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35話 「ねこみみ病」 1/7

この作品は全年齢対象です。なんら、やましいところはありませんし、していません。ただただに響ちゃんが猫(みみ+しっぽ)もふもふしているだけです。心を綺麗にしてお読みください。

「んっ……にゃ、にゃっ」

「……………………ごくっ」


「…………………………ほう……」


猫の耳――ねこみみとしっぽは確かに神経と繋がっていて体の一部になっているらしい。


だからこうして耳の……人のじゃない、猫の耳の先っぽやその先に生えている毛をくすぐるようにさわさわするだけで、髪の毛みたいにくすぐったいと感じるらしい。


「やぁっ…………………………ふにゃ」


毛がやわっこい。

耳自体も柔らかい。


いや、耳なら人のだって柔らかいはずだけどこんなにはあったかくないだろうし。

なによりも毛がまんべんなく生えているし。


総合的な触り心地は段違いだ。


僕はとても満足している。


「ふ、ふたりともー? ちょーっと」


「……ふむ」

「はにゃあっ!?」


その耳……ねこみみは1本1本が髪の毛とは違う質感を備えていて、地毛が黒な島子さんの髪の毛よりも薄い色をしている。


暗い緑色が混じってる感じだから……多分明るいところで見るとエメラルドグリーンな毛。


髪の毛に比べたら短いっていうのと、ちょっとかき分けたら地肌……猫の耳の地肌がこうなっているっていうのは初めて見たんだけど、とにかく地肌が見えるくらいには細かく生えていないから薄く見えるだけなのかもしれない。


あと地肌って薄い色なんだな……お肌の色よりも白っぽいし。


非常に興味深い。

存分に触って良いって言われたから触ろう。


この歳になるまで猫とか飼わなかったもんだから新鮮すぎるんだ。


「あ、あぁっ………………ひ、ひびきしゃぁん………………」

「すご……みさきちゃんが…………ごくっ」


「くすぐったいなら止めますよ?」

「………………つづけて、ぇ」

「良いんですね?」

「…………………………」


こくっと頷く猫さんを見て僕は手をまた動かし始める。


僕も子供のときはくすぐったがりだった記憶がある。

だからそうだったら悪いから止めようかって思ったけど続けても良いって言われたし続けよう。


猫のヒゲはセンサーだとは知っていたけどどうやら耳だけでも敏感で、つまりはこうして僕が触っているだけでもくすぐったいらしい……けど、不快じゃなくって嫌じゃなくって我慢できる程度……ってことなんだよね、きっと。


ときどきもぞもぞしてるから声かけると「気にしないで良いんですにゃ!」って何回も言われたし、止めなくて良いらしいなら遠慮なく。


女の子にとって髪の毛は命。

それはあの子たちから毎回のように髪の毛いじられてたからよく知ってる。


それで、この子のねこみみは髪の毛と一体化しているもの。

つまりは髪の毛。


だから本当に弱い力、どこかで聞いたフェザータッチで優しくしてあげている。

触らせてもらえるんだからこれくらいは配慮しないとね。


「んっ……あ、あぁっ……」


「あー、これはそのですねー、そのー! ……ねこみみ病だとグルーミンクが! はい! 必要なんですよあっははははーっ」


おや、店員さんがお茶のおかわり持って来てくれてたらしい。

けどなんで個室の入り口で立ったまま僕たち見てるんだろ。


……ああ、きっとねこみみ病自体は知ってても知り合いにいないとかなのかな?

実際どのくらいいるのか聞いてなかったけど……まぁ多すぎるってことはないだろう。


「あ、真面目にこれケンゼンなやつなのでお願いですから書き込みとかしないでくださいね? はい、いちおー政府からのご依頼なんで……はい、ほんっとすみません」


「んゃあ……」

「ほんっとすみませんほんっとすみません、未成年に対してとかじゃないんですほんとに!! 通報とかしないでくださいね、とってもとってもややこしいことになるので!! はい!!」


それにしても手触りが良い。


触るたびにぴくぴく生き物みたい……取れちゃわないか不安になるくらいにはぐるぐる回る。

僕の手から逃げようとしたり、けど逆に近づいてきてみたりしたり。


これは島子さんの意思そのものなんだろうか?


それともさっき聞いたような猫としての本能とかいう触られたがる習性が備わってしまったからなんだろうか。


興味深くておもしろい。

ずっと触っていたい。


「……ほどほどにね――……」

「?」

「……邪念がないから余計にかぁ……なむなむ」


よく分からないけど店員さんはいなくなっていてポニーさんが両手を合わせている。

だからなんとなくで片手で触っていたのを両手にしてみて、両方のねこみみを軽くもみもみしてみる。


「ひゅあっ!? ……ふーっ、ふーっ」


ちょっとくすぐったかったかな……けど目の前から離れないし、良いんだよね?

