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IV


「さて、言いたい放題言ってくれたわね。付き合うふりをするに当たって私の知っている丹生くんをおさらいするから、もし本物と齟齬があったら教えてもらおうかしら。」


今から復讐タイムよ、丹生くん。よくも乙女のプライドを傷つけてくれたわね。


「待って、付き合うに当たってのおさらいとか別にいらないよね。普通はやらないよね。」


丹生くんは教室のドアをちらほら見ながら言う。まだ始業まで割と時間があるけど、すでに何人か人が来ている。


「確か、丹生くんはママに毎朝キスをしているのよね。『ママー愛してるー』とか言いながら。」


入学式に和服でやってきた丹生くんのお母様は目立っていた。フランス人が和服着ているだけでも目立つのに、彼女は相当「マダム」然とした美人だったから。あんなお母さんがいたら大好きにもなるかもしれないけど、ここはいじらせてもらう。


「うん、ママンも僕が大好きだからね!ママンに送り出してもらえると一日を元気に始められるんだ!」


珍しくハキハキとした答えが返ってきた。ホッとしたように、一点の曇りもない笑顔を浮かべている丹生くん。ここまで開き直られると、自分がなんだか悪いことをしたような罪悪感が生まれてくる。


「えっと、人づてに、丹生くんがお姉さんに耳かきしてもらって『ああん、気持ちいいよお、もっとお!』なんて喘いでいると聞いたけど。」


今度は流石に顔を赤らめる丹生くん。


「お姉ちゃん優しいんだ。中学の間はいじめられて大変だったけど、家族の愛情のおかげでここまでやってこれたなって思ってる。もう感謝の気持ちでいっぱいだよ。」


なぜ耳かきから強引に感動的な展開に持っていくのか。そして情報源は気にならないのか。それでいいのか丹生くんよ。


「こんなに僕の家族に興味を持ってもらえたの、初めてなんだ。なんだか照れちゃうな。」


駄目だよ、丹生くん。そんなに幸せそうな顔をされたら、「高校デビューする前にまずマザコンとシスコンを治したら?」なんてこと言えなくなっちゃうじゃない。でも聞いている限り幸せそうなご家族だし、丹生くんが反抗でもしたらオロオロしちゃうだろう。ご家族をからかったみたいで、ちょっと申し訳ないことをしたかな。


反撃するはずが、無意識なカウンターに遭遇しちゃったみたい。


「そう、それはよかったわ。幸せそうなご家族がいるのはわかったし、友達に移りましょうか。まずはお世話になっていたカルテルの皆さんから。」


アプローチを変えてみましょう。


「あの、カルテルのみんなには、どっちかというと、いじめられていたし、お世話になったわけじゃ、、、」


爽やか天使モードはひと段落したみたいで、歯切れの悪いいつもの丹生くんが戻ってきた。


「あれ、そんなこと言っていいの。馬場さんに抑えつけられていたとき、トロンとした顔をしていたよね。お家でその感触を思い出して、色々お世話になったんじゃないかしら。」


「なんでっ、なんでえええええ!ふっ」


周りの生徒が「なんでえ」に驚いて丹生くんの方を見て着たので、慌てて口を押さえる丹生くん。所作はやっぱり女の子のそれだ。急に耳が真っ赤になったの、見ていると点火したみたいで面白い。やっぱり丹生くんは涙目がデフォルトだよね。


お世話になった件はもちろん、ハッタリだけど。丹生くんがものすごくピュアな可能性もあったのでギャンブルではあったけど、まあ予想通りだったみたい。一つ離れた兄がいれば、男の生態なんて嫌でもわかってしまうのよね。開き直らないで「なんでえ!」と答えるのはいかにも丹生くんだけど。


「あら、そろそろ始業ね。今週末馬場さんと会う約束があるのだけど、丹生くんもさっきみたいに女の子をからかっていたら、私も口が滑ったりするかもしれないわ。」


青くなるかな、と思ったけど丹生くんはまだ赤いまま。何か言いたそうに口を開けたまま困った顔をしている。私の優勢で終わったようだ。


「今日からよろしくね、私のボーイフレンド君?」


ベルが鳴った。高校初日、爽やかにスタートできそう。


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