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6話 出会い未満の出会い その2 2/2


ちょっとだけ意識を思考から現実に戻すと、とたんにざわざわとしか表現できないようなたくさんの人たちが食べたり話したり動いたりしている音と声。


やっぱりイヤホンでシャットアウトしたかった。

けど諦めたら案外に慣れるもの。


しっかしとにかくに混んでいるなぁ。


長いこと休日とか夕方とかの混みそうな時間帯の外出を控えていたから忘れていたけど、こういう店ってここまで混むものだったか。


春休みとはいってもやっぱり土日は無謀だった?

せめて平日まで待てばもっと楽だったかもな。


だけどそれだと今度は今日ほどには人混みに紛れられないな。

補導とか怖いし。


家に連絡が取れない子供とかどう考えてもお巡りさんの保護対象だ。


それよりなによりこの体になった危機感がある内じゃないとだんだん外に出るのがめんどくさくなって、気がついたら秋になっていたとかまであり得るしな、僕の性格的に。


僕のことは僕がいちばんに分かっている。

自堕落な自信があるからこそのプロのニートだ。


なんのプロかは分からないけど。


でも……うーむ。


「………………………………」


レジからお店の外までの列が並んでいて席は全部埋まっているように見える。

トレー持った人がうろうろして食べるタイミングを逃してるのも見える。


……それにしても多くない?


来たときだって空いているテーブルを探すのに苦労するほどだったし。

タイミングよく空いたおかげですぐに座れたけど、そうじゃなかったら重い体と荷物を引きずったまま帰るハメになったかも。


ぐるって回って座れるところがなかったら「やっぱテイクアウトで」って包み直してもらって……その辺のベンチで1人悲しくもそもそしていたに違いない。


外から見ても混んでいるって分かっていたし本当はもっと空いている店を選びたかったんだけど、駅前少し離れたこの辺りで知っている店は他にないからしょうがない。


なんだかんだこういう気楽さが良いんだよね。


せめてどっかで荷物を下ろして探せたらよかったんだけど……めんどくさかったし、なにより1回下ろしちゃったら持ち上げるのが嫌になりそうだったし。


1回休んじゃうと立ち直る元気がなくなっちゃうっていうの、けっこうあるしな。

だからこそ旅行とかしていても休みなしで歩き続けたりしちゃう。


……この体じゃ絶対に無理だな。

下手をしたらばたんきゅーしちゃいそうだし、この体の体力を見極めないと。


まぁとにかく座れはしたんだから、食べながらゆっくりしているうちに体力も回復して無事に家までたどり着けるだろう。


ここからだとたった10分の道のりでも慣れていない体だとどうしても悲壮感を感じるくらいに遠いイメージになる。


「けへっ」


思わずむせて涙が。


……炭酸がきつい。

のどがいがいがする。

しゅわしゅわが辛い。


ここまで軟弱になったのか僕は。

いや、単純に炭酸が苦手な体質になっているだけなのかも?





「ん」


バーガーを4分の1ほど、他は少しだけを口にしたくらいから店員の人があちこちに声をかけて回っている。


……なにかと思えば食べ終わっている人を追い出すのと、あとは相席。

こんな光景学生のころのこういう店でしか見ない気がする。


積極的に人混みを避けてきた結果だ。

だけど今日に限ってはうまくは行かない。


テーブルはみんな埋まっているからそれでも空いているイスがあれば声をかけられているし……たまたま前の人たちが抜けたところに滑り込んだ、4人掛けを占領している僕のところにも来そうだ。