まぁこの子も女の子だけど高校生だし腕力では圧倒的なんだから嫌だったらはねのけてどいてくれるだろうってとにかくモフる。


「んゆ……んゆっ……」


刺激に慣れてくるまでは毎回ぴくってなるけど、顔を見てみてもこくこくとうなずいてくれているし問題なさそう。


なんとも言えない弾力が指に返ってくる。

柔らかくて温かくて気持ちいい感じの。


それにしても確かに動物の毛って触っていると気分が落ちついてきてなんだか穏やかな気持ちになってくるなぁ。


アニマルセラピー?

そういう感じの。


昨日から今日までの3ヶ月でのストレスとここに来るまでの凍えそうなストレス、そしてさっきの魔法さんで3重のストレスを抱えた僕にとってはありがたいことこの上ないもの。


触っているだけで胸がぽかぽかしてくるっていうか本気で癒やされるし。


……ふたつの耳だけでこうなんだから、しっぽだとどうなっちゃうんだろう?


耳を堪能したらしっぽにも手出ししたいところだ。


「…………………………」


なんとなくでねこみみの内側へもほんのちょっぴり指を差し込んでみる。


……指を包んでくる、なんともいえない毛の集団の感覚。


「…………~~~~~っ!?」

「あ、ごめんなさい、痛かったですか?」


お耳に指突っ込んだ瞬間すっごく毛がぶわってなったから心配になったけど平気らしい。

ほんの少しだから大丈夫だって思ったんだけど……そんなにこそばゆかったのかな。


「…………………………響くーん? ちょーっとストーップ。 もーだめ」

「はい?」


「そのままだとみさきちゃん…………えっと、そう! くすぐったくて!! 実はこの子いじっぱりでくすぐったいのくすぐったくないって言い張ってたから私も話し合わせてあげてたんだけどぉ!! でもやっぱりそろそろ危険そう……そう、笑っちゃってお化粧崩れちゃったら困るから!! ね?」


「あ、はい。 そうですよね、女の人はお化粧崩れたら大変ですものね」

「んうっ…………………………にゃあ」


名残惜しくお耳の穴から指を出して。


「……すんすん」

「ふにゃあっ!?」


なんとなくで嗅いでみたけど……なんて言うかクッキーみたいな匂い。


「…………………………ふにゃあ……」

「……あのさ? ひとつ聞いて良い? 響くん」

「はい、何でしょう」


「響くんって、その……そういうの……知ってるお年頃……? 中2って……いえ、でも個人差があるって言うし……」


「そういうの? って?」

「あぁいやどう見てもわかってなさそうだしいいや。 分かっててこれやる悪い男の子でもないはずだし……じゃあ説明の続きの打ち合わせ! するからちょっとだけ待っててね?」

「はぁ」


まだまだ触り足りなかった。


説明終わったらまた触らせてもらえるよね?


触って良いよって言うから触り始めたのに、でもやっぱり途中で駄目ってなってがっかりした僕はしぶしぶ立ち上がる。


うずくまって……身長差的に僕が島子さんのねこみみを触るためには、イスじゃなくって床でしゃがんでもらわないと駄目だったんだ……そうしていた島子さんは確かに、くすぐったさを相当にガマンしていたのかかなり激しくなっていた息を整えつつ、真っ赤な顔をしながら僕を見上げてくる。


目じりに涙がにじんでいる。


そんな顔をした島子さんが、じーっと僕を見上げてくる。


「……にゃ、にゃあ……」


そんなにくすぐったかったんだったらさっさと止めてって言えばいいのに……本当にいじっぱり?

