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40話 「男の子」/「女の子」 5/7

男。


僕の元の性別。


幼女ではなく男。

男性ということ。


肉体的な女、女性ではなく男性……あるいは少年。


でもそれは今まで誰にも知られる前に魔法さんが処理しちゃってたかもしれないこと。

それなのに、こんな幼女だって分かってるはずの僕を男だって。


ゆりかが言った。


この長い髪の毛とか中性的だけど女の子な肉体の僕のことを男だって。


しんと静まってテレビの中からの声がやけにうるさい中、僕はさらに真っ白になっていた。


だって……ゆりかと、続けてりさが僕のこと男だって……認識していた。

男だって認識している。


いつから?

どうやって?


……いや、考えるのはあとにしよう。


みんなが僕のことにくぎ付けになっているんだ。

普段みたいに見逃してくれる状況じゃないんだ。


「……あ、で、でもムリに答えなくってもいいわよ?」


僕の様子から「あ、これ聞いちゃダメなやつだった!」って顔したりさりんが急いで口を開く。


「だって今のはただの興味なんだし、つまりは応えるギリはないってわけで! ……ちょっとゆりか、『響さんに全部言うの恥ずかしいから』って残りを私にお願いって」

「やっぱりさりんも響のこと気になるでしょ! やっぱなるよね! ささ、このお祭り騒ぎなこの空間だし言っちゃいなよ!!」

「……コイツ……普段は空気読むくせにこういうときは強引なんだから……」


……ゆりかの策略?


ってことは、少なくとも今より前の段階で彼女たちのあいだで作戦会議があったはずで。

だからそのときに何回も僕の名前と「男」ってワードが出ていたはず。


……なのに魔法さんはなにもしていない。


なんで?


そんな僕に気がつかないでゆりかとりさりんは普段通りに元気。

少なくとも魔法さんの気配は、ない。


「響のタイプの女の子よねー。 やっぱいちばんは……てか中2でアレって末恐ろしいってやつよねぇ……そこらの女性顔負けのぼでーを持ってて、学校でだってなんとなく気品みたいなもんがあって……うん、しゃべらないとそうなのよね……」


あ、うん。


くるんさんはおとなしくしていれば、ね……。


「普段からその着物にも負けず劣らずな感じの華やかーなファッションしててさ? おんなじ制服のはずなのにみょーにふぃっとしてて、ぼいんで……ぼいんで! 先生に怒られない程度のアクセとかつけててさー、ガッコでも高嶺の花になってるかがりんかね?」


「高嶺の花? 私が? ??? それより響ちゃんは」


高嶺の花なんだ……理由は分からないけどお淑やかに振る舞ってる?

いや、この子がそんな器用なことできるはずがないからきっと別の理由。


「まー今は置いといてよかがりん、先に言わせとくれぃ。 人の話は最後までだよん? ……てゆーかよく手とか繋いでるよねー。 私、見てるんだから……スキンシップも多いの。 実はときどきさ、ふたりっきりになったときにかがりんから寄りかかったりして甘えられてんの見たことあるし! あるし!! ずっるい!!!」


あれは甘えられているというよりは大型犬がじゃれつく感じなんだよ?

誰にでもフレンドリーなタイプでちょっとお馬鹿さんなわんこが。


「んで、お次は……さよちんかな? 響からの視線が2番目に多いって感じだし」

「え、……え?」


「おんなじ病弱仲間、あ、いや悪い意味じゃなくって共通点って意味でよ? ほら、レンアイにはきっかけが必要だって定番でしょ? んでさらさらーな髪の毛とおさげっていうフェチ心をくすぐる感じだし、しかもメガネにその雰囲気じゃん? さよちんはあんま話さないしいつもかがりんと一緒だから分かんないかもだけどさ、男子からの人気むっちゃあるのよ? まさに男心をくすぐってもてあそぶ魔性の女って感じ」


「え……そ、そんなこと……?」


さよは普段通りにおどおどしているのが止まらない。


うん……君は対人関係が僕と似て苦手だもんね。

あんまり嬉しそうな表情してないし、単純に困ってるっぽい。


……普段のゆりかならこういう突っ込んだことは絶対言わないのに。

人がイヤがるかもしれないのに敏感なはずなのに。


「事実だよさよちん。 てかできるだけかがりんとかの仲の良い子と一緒にいたほーがいいと思います、少なくとも学校の中では、はい。 だってねぇ、押しにすっごく弱そうだから運動部の男子に言い寄られたら言いくるめられちゃいそうだし……。 ともかくそんな感じでお互いに体のことを励まして励まされてを続けているうちに……なんてのはもはや古典的な青春だよね! 茶化すわけじゃないけど数少ない響の興味引く属性なのよ」