こういうのはタイミングだよね。


大荷物と怪しげな格好のおかげで大目に見られていたんだろうけどもうダメっぽい。

僕はもう終わりらしい。


できればこうなる前に食べ切っちゃかったけど絶対にムリだろうし。

というかたぶん食べきれない。


すでにお腹はいっぱいになり始めているしな。

たったこれだけしか食べていないのに。


……意地を張らずにお子様セットとかにしたほうが、ムダに捨てることになるよりはずっとよかったかも。


けど、いくらなんでもこの年で頼むのは……。

いや、見かけ上は子どもなんだけどさ一応。


男としての、というか大人としてのプライドをどうするかという問題について考えているうちに……とうとう僕のところにも。


「ごめんなさい、混んできたので空いているイスのあるテーブルのみなさんにはご相席をお願いしているんですけど、いいですか?」


ほらきた。

どうせNOって言えないって分かってるんだからもっと強気で言って良いのにね、こういうの。


「……はい、いいですよ」

「ありがとうございます。 ……1名様こちらです、どうぞ」


嫌だったけどしょうがない。

席を移動してまで笑顔でにっこり答えている人がいる中で僕だけが「嫌です」なんて言えるはずもないしな。


って言うか断れる人って居るんだろうか、こういうの。

……結構居そう。


でも僕はそういう人間じゃ無いから無理だな。

人には適性があるんだ。


次からはやっぱり、どれだけ疲れていたとしたってさっさと帰ることにしよう。

なんならコンビニで適当に買って休んでもいいんだし。


そもそも疲れ切る前に帰る量の荷物と行動範囲を知っておきたいところ。

それは今後の課題。


今後があるかわからないけど。

外に出るかどうかって言う意味で。


そんなことを思いながらプレートをずずずとこちら側に寄せる。


それにしてもフードを被った帽子というこの格好は最強だな。

視界を遮るっていうのがこんなに楽だとは知らなかったし思いつかなかった。


前からしておけば良かったなぁ。

特に男ならそういうのは気にされにくいんだから……サングラスとかしたら人と視線も合わないだろうし。


それもこれも無難に見られようってしてきた結果だ。

良くも悪くも溶け込んでいたんだ、いいってことにしよう。


おかげで元の体ではたいして目立たなかったし視線を気にするっていうことがなかったからこういう格好はしたことがなかったけど、これからはお世話になりそう。


少なくとも真夏以外はこうしていよう。

真夏でもできるだけツバの広い帽子とかで、あるいは……?


買わされた荷物の中の帽子の周りをぐるっとツバがある帽子をちらり。

……リボンとかついてるけど色を気にしてる状況じゃないな。


僕が僕だって知られないことの方が大切だ。

多少の恥ずかしさは乗り越えよう。

スカートとかワンピースとかもそういう系統だし。


……キャラクターものとキラキラしているものは辛うじて回避したからどうとでもなる。

辛うじて。

きゃぴきゃぴしている女の子の感性は良く分からない。


多分僕には一生涯理解できることはないだろう。


がががと席を引く音。

僕は気持ち下を向く角度を鋭くした。


「相席助かりましたー。 やーあのままだと持ち帰りとか大人の人と一緒に食べることになっちゃいそうだったからありがたかったですー」

「いえ」


どうやらきゃぴきゃぴさんと同じ気配の人種。

僕は警戒を厳にする。


でもムシするなんてのは僕にはできないから斜め前に座る気配と音と声へ適当に返しておく。


なんでも無難が大事だ。

「普通」なら「普通」な範囲でしか絡まれないんだから。


目の前に人が座ってもプロのぼっち生活をしている僕だ、顔を上げなければ気にならないんだし軽く会釈だけしておいてあとは手元だけ見ていよう。

フードと帽子効果で顔は見えないだろうけども僕がちっこい子供だっていうのはひと目でわかるだろうし。


……ちっこい。

自分で自分を表現してみて自分の表現に落ち込んだ。


ま、まあ、今は大人でもスマホとしか目を合わさない人もいるんだし珍しくもないだろう。

うん。

よっぽどの話し好きじゃない限りこんなお店で初対面の人と話したがる人はいない。


……いないんだけど女の子っていう性別な生物は話し好きっていうのがさっきのJKさんで理解できた、油断はしないでいたい。


「………………………………」


ずずっと飲んでいたジュースのストローから唇を離す。

どうでもいいけどストローって唇が張り付くよね。


最近は紙製それもあるって聞くけど、間違いなく張り付く。

しつこく張り付かれるだろう。


どうでもいいことを考えて意識をそらせようとしたけど満腹感は消えてくれない。

今まではショックでまともに食べるどころじゃなかったからストレスとかでお腹が空かないのかって思ってたけど、時間がだいぶ経って体を動かして疲れてもこれらしい。


胃も見た目以上に小さくなっているらしいな。

まぁ胃の容積って握りこぶしくらいだって言うし、今のちっこい手を見たらどれだけ入るのかって分かるもの。


「………………………………」


ちっこい手。

バーガーにすら負けている。


あとは炭酸も失敗だったな。

なんかこうダメなんだ。

喉の粘膜が刺激に負けるんだ。


喉にしゅわしゅわする感覚が来るだけで辛いっていうのに近い感覚までしてくるし。

我慢して飲んだら咳き込むし涙までにじんでくるし。


子供は大人に比べて味覚が鋭いっていうけどそのせい?

