プロローグ 前世
「生」ある者は必ず死に、そしてまた、別の「生」へと生まれる。
全ての生き物はそれを繰り返している。
と、誰かが言っていたのを聞いたことがある。
それを聞いて私は「どんな人間でも生まれ変わるのだろうか」と疑問に思った。
例えば、悪い事をした犯罪者、身体的には傷を与えてはいないとしても心に傷を負わせるいじめをしていた側。
そんな人たちでも生まれ変われるのだろうか。
それなら、私も生まれ変わるのかもしれない。
そういえば、最近流行っていてよく買っていた本には死んだら異世界に転生するという物語がたくさんあった。
どうせ死ぬなら異世界転生がいいな、なんてのんびりな事を思いながら私の意識はだんだん薄れていく。
視界ももう暗い。
誰かが私に声を掛けている。サイレンの音も聞こえる。
でも、指一本すら動かす事もできない。
何故、私は今こんな状態なのか考える。
そう、確か仕事帰りの出来事だった。信号無視をしたトラックに轢かれたのだ。
痛みがないのが救いかもしれない。
もし、生まれ変わるのなら本当に異世界転生して、あわよくば乙女ゲームではなく、大好きでやり込んでいたあのRPGゲームの世界に転生したい。
最期に何を思ってるのだろうと自分でも思う。
こういう時って家族とか友人とか恋人の事を考えるだろう。
なのに先に異世界転生したいなんて思うあたり、私は冷たい人間なのだろうか。
すぐ傍で聞こえているはずの声や音が遠ざかっていく。
いよいよ、私は死ぬんだ…。
死ぬのは、怖いな……。
ここで私は意識を手放した。