farewell
水族館を出た後、明日香と紳助はまるで高校時代に遡ったかのように距離は縮まった。
「どうする?水族館は見終えたけど、」
「そうだねー、紳助は何したい?」
「、、、」
少しの間が空いた。
これは男女がしてはいけなかった質問かもしれない。
ただ、今の明日香は就活にも疲れこの4年間のやるせなさを発散する為にも今は紳助とは離れたくなかった。
少しでも、戻れたら、あの頃に。
「取り敢えず、ご飯でも行こうか?」
「そうしよう」
ご飯、か。
午後7時にもなると、まわりの居酒屋は客でいっぱいだった。
「繁盛してるねー」
「本当に」
そんな会話をしていると、一件水族館と駅の間の通りの外れにチェーン店の居酒屋があった。
チェーン店だけあって大きく、席が空いていたのでそこに入る事にした。
「いらっしゃいませー」
あれ?何か聞いたことある声だなと思い、ふと顔を見るとそこには拓海がいた。
「え?なんでここにいるの?」
「働いているからだよ、そっちこそ勉強で忙しかったんじゃないの?男の人連れて居酒屋で勉強ですか?」
何か嫌味を言われたが無視して店内に案内してもらった。
席に着くとメニューをドンと置いて拓海は厨房に入っていった。
「あの人知り合い?」
「まあ、ちょっとしたね」
「邪魔じゃない?」
「全然全然!まだ、あいつといるくらいならか紳助の方がマシ」
「ひどい物言いだね、相変わらず」
そんな事を言い合いながら、メニューを決めようとすると、重要な事に気づいた。
そういえば今日は智恵美の誕生日だった。
慌てて携帯を見ると、智恵美を含んだグループのラインで大勢の人に祝われていた。
しまった、私も言わなきゃ。
そう思い携帯を触っていると、ちょっとトイレと言って紳助は席を立った。
おめでとう、明日しっかりとお祝いしますと送ったところで、ふと目をあげるとまだ紳助は帰ってきていなかった。
おかしいなと思いトイレに行こうとするとそこから拓海が出てきた。
「さっきの男の人知らない?」
そう聞くも無視して拓海は明日香の前を通り過ぎた。
「ごめんごめん、トイレ長かった?」
「あ、紳助長かったよ、心配した」
「してくれんだね」
「お金払ってもらわないとダメだしね」
「本当にひどい」
ごめんごめんと言いながら席へ戻った。
食べ終わってお会計をする時、紳助は全額出してくれた。
悪いなーと思いながらも、就職先が決まってないし今日のところはお世話になろうと考えた。
「ご馳走様でした」
「いえいえ、軽いものよ」
「本当?じゃあ、二件目いく?」
「もうお腹いっぱい」
「そか。。。」
わざと間を開けたのだが、紳助からなんの返事もない。
昔からこうだったのだ、背はそんなに高くないが何に関しても勝気なくせに女性の前では凄く弱そうな自分を演じている。
もっと自分を曝け出せばいいのに。
そんな事を思っていると、
「あの、今からどうする?」
きたと思った。