……いや僕が小さいころはお菓子と炭酸なんて定番だったし違うか。


女性……というか女の子が炭酸苦手っていうのもそこまで聞いたことはないし。

コーヒーとかで特に感じなかったけど、やっぱりこういうところも少しだけ変わっているんだろうか。


うーん。


体が変わるとここまでいろいろ変わるんだな。

当然だって言えば当然だけど、やっぱりフシギな感じ。


「………………………………」


……ところで、ついさっきからたった数十センチという近距離からときどき漂ってくるのは……誤解を招きそうな表現だけど若い女の子の匂い。


シャンプーとかその辺のやつ。

さっきの……髪の毛がくるんくるんしていたJKさんともまた違う匂い。


前は気にならなかったっていうかそもそも人に近づかないようにしていたから忘れていたけど、そういえば男女とも子供のころと学生のころ、社会人になったばかりと中年に入ったくらいの年でずいぶんとにおいが変わるんだよな。


香水とか整髪料とはまた違う体臭っていうのか?

表現は嫌がられそうだけどそういうもの。

僕は微妙に匂いに敏感だからそういうのが気になってたんだよな。


だから今の僕のハチミツとミルク系統の甘い体からの匂いも気になるんだ。

あと髪の毛に残っているシャンプーの匂いも。


……変態チックだから止めておこう。


でも相手がおひとりさんな女の子……珍しい気がするな、学生さんの女の子がひとりでって……で助かった。

いくら混んでいるからっていってもその辺は配慮してくれていたんだな。


……僕的には別に男でもいいっていうかそのほうが楽なんだけど2人3人で来られたりしたらうるさくてうんざりしていたところだしお互いに気まずかっただろうから、よかった。


「………………………………」

「もむもむ」


とりあえずがんばって食べよう。

あとちょっとだけ。


お肉だけでも食べて体力を……うぷ。

あ、限界に近いかも。


「………………あの――……」

「んく……なんでしょうか?」


……食べている途中で話しかけないでほしかった。

思わず変な声が出てこれじゃ子供みたいじゃないか。


もちろん子供なんだけど、せめて態度だけでも大人で居たい。

ささやかな僕の抵抗だ。


「わぁ…………」


「うわっ……」みたいなニュアンスじゃないからよかったけど、なんか顔を上げたら反応された。

言われたことはないけど「うわぁ……」みたいなのを年頃の女の子に言われたら、いくら僕でも1週間くらいはダメージを後から後から受け続ける自信がある。


せめて平均でありたい。

そう思う今日このごろだ。


「あ、いぇ…………っ、せ、席っ。 ありがとうって。 …………聞こえてない、と思った、から……」

「いえ、お互いさまですから」

「……………………………………」


なんだ、ただ礼儀正しい子だっただけか。

変に疑ってごめんね。

友達すらいなくて機微が分からない僕を許して?


そう心の中だけで謝っておく。


今初めて目が合ったっていうより合わせたんだけど……斜め前に座った子は今の僕よりも3つ4つ上くらいの……中学生くらい。


つまりはJCさん。

若いっていうか幼いな。


今の僕の方が幼い体なんだけど、おとといまでの価値観は20代の男なんだからしょうがない。


その子は髪の毛は肩くらいまでで特に何もしていない普通の女子中学生って感じ。

けばけばしくない時点で僕的には安心できる感じ。

さっきのJKさんと対称的なJCさんだ。


顔は幼い感じだけど細かいところはきれいにしているし小学生じゃない気がする。

なんていうか感覚だけど、小学生と中学生のあいだにははっきりと分かる雰囲気の違いがあるし。


ときどきやってるバイトでの経験が活きる。

子供の相手はそこそこに得意なんだ。

大人相手はまるで駄目だけども。


「………………………………」

「………………………………」


目が合って10秒を超えている。

それにしても見つめられている。


すごく。

長く。


なんで?


