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私は誰?  作者: たく
明日香
3/9

aspiration

今思えば我ながら卑屈だなーと思うことがある。

別に拓海のことが嫌いなわけでもないし、サークルには入りたくないこともない、そして極め付けは銀行には入りたくない。

ただ、高校の頃あった恋愛の失敗やそれに伴った人間関係の崩壊による恐怖心、顕示的欲求それらが私のしたいという欲求を上回り行動ができない。

そんな事は気にせず一歩踏み出せればすべてが変わる、そんなことが頭を回っていたら図書館はもう閉まる時間だった。

「全然進まなかった」

そう嘆きながら、図書館を後にしようとかたづけをしていたら携帯が光っているのが分かった。

母からのメールだった。

就職活動はうまくいってますか?

という短文だった。

直ぐに明日香は

それは人の価値観によります

とだけ返信した。

テストは案の定、ボロボロだった。


翌日、スーツをピタッときて銀行の方に急いだ。

ここの銀行は都市銀行の中でも最大の銀行のため噂では10回面接がある場合もあるらしい。

「おはようございます!」

「おはようございます」

また面接会場にいた就活生と事務的な挨拶をした。

ふと気づいた、あれ?

就活生の数が大体半分になっている。

ここで、明日香は根本的なことに気づいた。

面接には落とされる人がいて、それは明日には自分がその立場にあるかもしれないんだ。

しかもそれは、就職した後も続いていく、肩叩きにあうかもしれないし自主退職するかもしれない。

競争社会なんだ、と。

その事を考えると身震いした、雇用規制がある為クビには今の所はできないはずだが、今後経団連の意向に従って雇用改革の一環で金銭解雇を緩和すると、、、

「小林明日香さん」

「は、はい」

ビブラートの出し方が分かった気がした。

またノックして部屋に入ると、次は少し年のいったお爺さんがそこにはいた。

「学校名とお名前お願いします」

「天音大学からきました、小林明日香ですよろしくお願いします」

「はい、よろしくー、どうぞかけてください」

「失礼します」

儀礼的な会話を終えて座った瞬間、なぜか自分の夢を思い出した。

それは保育士になって、子供達にピアノを弾くことだった。

子供達の笑顔を見ながら大好きなピアノを弾いて楽しく暮らす、そんな事が夢だったのだ。

「あなたの夢は何ですか?」

突然の質問に驚いたが直ぐに明日香は答えた。

「はい、私の夢は高齢者から子供まで様々な方のライフプランを考えるという形で寄り添う事です」

「そうですか、なぜ寄り添いたいのですか?」

「私は色々な方に支えられてきたからです、それは両親や友人など身近な人もいますが、私と合わない誰かの頑張りも確実に私のもとに来ていますそうやって誰かに支えられ寄り添いあう事で社会は成り立っている為、この社会にご恩をお返したいという気持ちからそのような気持ちが出て来ました」

「立派な志ですね。では、その中でなぜライフプランを考える事に絞っているのですか?」

よし来たと思った。

これは明日香が一番得意としている質問だ。

「そうですねー、、、」

こうやって、わざと時間を使う事によって、この人はしっかりと考えて喋っているんだという印象を与えれる。

「私の経験をもとにしたからだと思います。私自身幼い頃あまり裕福な家庭に生まれませんでした、なので資金繰りが大変厳しくこのままでは破産しかねないという状況だったのですが、その時に青山哲二という方にお会いしたのです。その方は私達の資金のフローを真摯に見てくださり解決策を一つ考えてくれました。それが功を奏し私はこんな立派な企業に来れるくらいの学校にも入れましたし、今では両親はあの頃と収入はあまり変わりませんが、豪華な食事を食べてプクプク太ってます」

面接官は笑顔になった、これは勝ったと思った。


家に戻ると今日はなぜか学校に行く気にならなかったので、家で勉強をした。

プルプルプルと携帯が鳴ったのでふと見てみると、画面には青山紳助と出ていた。

高校の頃の彼氏だ。

でようか、でまいか逡巡している間に携帯は音を消した。

何だろう、そんな事も思ったが一度頭の片隅に置いて勉強を進めようとしたが、ある事実を思い出した、バイトに行かなければ。

今は12時を指しているが1時からバイトなのだ、急いでスーツを脱いで服を着た。


「いらっしゃいませー」

私のしてるバイトは何てことのない焼肉店の店員だ。

チェーン店の為覚えることはいっぱいあるが、もう3年もいる為大抵のことは分かる。

「ランチタイムは忙しいねー」

バイト先の先輩の小宮山慎二さんに声をかけられた、この人は低身長でどちらかというと可愛い系の男の人だ。

初めてバイトをした時、この人は何ていい人なんだと手放しで思った。

しかし、それはやはりいい人にはお相手がいるそんな事が分かった思い出でもある。

「そうですね本当、身がいくつあっても持ちません」

「もう少しバイトの人雇えばいいのになー」

確かにと頷いて、私はお客さんの注文を取りに行った。

少し働いて3時になったので休憩に入ると、そこには谷畑さんがいた。

彼も休憩らしい。

「疲れたねー明日香ちゃん」

「そうですねー、疲れましたー」

できるだけ、早く話を終わらせようとした。

以前、この人には告白された事があった。

その時にはその場のノリでオッケーを出したが、いざデートをしてみると、全く楽しくなかった。

遊園地に行ってもどこに行っても谷畑さんは自分の話をするだけ。

直ぐに振ったのだが、なぜか職場内では私が振られたという事になっていた。

おいおい、と内心思ったがそれが彼のプライドを唯一保てる手段なのであれば折れようと思った。

「そういえば明日香ちゃん、今好きな人とかいるの?」

嫌な予感がした

「いえ、いないですけど」

「そっか、じゃあ、付き合っている人もいないわけだ」

「そうなりますねー」

へーへーという谷畑さんの話を遮ってトイレに向かった。

トイレに行き携帯を見ると、銀行からの電話があった、二次選考もうかったらしい。

その途端、頭の中で何かが膨らむの同時に何かが縮んで行った。

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