41話 勇気と告白と「――」 4/5
『まー、ヒミツがいっぱいあるってのもさ、響らしいって言えば響らしいよねー。 なんてか、普段の雰囲気とか話し方とかそーいう、響そのものってゆーか。 属性も設定もマシマシなのが明らかだし、だからこそ私たちも勝手に好きなだけ盛れてさ? しかもそれをどーしても言えないっての。 まさに世をはばかるヒーロー、あるいは闇抱えてるヒロインって感じじゃん? しかも割と終盤まで明かされないヤツってパターンの!』
『ゆ、ゆりかさん……あまり茶化さない方が』
『いいのいいの、こーゆーときにはゆーもあが必要なのだよ』
『ユーモアねぇ……まぁ明るければ何でも良いわね。 えーと、それって最後の戦いの手前くらいで明かされたりするああいう感じのこと? 私あんまり漫画読まないから合ってるどうか』
『そーだよりさりん、さっすが話が早いねぇ! だてに便利な布教先第1号なだけはある』
『あんたが次はコレ、次はコレって……いつも私がちょうど見終えたりしたタイミングで新しいの持ってくるからでしょ。 それに、今のはあんたの話に乗ってあげただけだって』
『知ってるぜい? りさりん。 それ、ツンデレっていうヤツ!』
『………………………………』
『おりょ、ぐりぐりがこない』
『いくら私だって控えるわよ……こういうときくらいは、ね』
『……そうよね! だって響ちゃんだもの、飲み込みがとっても良くって勉強だってすぐに追い越されてしまうくらいのすばらしい頭をもっているのだもの! あとものすごい集中力もかしら? だって私の何倍もの時間ずーっと勉強したり考えごとをしたり! ……隠された一族の過去とか因縁とか対決とか先祖から受け継いだ力だとか……!』
『かがりんストップ』
『いえ、それよりも響ちゃん本人にだけに現れた力とかのほうがドラマチックかしらね? あと、あと……権力から隠れていたり、あるいは逆に権力から守られて頼られていたり! つまりは響ちゃんっていうのは現代に生きる』
『ストップストッープかがりん。 設定垂れ流すのはお家にあるノートとかにでもやってちょ。 りさりんが言っていたように今はそーゆー雰囲気じゃないのよ?』
『……あら? なんでゆりかちゃんがそれを知っているの? 私、話したことあったかしら?』
『……動じていないどころか黒歴史ノートの存在を自分からセルフ開示だと……かがりんさんってやっぱすげぇ……!! ……ねね、ちなみに今は何冊目?』
『あの、あの……みなさん……』
『む、少し遊びすぎたか』
『あのねゆりかちゃん、今はとうとう』
そのような平和な……中学生なりに雰囲気を戻そうと、敢えて彼女たちがしていた会話をぶった切って「彼」が言う。
『……みんな。 りさ、さよ。 かがり、ゆりか』
それを……先ほどから外套を部下に預けたまま、ドレスのような派手な衣装をはためかせている彼女が耳に神経を尖らせつつじっと眼下を見下ろし続け、耳元のデバイスからは中で1番に幼いけれども1番に落ち着いている声で――彼/彼女からの、その告白が流れてきている。
『……え、響ちゃん』
『……言っても良いの? 響』
『うん、君たちだから。 ……僕はね。 女としての体を持ってはいるんだ。 かがりに着替えさせられたときのように、きちんとした……小さいけれども女の肉体を。 うん、肉体的には女性なんだ』
「――――――ほう」
タブレットを……ふたたびその眼帯を外したからか光を帯び始めた目でにらむようにしながら、耳からの声に集中もしている彼もまた首を振りつつ、杖を軽く砂利に打ち付ける。
その隣で片手で耳を覆い、「彼」の告白を聞こうとしつつ、もう片方の手を無意識に頬へと当てる彼女は、それに気がつく様子もない。
『……だけど、意識や心といったもの。 つまりは僕というそのものは、男で……そして僕自身もまた、男としていたい、男として生きていきたい……そう思っているんだ。 少し前までは、それですら迷っていたんだけどね』
「……ああ、通りであの山で遭遇したときに私たちは……はぁ……なるほどな……」
落ち込んだような声を吐き出した彼女は、頬から手を離す。
『……これ以上は、まだ。 ……うん、まだ。 僕の事情と僕自身の覚悟が決まっていないからすぐには言えないんだけど、でも。 ……これまでは、去年君たちに出会ったほんの少し前までは僕自身の性別に悩むことは無かったんだ。 だからなかなか言い出せなくて……こんなに心配をさせて悪かった』
「ふむ……」
杖を数回地面を突いた彼は彼女へ向き直り、ひたいを抑えている彼女へと話しかける。
「……それで、あぁなったわけか。 合点が行った、なるほど、なるほど。 ……しかしお前、これは」
「ああ。 ……野放しにはできないね。 私たちが知ってしまったから」
☆☆☆
「……だから」
魔法さんは様子見しているか何かで手を出してきていないけど、でも僕はこうして性別について話しただけでもういっぱいいっぱい。
魔法さんがどうしておとなしいのか分からない以上、前の僕に関係することは時間を空けた方が良いはず。
すごくがんばって言って良い部分だけ話し切って――顔を上げたらみんなが魔法さんにおかしくさせられちゃっていて、次会ったときに「なんか聞いたっけ?」とか言われたらめげるから。
だからこれ以上のことは今は言えないけど……言えなかったけど、でもいつかは全部言うんだ。
仲良くなり過ぎちゃって、何年ぶりどころじゃなくて10年ぶりくらいに「知り合い」から「友達」にまでなっちゃった子たちに。
案外に飲み込むのが遅いのか、それともかなりセンシティブって感じの発言に困ってるのかで目をぱちぱちしているゆりかを見る。
「僕を男扱いしてくれていたりさとゆりかは、何も間違ってはいないんだ」
そんなゆりかとは正反対に……あー、お酒って残っているとちょっとしたことですぐに顔が赤くなるよね……もう1回真っ赤になっている巫女りんを見る。
「僕を女扱いして……いや、女子、同性として見てくれていたさよとかがりも」
いつもの……僕とおんなじようになかなか表情が変わらないけど、でもその中に複雑そうな顔を浮かべているさよを見る。
「『僕』にとっては正しいことを言っただけ。 どちらも間違ってはいないから気にしないで。 それも言いたかったんだ」
最後にくるんっとした目をしつつ、首もくるんっとしているかがりを見て……「やっぱり頼りにはならないけど癒やされる大型犬みたいだなぁ」ってなんだか安心した。
☆☆☆
彼女/彼からの告白がひと区切りしたのを確認し、タブレットを近くにいた部下に預けた彼は彼女へ問う。
「――――――――、――――? ………………」
眼帯を完全に外してポケットへしまいつつ、さらに目の輝きを増した壮年の彼はゆっくりと金属音を滑らせながら再び1本の杖を2つの剣へと変えていく。
その間にも彼からの指示で慌ただしく……その場だけで今は50ほどに膨らんだ「兵士」たちが動き出す。
「―――――……『――』、――」
「――――――――――――――――」
そして指令を受けたひとりが……運良く見つけた、木造の建物に開いていたわずかなすき間から幼女と一筋の射線が通っているそのひとりがずっと定めていた照準を再度調整した。
――彼らにとって都合のいいことに、先ほどまでの切り裂く風は、ぴたりと止んでいた。




