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III

「麻田さん、フリだけでいいから、付き合っていることにしてくれませんか。」


丹生くんにしては高いボールを投げてきた。何が最終目的かしら。ただ断っても面白くないし、せっかくだから話を聞いてあげよう。傑作だった「ワオー」のお礼も兼ねてね。


「高校デビューって、モテるためにするのよね。私と付き合うふりをしたら本末転倒じゃない。」


丹生くんも多分高校デビューの意味もわかってないだろうけど、とりあえず指摘してみる。彼は不意をつかれたようだったけど、思ったほどたじろがなかった。明るい目で私をじっと見てくる。


「もちろん長期的にはちゃんと女の子と付き合いたいと思ってるけど、、、僕はね、中学のカルテルのみんなみたいに、色々な女の子が僕をいじめる展開を避けたいんだ。特定の、かの、、、彼女がいたら、きっとそんな風にならないんじゃないかと思って。」


カルテルとは丹生くんをいじる権利を独占していた女子5人組のこと。メンバーは入れ替わりがあったけど、基本的には卒業まで彼女たちが「お触り権」を維持していて、私を含めて他の生徒は観客だった。


なるほど、丹生くんにしては珍しく論理的なリクエストね。確かに私が付き合ったら丹生くんへの女の子のいじりも減るかもしれないけど、私にメリットが見当たらない。


「なるほど、でも私には何かいいことがあるの?モデルになってもらう代わりに秘密を守る約束はしたけど、その上付き合っても私にとってプラス要素がないわ。」


でもより深刻なのは、男の子が丹生くんに言いよる可能性も下げてしまうことだ。現に可愛い丹生くんはそっちのポテンシャルもかなり高いので、カルテルの真の目的は丹生くんを男の毒牙から守ることだった。私がカルテルに入らなかったのはその方針によるところが大きい。あと、自分がいじっていたら表情が見られないというのもある。


「確かに、麻田さんはそういうことに興味がないかもしれないし、カルテルにも入ってなかったらから僕に興味もないだろうけど、、、」


興味はありますとも、丹生くんの表情に。今の目を流してちょっと膨れ気味なほっぺをしているのもグッド。


今の時代、老若男女、ほとんどの人種の裸がインターネットで観られる。でも漫画の女性読者はそんなリアリティを求めてない。大事なのは雰囲気と表情。グーグルやアマゾンは欲しいものを言葉にして表せられるなら簡単に届けてくれるけど、こんな表情が欲しいな、って時に検索をかけるのは難しい。そこでこの専属モデル計画をさっき立ち上げたの。表情がわかりやすい丹生くんはまさに最高の素材。私をちょっと不審な感じで見ている今の目線も使えそう。


顔に見とれすぎて返事をするのを忘れていた。


「うーん、興味がないわけではないけど、付き合うふりをしていたら私も彼氏ができないしいいことないわ。それとも、水着の下も見せてくれるとでもいうのかしら。」


「それはダメっ。」


丹生くんが割と真剣な顔をした。文脈を一切忘れていいなら格好いい顔だ。


「冗談よ。」


詳しく描けても検閲にかかっちゃうだろうし、いいことないわ。ちなみに協力者の情報によると、ハーフの丹生くんは頭が薄茶色なら薄い体毛もベージュ色で目立たないらしく、男子風呂では「天使」と話題になったらしい。私自身としてはどうでも良いのだけど、5月上旬にある一泊二日のオリエンテーションで天使に言いよる男子がいないか少し気になる。


「ねえ麻田さん、今、興味がないわけではないって言ったよね。」


丹生くんがなぜか嬉しそうだ。まさか露出癖あったりしないよね、どんな天使だ。


「誤解を招いたらごめんなさい。彼氏を持ったり、デートに行ったりっていう並大抵の恋愛への興味よ。」


そう、BL漫画を描いているからって現世の恋愛を捨てていると思ったら大間違い。それなりの興味はある。でも中学生だと話の通じる男子なんていなかったし無理に付き合いたいとは思わなかった。


「だったらさ、僕と付き合うふりをすればいいんだよ。」


ほら、中学男子って論理がスペースシャトル並みの勢いで飛んで行ってしまって、話していて困っちゃうでしょう。こういうのと遊園地の行列なんかにトラップされた日には、チュロスの角に頭をぶつけて死にたくなるのだろう。


「丹生くん、よくこの高校受かったね。」


丹生くんは全くもって頭が良く見えないし、現に言動がそれを証明しているけど、ここは西東京ではそこそこの進学校。でも英語の点はすごくよかっただろうな。ちなみに丹生くんはお母様譲りのフランス語なまりで英語を喋る。


「怒るよ、麻田さん。」


丹生くんが珍しく低い声を、出そうと頑張った。怒っている目をしているけど顔も体も、声までも可愛いから怖さはゼロ。そしてさっきから表情は最高。秘密を守るだけでこの顔を好きにできるなんて、私の高校生活は素晴らしいスタートを切った。


「ねえ怒らないで聞いてね麻田さん。麻田さんが可愛いし性格もいいのに、彼氏ができそうになかったのは、とっつきずらいという印象もあるだろうし、あとBL漫画とかのもあって、そういうことに興味がないのかなって思われてたのもあると思うんだ。」


驚いた。丹生くんがこんな無礼なことを言うなんて!できそうになかった、という言い方はないよね。BL漫画のことはまあわかるけど、とっつきづらいとは失礼な。何事もオープンにしてたし我ながら気さくなキャラクターだったのに。


ちょっと制裁が必要ね。


「そうね、ありがとう丹生くん、確かに私はプライドが高くて、丹生くんみたいに涙目で『もうらめえ』とか言えないし、とっつきづらいのかもね。丹生くんを見習って『耳はやめてえ』とか言いながら耳を抑えて逃げ回っていたら私ももうちょっとモテたと思うの。それにあのとき丹生くんが『あふん』って、、、」


「そこまでにして、お願いだからそこまでにして、お願いだから」


丹生くんが赤くなったり青くなったりするのもなかなかの光景だったけど、ちょっといじめすぎたかな。


「私は今のところ筆を置くつもりはないし、とっつき安くなるように丹生くんの真似をするつもりもないわ。」


そろそろお開きかな。表情は堪能したし、あとはサクッと突き放してあげて「ガーン」という顔を楽しもうと思う。でもモデルは続けてもらうけどね。


口を開けようとすると丹生くんが早口で遮った。


「麻田さん、あのね、僕と付き合っていることにしたら、麻田さんすごくモテると思うんだ。」

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