「……あの、なにか?」

「あっ、……い、いえなんでもっ」


「………………………………?」


何を言いたいんだろうか。


さっきの店でもここまでは見つめられなかった……いやどうだろうかあのくるりんさん……けど、知り合いか何かにでも似ているんだろうか。


この体にはなったばかりだから誰かと会ったこともないしな、そうじゃなければあれだ、珍しい色の目だからってのがあるのかも。


……口を開きかけてなにかを言いたさそうにしているんだけど話そうとしては閉じるその子。


「………………………………」

「………………………………」


妙な緊張感を僕から解すように視線を落とす。


まぁいいよな、見られるだけなら。

着替え終わったときみたいに間近で見られているわけではないしお人形さんにされるでもないし。

あれは地獄だったからここは天国。


目と髪の色が珍しいだけかもしれないしそのうちに興味もなくなるだろうし。


それよりも両手で持っている、まだ相当残っているバーガーとプレートの上に残っている外側から冷えて固まり始めているポテトを……どう考えても食べ切れなさそうなのが問題。


ジュースはまぁいいとしても食べものを食べないでそのまま捨てるのは心情的に嫌だけど、かといって持ち帰って食べるほどではないしなぁ。

しなびてまずくなっているだろうし、なによりもゴミ捨ての日まで台所からそこはかとないこの臭いが漂うようになるのは困る。


こういうのの臭いって結構しつこいからなぁ。

けど捨てるのももったいないからがんばって食べるか?


いやいや満腹すぎて帰り道でダウンしたら意味がない。

どうしたもんか。


「………………………………」


じーっと前から届く視線。


やめて。

僕は視線に弱いんだ。


きっと第六感的なのが発達してて他人の視線がダイレクトに脳に届くんだ。

だから止めてほしい。


やめて?


そう思うけど帽子越しにでも届く視線。


なんだ?

何がそんなにこの子の興味を引いているんだ?


……やっぱりこの髪と目と肌の色の組み合わせは珍しいんだろうか。

でもこの辺だって今は見た目が明らかに外の人っていっぱいいるしな。

なんならハーフとかクオーターとかの人も……僕の時代で学年に何人かいるくらいだったし。


うーん。


「………………………………」


視線が嫌だな。

わずらわしい。


いや、ヤな感じのじゃないって分かるんだけど……好奇心のもそれはそれで嫌だ。

観光地で寂れた博物館とかに行って案内の人に絡まれるときくらいに。


「じ――……」


口に出しているような幻聴が聞こえるほどの視線。


…………こうなったら仕返しだ。


「あの」

「うっひゃぁぁぁぁ――――!? ごめんなさい! じろじろ見て! もう見ません!」


声の主はがたんって席ごと飛び跳ねるようにしてのけぞって叫んで慌てて下を向く。


一瞬周りが静かになる。


「あ。 ごめんなさい、ごめんなさい……」


ぺこぺこと頭を下げているらしいびっくりJCさん。


もう、僕までびっくりしたじゃないか。

ほら、手にじわって汗がにじんでるし。


だからびっくりは苦手なんだ。

ついでに周りの人たちが「なんだなんだ」って見てきてるのが分かるのもまた嫌だ。


一瞬だったけどその一瞬が僕には永遠。

僕はその辺の石ころになりたい。

考えるだけで良い存在になって、そのうち考えるのを止めたいんだ。


なんてネガティブになったりもしたけど立ち直る。


それにしてもうるさい声。

こういう声って頭に響く。


だから苦手。

嫌いよりかは苦手なんだ。


だからさっさと言ってみよう。

言うだけならタダなんだ。


「残ったんですけど食べます? これ」

「…………………………………………うぇ?」


変な声。

ちょっとおかしくってヤな気持ちになったのがどっかに行った。


「もう食べきれないので残すところだったんです。 これなら指も口もついていないので、よければ」

「食べます!!」


耳がキーンってする。

うるさい。


っていうか元気だなこの子、なんとなく察してたけど。

テンションが高いっていうか素のエネルギーが高いって感じ。


僕が苦手なタイプだ。

JKさんに続いてそういうタイプとしか遭遇しないのか。


……今日だけでやたらと構ってくるのと元気すぎるのと。

僕との相性が悪い順に遭遇している気がする。


厄日だな。

いやそれをいうんだったらこの姿になったあの朝が大元の原因なんだけども。


「でも、ほ、ほんとに……?」


その子の目は僕の食べ残し……さすがにバーガーじゃないだろうけど……にくぎ付け。

自分のほかほかのが目の前にあるのにな。


そんなにお腹が空いていたのか?

