プロローグ : 地球最強の男《後編》
「さて、どうしたもんかな」
ツルギは辺りをぐるっと見回した。当然周りには死体が転がっている。
「………こんなもんか」
異世界だから、スキルがあり、チートのような奴らばかりだと思っていた。そして、そのような奴らに勝てるような強さを求めていた。
「違う。もっと、もっとだ」
ツルギは相手を求めていた。この強くなりすぎた自分と同等に渡り合い、語り合える敵とも仲間とも言える強者を。
異世界でそのような強者を求めて来たのだが、強者が賞金を求め集うと言われるコロシアムでこのレベルである。
流石にガッカリせざるを得なかった。
「あぁ、イライラするなぁ」
この虚無感を無くす為に異世界に来たと言うのにどうすればいいと言うのか。ツルギは頭をかきむしった。
と、そこに拍手を鳴らす者が一人。
「ハッハッハ!愉快、愉快。どうやったのかは知らないが、このコロシアムの者共を皆、殺してしまったようだねぇ」
豊満な体型をした男だった。手にはダイヤやルビー等の指輪をはめ、体は金や銀で彩られている。
「誰?お前」
「あれ?知らないのかね?私はこのゲームの主催者だ。このコロシアムで殺しあいをさせ、生き残った者には望んだ物を与えている」
「……ふーん。因みにさっきの人達って悪い人ばかりなの?」
「どうしてそんな事を聞く?お前には関係のない話だろう」
ツルギは少し、本当に少しだけイラつきながら言う。
【いいから答えろ】
「ヒッ、ヒイイィィィィ!!」
突如、男は失禁した。先程までの余裕は消え、その顔は恐怖で埋め尽くされていた。
男は悟ったのだ。この少年は、自分とは生物としての格が違う、と。
「いや、違う!自ら志願した犯罪者共や金に困って来たやつもいるが、数合わせのために参加させた奴らも何人かいる!先頭開始後すぐに殺されてた!」
「……へぇ。で、さっきの話の続きだけど、望みを叶えてくれるって本当?」
「あ、あぁ勿論だ!!金か!?武器か!?それとも女か!?望むもの全てを叶えてやる!!だから俺のことは見逃してくれ!!」
男は言葉を間違った。全てを叶えるという言葉は、この少年には決して使ってはいけない言葉だった。
そして少年は、いつも、ずっと、毎日、毎秒望むものを口にした。
「じゃあ強い人連れてきてよ。とびっきりの」
「……は?今相手にしてたのじゃ足りないと?」
「まあそうだね。今の奴らじゃ全然足りない」
「……今の奴らは国中の猛者達もいたはずだ!これ以上の強者となると『北のガウェイン』や『王国最強騎士、ザクロ』になる、だが私には連れてくることはできな「なんだよ、嘘つき」
ズプッと嫌な音がして、男が倒れる。
死体の胸には、風穴が開いていた。
「でも、いいこと聞いたな。『北のガウェイン』、『王国最強騎士、ザクロ』だっけ。よし、じゃあまずは王都へ行ってみるか」
そして、地球最凶の少年は、王都へ向かった。
★
その竜は、この世界で最も恐れられる存在の一つだった。
暗黒竜と呼ばれ、文字通り漆黒の翼を持つ者だった。
暗黒竜は退屈していた。
寝て、起きて、腹が減ったら食事を食べて、また眠くなったら寝て、起きて、食べて。
全てが退屈だった。毎日毎日繰り返す。何も変わることの無い。ただただいつもの毎日。
たまに人間が大勢来て攻撃してくるが、そいつらもただの食事となるだけであった。
竜は刺激を求めていた。
★
それはちょうど小腹が空いてきた時だった。
ちょうどそこに人間が歩いているのを見付けた。
遥か2000キロ上空から。
竜はいつも通り、何も変わらずその人間へブレスを吐いた。
周りを更地に変えるほどの灼熱のブレスだ。人間は頑丈なやつが多いからこのくらいがちょうどよく焼けると竜は知っていた。
そしてそのブレスはいつも通りに周りを更地に変えた。
が、一つ違った。
いつもならそこにあるはずの焼けた肉。それが無かった。
竜は疑問に思った。が、その人間が脆すぎただけなのかもしれないと深くは考えなかった。
しかし一応確認することにした。
そして竜はその更地に天から降り立った。
そして竜はその更地で死んだ。
★
「ドラゴンの肉って食べられるのかな?」
ツルギが巨大な頭を破裂させたドラゴンを見て言う。ちょうど小腹が空いてきた所だった。
「でも食当たりとかしたら嫌だな。止めとこっと」
ドラゴンの死体を放置して歩き出す。急に上から火が降ってきたことには少し驚いたが、異世界だからこんな事もありえるのだろうと思っていた。
そしてそのくらいは地球でも日常茶飯事だったからだ。
「さて、更地になって見通しがよくなったな」
遠くに目を凝らすと、王都らしきものが見えた。
「まずは『王都最強騎士、ザクロ』か。楽しみだなぁ」
そして、ツルギは歩き出す。
強者を求めて。
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