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I

彼がこっちに歩いてきたときは、同中のよしみで私に挨拶をするだけだと思ってた。


「麻田さん、ちょっといいかな。」


中学の頃のようにもじもじ話かけてきた。相変わらず宝塚の男役みたいな、高すぎないけどセクシーな声をしているのよね。


入学式で呼ばれた彼の名前は丹生潤。フルネームにはフランス人のお母さんがつけた名前が入って、ピエール・丹生=ドラサブリエール・潤だったと思う。


茶髪のよく似合う顔立ちに明るい茶色の目、全女子が羨む白く綺麗な肌。小柄だけど、実は体つきがいいのは知っている。私だけが知っているんじゃなくて、とある事情で中学校の女子はみんな知ってた。


「その、僕、、、俺たちってさ、お互い秘密にした方がいいことがあるよね。」


丹生くんはいつもしどろもどろだったけど、この要領の悪い喋り方もちょっと懐かしくなってきた。


「私は別にないけど。」


すまして答えると、丹生くんはきょとんとしてしまった。


「え、その、言い方悪かったかな、つまりね、」


つまり、を連呼して結局つまらないのも丹生くんらしくて可愛いんだけどね。あ、丹生くんの肌が赤くなってきた。普段白いからこういうときわかりやすくて楽しい。


「麻田さんの、その、作品てさ、僕は詳しくないからわからないけど、あんまりよく思わない人もいるかもしれないし、そうすると麻田さんの学生生活って、ほら、ね。」


こういう「ほら、ね」で察してほしいタイプ、普段なら面倒だなあと思って会話を切り上げるけど、丹生くんの困っている様子が可愛いから許せる。


「つまり、私が描いていることを黙っている代わりに、丹生くんの例の過去を黙っていてほしい、とそういうわけね。」


普段は「はっきり言って」と言っているところだけど特別サービスで解釈してあげる。丹生くんは見るからに嬉しそうで、ぱあっと表情が明るくなる。子犬みたい。


「麻田さん、わかってくれると思ってたんだ。嬉しいな。」


弾けるような笑顔だ。こんなに可愛いのは、もういじめてと言っているようなもんだよね。


「まだ協力するって言ってないけど。」


ほら、しゅんとなった。本当に子犬みたい。


「それに私ね、こう見えて自分の作品に自信を持っているの。誰かが悪く言おうと隠すつもりなんてなかった。それなのに秘密にした方がいいなんて、傷ついちゃった。」


実際は傷ついてなんかいないし、描いているものは言われなくても秘密にしようと思ってたけど、面白そうなので続けてみる。


「そうだよね、麻田さんの友達、麻田さんを教祖みたいに慕ってたよね。」


うつむきながら呟く丹羽くん。教祖ってなかなかの言いようだけど、悪気はないのよね。


「僕、もうダメみたいだ。高校デビューしようと思ったのに」


俺っていう一人称は数分で諦めたみたい。高校デビューって自分で言っちゃうところも諦めが早いところも丹生くんらしい。


「あのね丹羽くん、私が黙ってても、この分だと中学校と同じ展開をたどってたと思うの。」


丹生くんの頭がもう一段ガックリする。もう丹生丸は沈没しそう。そろそろ助け舟を出してあげよう。


「私に考えがあるの。」


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