いきなりの情報量で頭が追いついていなさそうな巫女さよを片目に、さらに加速するゆりか。


「そしてお次は我が親友!」

「やだあんた、ちょっと私まで」


「のけものにはせんよりさりん!! むしろ逃さぬぇ! スポーティーでコミュ力MAXでクラスの中心的なちくしょうなりさりん! もらったラブレターと告白の回数は私を何倍しても追いつけないやっぱこんちくしょうなこんちくしょうで正直女として嫉妬しないわけには行かないです、はい」

「おい」


りさは……まぁモテるだろうな。


むしろ彼氏とかいないのが不思議なくらいだもんね。

男受けは多分この中で1番良いって思うし。


「いーじゃん、事実なんだし! たまにはグチも言わせてよ、りさりんを呼び出してほしいっての何十回経験したことか。 ねえあれすっごくめんどくさいんだけどどーにかなんない? そもそも私自身へのっていう期待がゼロってあたりがさらに来るのよ、ねぇ? ……で、こーんな感じで気安い毒舌とか吐くけど」


「誰のせいだと思ってるのよ……」


「そう! それがまたいいっていうヤカラがわんさかいるんだよねー。 うん、気持ちは分かる。 適度ななじりは快か――とと、下ネタやめとこ。 あとみんなとの距離が物理的に近いというのも多いし……さよちんと別の方向性の魔性? いや、ただの魅力かねぇ。 出るとこ出てるし羨ましすぎてとりあえず後で揉ませて♡」


「響さんの前で言う時点で充分にセクハラでしょうが……。 あとね、好きじゃない人からいきなり……それも知らない人から告白されても嬉しくもなんともないもんなのよ? 断るのいちいち心に来るし、断り方間違えると逆恨みされるから気をつけなさいって先輩から言われてるし」

「うらやましい悩みじゃのー。 ちったぁ分けてほしいのぅ」


ひたすらに話し続けるゆりか。


ほっぺたに当てていたコップも途中で置いて、いつもどおりの激しいボディーランゲージをし出したから振り袖がぶんぶんしていて、それがなにかに当たっちゃわないかってひやひやしてきた。


「んで、トリは私ぃ! え、私? ……これでも一応は乙女だい!」


……ゆりか、酔ってるんだろうなぁ……場の空気か甘酒で。

じゃなきゃここまでにはならないって思うし……普段の彼女を知ってるから余計に。


「もち大穴だけどね、ほらこの通り女の子らしさ皆無だし? 響にそのシュミがなけりゃ女としてもカウントされないんだし!! りさりんのばか!!! あとかがりんもさよちんもついでだぁ!」

「あんたね……」


ひと言ずつに僕の方に近づいてきてじりじりと詰め寄られるも……腕でなんとか押しとどめるけど、それでも続けたいらしい。


「でもさー、隣歩いてて顔が近い、じゃなくって目線とかが近いのってこの中じゃ私だけでしょお? ちっこいの同志だし。 いろんな趣味も合うしさー? ……響って『めんどくさい』って言いつつちゃんと返事返してくれるしさ、実は気があったりして! あったりして!!! なーんちゃって!!!」


とうとう僕のすぐそばににじり寄ってきて、肩を両手で押さえられて顔も鼻がくっつきそうなくらいに近くって甘酒の匂いがして、熱気が押し寄せてくる。


感情が止まらなくなったのか力が強くなってきて僕の腕力が負け始める。


「……ちょっとゆりか、そろそろ」


「んでんで響、ひびきんや響さん? 君はいったい誰を選ぶ――あいたぁ!?」

「止めなさいってば、もう」


もう少しで後ろに押し倒されそうだったところで、すっと体重が引いていく。


上を見てみると、巫女りんがゆりかの首根っこを……着物が崩れないようにって両手で引っ張っている。


「ゆりか、あんたはまたそーやって強引に! 響さんの後ろ、今危なかったわよ!?」


「えー? あ、ほんと。 それだけはごめんね響? ……けどさ、りさりんも気になるーって言ってたじゃん! 響の口が軽くなりそうな今を逃したら多分いつもみたいな感じでふんわりって感じで逃げられちゃってさ、聞き出せないよ?? いいの?」