いや、1回「良いよ」って言ったけど意外とくすぐったさすぎて止めてって言えなかったのかも。


そう思うとちょっと悪い気がする。

なんだか顔にも汗かいているから後でお化粧って本当みたいだし。


「……大丈夫? 立てる?」

「……な、なんとかぁ……」


たったの2、3分モフっていただけだったのに足が疲れたのか……いつもの僕みたいによじ登るようにしてへろへろとイスに腰掛ける。


「…………………………ふはぁ…………」

「済みません、もっと加減ができなくて」

「い、良いんですにゃ…………ふぅ。 それで響さん? 今触ってもらって分かったって思いますけど、この耳もしっぽも本物ですにゃ?」

「はい」


ということはやっぱりしっぽも触らせてもらえるんだ。


そんな希望が湧く。


彼女の、スカートに被さるようにしてぴこぴこしているそのしっぽ。

耳とはまたちがうだろう質感のそれ。


ぜひ堪能したいところだ。

早く終わらないかな、ねこみみ病の説明。


いや、しっかり聞かなきゃいけないんだけど。


関係なさそうだけど魔法さんと関係あるんだろうそれを。


「この猫の耳も猫のしっぽも、どちらも造りは本物の猫がベースなんですにゃ。 人間の細胞に猫のDNAを入れた感じでできている……らしいですにゃ…………んにゃあ!?」

「ちょ、ちょいちょい響くん!?」


「…………………………駄目ですか?」


思わずで手を出しちゃった尻尾。


その尻尾もまたくすぐったいものだろうからって優しく両手でしゅるしゅるってしただけなのに……。


なんだかしっぽの先が僕の方に向いていたから「説明だけだと飽きるだろうし触ってもいいよ?」っていう合図だったのかと思ったのに残念だ。


「……今は駄目ですにゃ」

「みさきちゃん?」

「……今は駄目なんですにゃ」

「今だけじゃなくって尻尾はダメ」


えー。


「くすぐったいのが我慢できないって今日知ったのでごめんなさいですにゃ、響さん」


とっても残念だけど本人が言うんだったらしょうがないか……。


「……えっとですにゃ? 触られた感覚……敏感なので毛先を撫でられるだけで寝ていても起きちゃうくらいだったりしますし、このみっつめとよっつめの耳……あ、もちろんこの通り人としての耳もありますにゃ? まぁ猫の方は中からも毛がびっしりと生えていて奥まで見えませんけどにゃー。  だからお掃除するときは綿棒よりも太いのが頭の中までするするっと入っちゃってちょっと怖かったりしますにゃ」


「そうなんですか」


……耳が4つもあったら聞こえすぎて大変じゃない?


そうは思うけど普通にしているし大丈夫なんだろう。


「しかもしっぽは運動性能が上がるんですにゃ。 まぁこの太さと長さですからにゃ、そこそこの重量ですしお医者さんによると骨もあるそうですし、これのおかげでバランスを取ったりできるのでしっぽが生えて以来転んだことないほどなんですにゃ。 まぁ大人になれば転ぶなんてそうそうないですけどにゃ……とっさにどこかをしっぽだけでつかんで支えたりもできますし、慣れれば便利ですにゃ」


「……尻尾で体重を……痛くないんですか?」


「自分でするぶんには。 そうですねぇ、腕でなにか重いものを持ち上げたり鉄棒とかにぶら下がったりするときみたいに心の準備もできていますし? それに結構筋肉もあるみたいで、ふつーに『腰に生えている腕』みたいな感覚ですにゃ」


「そうなんですか。 ところでそろそろしっぽも触っても?」

「おーい、響くん?」

「……あんまり優しすぎてもくすぐったくなっちゃうので、もっと、ちょっとだけ強めでお願いしますにゃ」


「……みさきちゃん? さっき私に言ってたの返そっか……?」

「これは説明! 説明のためなんですから大切なんですにゃ!」

「本当にー?」


「良いんですね?」

「…………はい」

「わかりました、では」

「…………………………………………………………んあっ……にゃっ……」


差し出してきてくれた尻尾をもう1回、今度はもうちょっとだけ力を込めて。


……確かに太いな。

人の腕よりは全然細いけどしっかりした太さと重さとあったかさがある。


あとはふわふわ。

もふもふ。


…………露天とかでよく売っている、猫のしっぽのおもちゃ。

あんなものが猫だましだと思うくらいには触り心地とつかみ心地がいい。


ああ……うれしい。


今度猫カフェに行かなきゃ……ああでも普通の猫は触らせてくれないよなぁ、ここまでは……。


「…………………………あ、ぁ…………っ、ふぅっ、………………」


さっきとはちがってイスに座ってもらっているんだし、そこまでお互いにムリな姿勢でもない。


だからとても触りやすくて、もうちょっとそばに寄ってしっぽを軽く目の前までつかみ上げてしゅるしゅると堪能することができる。


すばらしい限り。


「…………んぅぅ、ひ……ひびき、しゃん……し、しょこを、もっと…………そう、にゃぁーっ…………」

「はいはいストップストーップ!!! 今度こそダーメ!」


しっぽをほっぺたでしゅっとしてみたりしていたら岩本さんに取り上げられた。


「…………………………」


普段は温厚な僕でもイラッとしたからジトッとした目で見上げてみる。


「あ、いや――……その、ね? えーっと、みさきちゃんはね? 典型的な『ケモノ化』って呼ばれてる、ねこみみ病の愛称が生まれるきっかけになったいろんな症候群の中でも典型的で、わかりやすいものなのよ」

「そうですか」


尻尾の魅力に比べたらねこみみ病なんてどうでもいい……いや、良くないんだった。

よく分からない謎の魅力のせいで暴走しかけた気がするけど大丈夫、もう落ち着いた。


けど、ねこみみ病……のケモノ化か。


誰か知り合いに出ないかな。

そうしたら毎日でも話しに行ってやっても良いのにね。

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