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麻田さんは身を乗り出してきた。
「私に考えがあるの。」
麻田さんはあんまり表情を変えないので、僕には次に何を言ってくる予想がつかない。
「私の漫画のモデルになってくれない?」
「いや、それは、、、」
流石にちょっと遠慮したい。
麻田さんはBL漫画を描いている。普通の恋愛漫画も描いていて二足のわらじだそうだけど、どちらもプロも唸る腕前らしい。二つのペンネームでどっちも賞をとっている。本人は中学生のとき、どちらに関してもあけっぴろげで、双方に興味のある女子から人気があった。
男子はというと、じゃれついているところを麻田さんに独特の目線で見られてぞわっとした、という声も聞いたし、彼氏ができたら恋愛漫画の参考にすると言っていたこともあってか、彼女は見た目がいい割には人気がなかった。
モデルっていうと、当然BLの方なんだろうな。それはやだ。
「その、そこまでして女の子たちから逃げたいってわけじゃないし、それにね、もっと大事なことなんだけど、、、」
「女の子に辟易して男に走った訳じゃない、ということね。」
「そう、そこ大事」
よかった、わかってもらえた。やっぱり麻田さんはもの分かりがいい。でも彼女は嬉しそうには見えなかった。
「そっか、残念。丹生くんがモデルになってくれれば、丹生くんが大勢の女の子に言い寄られているところを助けてあげられたのに。」
「う」
確かに守ってもらえるのは魅力的だ。麻田さんならさらっと女子軍団をいなしそうだ。でも守ってもらうために失うものが多すぎるんだよね。
「でも仕方ないわね。それじゃあ交渉不成立っと。丹生くんは私の漫画のことを好きに話していいわ。」
麻田さんはサバサバしていて、僕に甘い声で襲いかかってきた女の子達と比べるとよっぽど好感がもてるんだけど、ここはサバサバされたら困る展開だ。
「あの、僕のあの件は」
恐る恐る尋ねると、麻田さんは考え事をするように天井を見上げた。
「あの件って言うと、『お触り権』の話かしら、それともバニーガールかしら、確かに女友達を作るのには格好の話題ね」
「わあああああ、やめて、ストップ」
どうしよう、BL漫画を秘密にしないんなら、僕の過去を秘密にしてもらう交換条件がない。でも、どうしても秘密にしてもらわないと。相手はビジネスライクな麻田さんだ。
僕は腹をくくることにした。
「モデルの話、詳しく聞かせて。」