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44話 彼女からの、告白 1 2/4

ふわりとゆりかが見下ろしてくる。


だけどいつものように身長差で見下ろされてる感じはしない。

ただただ真っ正面から……真剣に僕を見つめている。


「私ね。 私はね?」


そんなゆりかがいる。


「昔っから男っぽい性格だったんだ。 小学校までは髪の毛も短かったんだよ? 今からじゃあんま想像できないだろーけど、相当男の子っぽかったの。 だって髪の毛って……響ならめっちゃわかるだろうけど、めんどくさいじゃん? だから短くしてて男の子だってよく間違われたくらいにさ。 それはもー男の子たちと遊んでいたら女の子が混じっているってぜんっぜん気がつかれないくらい。 まー、声変わりとかもまだな時期だしさ、小学生って」


ぱっつんとは言え髪の毛は肩まである今の彼女からは……うん、確かに想像できない。


「けっこーな割合でさ、中学になって制服着るまでは私のこと男だってずーっと勘違いしてたご近所さんがいたくらいにはね。 あれはちっとばかし傷ついたなぁ……んで、そんなちっちゃいころからずっと、私は他の子……女の子たちとはズレているなっていう自覚もあったくらいに、違ったの」


やっぱりこうして自分のことを話すのってなんだか恥ずかしいんだろう、頻繁に髪の毛をいじいじしつつ。


「だから当然髪の毛になんてきょーみなかったし、外で走るのに邪魔にならないようにって理由でも短かったんだし。 冬ならともかく、夏はねぇ――……服装だってシャツとズボン、普段の響みたいな格好でさ。 『私は私のままでいいから、せめて見た目だけは女の子らしくして』ってお母さんとお父さんから言われなかったら多分今でもだったかも。 『中学生になったんだから、せめてカッコだけは女の子らしくして、お願いだから』ってさ、何かあるたびにものすんごく落ち込みながら言われてしぶしぶなのよ」


男子に混じっている女子、あるいはその逆の子だって……そういえばいた気がするな、小学生のころ。

そういう子たちとはなんだか波長が合ったからかそこそこに話とかしていた覚えもあるし。


でも僕にとってゆりかってそうは見えないんだけどなぁ。


いや、もちろん話していると「あぁそんな感じもあるよな」ってときはあるんだけども。

特にゲームとかマンガとかの話をするときには。


それもきっと「女子」って記号の男子よりは長い髪に女子の制服、スカートを身につけているからなんだろう。


ちょうど真逆の僕が良い例だ。


「最後まで抵抗あったのがスカート。 外に出る日はほっとんど履かなかったくらいだからさ……今考えるとありえないって思うけど、とにかくそんな小学生だったの。 つまりはついこないだまでってことで。 ……だってさ、休み時間とか放課後とか男子たちと校庭とか公園とかで走り回りたかったんだし、しょうがないじゃん? ゲームするときだってあぐらかいてたし。 いやー、スカートで走り回ってたりしたら先生とか他の大人とか、なによりもお父さんがうるさかったなぁ……。 んで言うこと聞いて素直にホットパンツ……あ、短パンにしてたらそれはそれでイヤだって。 めんどくさいよねぇ、男とか女とかってさ。 別に好きなカッコしてても良くない?」


そう言いながら生地が厚くて長めな冬服のスカートをつまんでいる。


冬ってスカートだとものすっごく寒そうだな。

僕には耐えられなさそう。


いくら制服とはいえ、せめて冬くらいズボンにしてあげたらいいと思うんだけど。


いや確か「どれだけ寒くってもスカートでがんばるっていうのが女の子なのよ!」ってかがりが言っていた気がする。


力説していた気がする。


なにがそこまで「かわいい」へ向かって女の子を駆り立てるのかは知らないけど、でもとにかく大変なんだなぁ、女の子って。


「んでね、私……中学になってしばらくするまでは、とにかく話し相手とか遊び相手って男の子ばっかだったの。 だって私、ゲームだってマンガだってアニメだって……それも少年マンガとかそういう系が好きなんだし。 当然少女マンガとかが好きな、かがりみたいな女子たちとは距離が開くワケじゃん? 話も合わないし。 いや、合わせられはするけどね? 別にそういうのが嫌いってワケでもなかったから……だからいっつもマンガの回し読みしたりゲームで対戦したり外で走り回ったりっていうのを続けていたんだ。 ほんとうに……ギリギリでおととしくらいまでは、ね」


ぱさ、とスカートから手を離し、はぁ、とため息をつく。


「ま、わりと好き嫌いない方だからさ、女子ともふつーに遊んだりはしていたんだけどね。 でもねぇ、だんだんと……そーだね、小学校の高学年くらいかな? なんかやたらとオシャレに意識しだしてだんだん態度も大きくなっていって、仕切るような子たちが出てくるようになっちゃって。 それからはだんだんはっきりとグループっていうのができてきちゃってさ。 響ならわかると思うけど、ひとことで言えばギャルっぽい雰囲気ってヤツ。 ああいうのが出てきてだんだんと世知辛くなってきたのだよ」


