場面そのまんまでね。 もっとも響はそれ、忘れてたらしいけど……思い入れもない他人だったんだから、しょーがないよね」


「……!!!!!!」


とうとう両手で口を押さえだしたかがりが視界の隅で震えている。


ステイ。


そういう目を向けたら、こくんと輝く瞳。

精いっぱい我慢しているんだろう。


えらいね。


でもここで邪魔したら間違いなく大変だからね?

僕のせいで2人が友達止めるとか気まずすぎるからね?


「いかにも事情抱えてます的なカッコ。 ま、お肌が弱いってゆーのと、あとは多分この前聞いた性別の件のせいだっていうのは今だから知ってるんだけどね。 でもあのときはね……私よりも小さいから小学生かなって思ってた。 そんくらい小さくて顔もほとんど隠れてて、だけどなんでか知らないけど目立っててそのときお店に居た人たちから見られてた響。 実際に、一瞬だけど見ることができた、ものすっごく……なんていうのかな、美しいって感じの顔」


小学生……いやまぁしかたないんだけど。


「そんな子から『食べきれないからいる?』って聞かれて、全然食べてない……ゲームの料理とは違ってポテトだったけどそれをもらって、食べているのをちょっとだけど見つめられてさ。 それって、そのつい何十分か前まで進めてたルートの子との出会いの場面そのものだったんだよね。 だからなんていうかその、舞い上がっちゃって。 まー落ちついてみれば実際にはシチュ、細かいとこがいろいろと違ったのよ。 響と連絡取れなくなってなんとなくでプレイしてみたら、けっこー思い違いしてて。 だけどそのときの私はそれはそれはもう嬉しくなっちゃってさ。 あ、勘違いしてたの寝不足だったってのもあるかも」


ポテト。


ファストフード……ハンバーガーのセットの。

あのときの食べきれなかったあれ。


重い荷物に耐えきれなくってたまたま入ったあのお店の。

捨てるのがもったいないからってなんとなくであげたあれ。


――でもどうして僕はあのとき『見ず知らずの小学生にも見えた子のゆりかにあげようって思ったんだろう』?


「いやー、あのときはほんっとう舞い上がってましたなー。 だから私あのあと『ついに妄想を具現化したぞぉ!』なーんて同好の士っていう感じの友達に連絡しちゃった。 あ、りさりんのことね? だってりさりん実はギャルゲーとかいける口だし……ま、もちろんお返事は『ちゃんと寝なさい』だったけどさ」


前の僕から今の僕に変わった、あの日のあの朝の次の日。


事実を確認するために家を出たその日に、今の僕になってすぐに――出会っていたんだな。


「でもさー、やっぱ第一印象ってなかなか消えないよね? あと美化されるし。 てなわけでそれからもずっと……そのゲームをクリアし終えて続編とかまでやって学校生活が始まっちゃって。 んでなんとなくそのゲームのそのキャラ……あ、この子もまた響そっくりなんだよねー、ギャルゲーだから女の子だけど。 その子によく似てて出会いがびっくりするくらいなタイミングだった響ともあのお店に行っても当然に会えなくって。 だんだん忘れかけてたんだけど……そこで2回目!」


びし、っと指を突きつけてくる。


「悪い人たち……じゃ、なかったんだよね? だけど響が困るくらいにごーいんな感じでさ? 悪い人たち……あ、ゲームん中だと『特殊な事情を抱えてるその子』を連れ去ろうとしていたヤツらなんだけどさ、ともかくそーゆー場面に遭遇しておんなじようにして助け出せて。 ほんっとあのシナリオのあの響似のヒロインとピンポイントでおんなじ場面を体験しちゃったからさ、いやー、そりゃーもーもっかい舞い上がったね、舞い上がりましたね、このときはまえのときいじょーに!」


語っているうちに……まぁ内容が内容だしな、顔が赤くなってきていてうっすらと汗が垂れてきているゆりか。


「ぐーぜんだって思ってたけど、それも2回も立て続けに起きればそれは必然とか運命じゃん。  そー思っちゃったのだよ。 だってあのころはまだゲーム消化し終えてなかったからさ、つまりはギャルゲー思考に染まってたわけで。 んであのときにどさくさで手を繋いで引っ張ったりして、響が私の妄想なんかじゃなくってちゃんと存在する人なんだって確かめたりもしちゃったし! 私よりも小さくて、でも話してみたらまさかの同級生で。 ……これで私は、もう。 それから、これまで……変わっちゃったと思っていた、みんなに。 心の底では恋愛脳ってバカにしてたみんなに、追いついた。 追いついちゃったんだ。 ……もしかしたら私って、みんなより少し遅れて思春期になったのかもね。 そんな感じ」


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