「たしかにそれはそうなんだけど……それはそれ! 人の嫌がることはしないの!」

「……みなさん、もうちょっと落ちついて……はぅ」


巫女りんとゆりかのいつもの感じは変わらないけど、それに酔いっていう理性を吹き飛ばすものに包まれた結果大変なことになりつつあるこの部屋。


うーん。


飲み会とかってこういうもんなんだろうね……行ったことないから分からないけど雰囲気的に。


というか、これだけ騒いでなんで怒られたりしないんだろ。


あ、まだ忙しいのかな、みんな。

通りで大声を出してもひとりも来ないんだ。


……けど、そんなことは今はどうでもよくって。

いろいろな方向に考えを逸らそうってしている僕自身の意識を無理やり戻す。


ゆりかもりさも……勢いにびっくりしたのかそれともついて行けていないのか、かがりとさよは特になにも言っていないから分からないけど、でもなんで。


最低でも2人は僕のことを男だって認識、できているんだ。


それも、何回も言っていても魔法さんのちりちりすら起きない。


なんで。

どうして。


そればかりがぐるぐると回る。


――飛川奥さんのように、前の僕を知っている人は今の僕を男だってうまく認識できない。

いや、認識はできるんだけど魔法さんによって歪められるんだ。


僕やその人がいくら前の僕について言っても、その言葉、「元の僕について」が発せられた瞬間……「大人」の「男」だって言った瞬間に魔法さんが怒るから。


そうしてまるで操られているみたいな感じになるから。


だから彼女たちにとって……えっと、飛川さんとなじみの銀行の人、あとはご近所の名前は知らないけど顔は知っているっていう人たち……たったそれだけだからまだまだ確実じゃないけど、でも「彼女たちにとっての僕」っていうのは、魔法さんのせいできっと矛盾した存在になっている。


「僕が前の僕でありながら今の僕である」っていうどう考えてもおかしい認識になる。


どこにでもいるモヤシな男だったはずの僕と、気をつけないとすぐに顔をのぞき込まれるくらいな銀髪幼女な僕がセットになっている。


同時に認識されている。


成人男性なのにかわいらしくなっていて。

それが、とても似合っていて。

それで成長しているっていう評価になるほどに。


そういう評価、認識、意識に……魔法さんが無理やりにしているんだ。


一方で前の僕を知らない人……猫島子さんやあざとい栗色岩本さんを始めとした他の人。

この人たちなら、僕から「男なんです」って言えば男だって認識してくれる。


お酒を買ったときみたいに大人だって認識してくれる。


……これについてはなぜか魔法さんが怒らない。


どろんとしたりしなかったりはするし、ねこみみ病関係でまたなにか別のことがあったりするみたいだけどそれは今置いておいて……でも、怒らない。


僕を男だって認識できはするんだけど、それはあくまで自己申告でしかない。

僕から言い出さない限り、まずはそう思わない。


だってこの見た目だもん。


長い髪の毛に細い首、掘りは深くてもやっぱり女の子な顔つきなんだから。

声だって普段通りに男の口調で話してはいるけど、やっぱり女の子の声なんだから。


……けど1回でもそう言えば、男だって認識で話を進められるのも確認できている。


これについて知ったのが僕の主観的な時間でたったの1週間とちょっと前なんだし、調べた人数も少ないわけで……10人くらいだよな、確か……っていうことで、たまたまっていう可能性もあるからこれもまた不確定ではあるけど。


だからこそ。


だからこそ、今のこの場で僕が……望んでいたはずの男扱い、それをされていてもなんにも起きていないっていうのがとっても不安で。


望んでいたはずなのになにも起きないっていうのが逆に怖い。


……でも、ひとつだけ楽になった。


僕が男なんだって何かでバレてたんだったらひとつ嘘が減っていて謝る回数も減ったんだって思えば、って。


でも本当……なんでなんだろう。


男みたいな服装してたのに女の子だってバレてたのはちょっとショックだけど。


……がんばって男らしくしてたのにかわいいとか思われてたのかな……結構ショックだ。

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