いやしんぼなのか?

まぁこの年ごろはいくらでも食べられるんだ、不思議じゃない。


ダメ元だったし初対面だし要らないって言われるって思っていたんだけどすっごく欲しそう。

僕だったら初対面の人からなんて絶対にNOだけどこの辺は学生特有の距離感だろうか。


まぁ今の僕は子供だしな、抵抗感がないのかも。

こういう子って男女も歳も関係なくクラスとかにいたしな。

そう思うとちょっと懐かしいくらい。


いずれにしろ僕にはさっぱり分からない感覚だ。


「ではどうぞ」


それあげるから静かにしてね。

っていうか僕はおかげで食べ残しもしないで食べ過ぎもしないで出られるから助かる。


目と口を中途半端に開けているその子にポテトをほぼ手つかずのまま手渡してさっさと荷物をまとめる。


…………ぐ、重い。

イスから降りてさっきの重さがまた肩と腕と手のひらにかかる。


けどもうちょっとがんばろう。


くいしんぼに餌やりして気を引いているところでそそくさと。

これ以上会話しないで済むのがありがたいところ。


……バーガーはもったいないけどごみ箱へ。

食べきれなくてごめんなさいって。


ごみ箱に落とした音で罪悪感。

ずしんとした心と荷物を引きずりながらのたのたと出口に向かう。


……にしてもやっぱり重い、重すぎる。

この調子だと買い物のときはリュックとかじゃないと厳しいかもな……。


店の出口に近づくに従ってますます増えてくる人たちにぶつからないようにしつつ日向へ。

他の人たちはそこまで僕のことを見て来ない。

身長差が効いているらしい。


……うん。

少し休んで食べたからいくぶんは楽になっているみたい。

これなら家までの残りもなんとかなりそう。


ふと思ってパーカーの袖を掴むようにして袋を持つと地味に手の痛みがなくなることに驚きつつ、ジャンキーな臭いのする建物を後にして一路家へ。


それにしても驚くほどの少食ぶり。

これからの食費、だいぶ浮くかもしれないな。

帰ったらこの先の生活費のこと計算し直してみよう。


食べる量がこれだけ減るんだったらムリして激安食材と節約料理に頼る生活でなくてもけっこう持つかもしれないし。


……あと、このぶんだと呑めるお酒の量も減っていそうだし。

っていうか呑めるんだろうか、そもそも。


僕は生命線のお酒のことを思う。

うん、大丈夫。

僕の喉がごくりって鳴ったから体は受け付けるらしい。


もちろん確実に法律的には大問題だけど僕ひとりしか知らないんだしなにより中身は成人しているしセーフセーフ。


いやまあアウトなんだけど家によってはこっそり子供にも……ってあるみたいだし。

悪いことだけど人に迷惑かけるわけじゃないから良いよね?


そんな言い訳を頭でしながらかさかさ音を立てるビニール袋ととぼとぼと。



☆☆☆☆☆



「彼」が先ほどまで居た店内。


先ほどの少女は席を立ち「彼」の座っていた場所へ移動していた。

目の前に居た小さな「彼」の座っていた席に腰を落ち着けた少女はしばらくのあいだ……よろよろと出て行ったフード姿の消えて行った店の出口を眺めていた。


「うーん?」


手渡された冷えているポテトを口にしながらなにかを考えているのか、うなったり口元を緩ませたりきつくさせたりしながらちらちらとスマホの画面を見ながら考え込む。


そうして数分かけてもらった分と自身の分とを胃に収めきってひと息。

周りの席が空いた一瞬を狙い通話画面に切り替える。


「あ、もしもし? あのさぁー実はね、たった今のことなんだけどね?」


そんな話をしだした。

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[良い点] tsロリ百合いいね [気になる点] 引き篭もりの対人恐怖症は服屋に行かないし疲れたからってファストフード店入らないしそもそも検証のためでも街には出ないと思う 後は個人的に時系列が飛び飛びな…
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