僕には特にそういう経験がない。

それはきっと周りを特に意識していなかったからなんだろう。


だけど人の機微に敏感なゆりかには、そういうのがきっとはっきりとわかっちゃったんだ。

それも同性のだしな。


女の子は男よりも早熟だって言うし、だから小学校高学年くらいからすでに多感な時期だ、思うところもあったんだろう。


「で、そーゆー子たちがやったらと男と女ってヤツを意識しだしてさ、それがだんだんとクラス中で学年中で広まっていって……まー、他のガッコ出身の子に聞いたりしたら別にそーゆーこともなく平和に卒業してきたっていうのもけっこういたしさ、たまたまなんだろーけど。 でも、私のところはそーだったの。 だからだんだん話し合わない子が増えてきて、放課後まで付き合う子っていうのが、だんだんと減っていって」


ふぅ、と息をついているゆりかからちらっとかがりを見てみると。


「!」


……ものすごくそわそわしている。


「!!」


もちろん体を揺らしたりはしていないけど、でも、その……表情が「話したい話したい話したい!!」っていうので満ち満ちている感じだし、なんだか力がみなぎっている感じ。


だけどもそれを懸命に抑えているのは偉い。

ちょっと、いや、かなり感心しているくらいだ。


後でゆりかの話が終わったら褒めてあげよう。

かがりには忍耐の経験が必要だろうからな。


「話したくても話さないでいる」っていう経験が。


今この瞬間、ここまでガマンできているっていうこと自体が奇跡みたいなものだろう。


言いすぎかな?

いや、正当な評価だろう、きっと。


「んでね、中学に入って顔ぶれががらっと変わってほとんど知らない子ばかりになったわけだけど……最初から男と女に完全に分けられちゃっててさ、今までとぜんぜん違うもんだから。 ほら、制服からして別々だし、小学校のころと違ってなんだかみんな『女子は女子、男子は男子と話すもんだ』っていう雰囲気になってたからさ? あ、いや、ギャル系はいないからそのへんは楽にはなったんだけどね」


ぱっつんをひと房持ち上げて、ぱさりと手放して。


「でも、運が悪かったのか……多分大抵の女子がある程度異性として意識してる男子がいるっていう環境になっちゃったからなんだろうけどもさ。 前までの調子で男子と話したりしてると急に遮られたり割り込まれたりすることが多くなって。 『あ、これ、話しちゃいけないヤツだ』って相手が増えちゃってさ……やー、今思えば危なかったわー、女同士のいろいろが怖いって今なら知ってるから……良い子で助かったわけ。 今でもその男子と絡みさえしなけりゃフツーに仲良くやれるくらいだし」


これだけまとまった話をしていたから疲れてきたのか、持ってきたジュースをぐーっと飲み込むゆりか。


「!!!」


その隙に話し出そうとしていたかがりへ目配せ。

ちゃんと意図を理解して、くるんがしゅんとしているかがり。


偉い。


後で撫でてあげよう。


かがりもこうやって「ダメなものはダメ」っていうのだけは理解できているんだよな。

ただそれを我慢できなくて、それで「自分も自分も!」って止まらなくなるだけで。


いや、それが問題なんだけども。


あと話し出すと人の話も合図もまるで無視、いや、気がつかなくなるのも問題だ。

ついでに言えばごそごそとカバンの中からお菓子を……まだ持ってきていたのか、を取り出すのも問題だ。


こういう割と、いや、女の子としてはとっても真剣な話をしている最中で……もちろん音は静かにしていはするけども……でも話を遮っていないでお口チャックができている、ただその1点だけは評価できる。


ほんとうに。


……ゆりかとかがり。

足して2で割ったらちょうどよくなりそうだ。


心も体も。


「肝心のさ、話が合ってマンガの展開とか推しのヒロインは誰かとかだったりゲームの話とかで盛り上がる……話してもいい系の男子たちでさえ、つまりはその、小学校のころのギャル系たちとおんなじで色づいて来ちゃってさ? まぁ中学になっちゃったらしょうがないよね。 放課後に教室に残って話したりするとみょーに意識されちゃってねぇ。 だってその、目つきとか雰囲気とかがちょっと、ほら……変わるじゃん? そーゆーときって。 もう何回もそーゆー女子見てきたし、察せられちゃうのよ。 私の……えっと、ないムネと会話してたりして笑いこらえるの大変だったりしてさ」


「飲む?」ってペットボトルを出されたけど、丁重にお断りだ。


だって甘いもん。


「……ちぃ、せっかくの間接が。 ま、甘いからしょーがないかぁ。 で、そーゆーところが違うんだよ、響は。 ま、そのへんはもーちょっと待ってね、もー少しで話、終わるから。 せっかくすっごく恥ずかしいことしてるんだから最後まで言わせてね? そのままお口チャックよー? かがりん?」


「っ! っ!」


こくこくこくこくとすごく反応しているくるんさん。


「うん……さっきから響がお口チャックさせてくれてたの知ってたけどね。 あとちょっとがんばって?」


同い年からもこの扱い。


うん、いろんな意味で安心だな、かがりは。

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