◯◯恋物語
「 サラ、僕は君の事が好きなんだ。」
何度目の告白になるか、彼女に一目惚れして毎日のように僕は思いを伝えている。
「…ダメよ、私も貴方も旦那様の所有物よ。それが付き合うだなんて、何より私と貴方じゃ歳だって一回りも二回りも違うのよ?」
だが、彼女が僕の思いを受け止めてくれる事は一度もなかった。
「歳なんて関係ないさ!確かに僕はまだ若い、だけど君を想うこの気持ちは誰にも負けない!」
仕事の際に君と触れ合うことがあるたびに僕の気持ちは日増しに大きくなっていく。
「……でも、」
「サラ!」
僕はサラに近づいていく。
「いい加減にしないか。…サラが困っているだろ。」
「くっ…。」
「……グラス。」
「何より今は仕事中だ。無駄話をしてないで働け。」
こいつはグラス。かなり良い所の出でなのだが旦那様の目にとまり昔から旦那様に雇われている。スタイルも見た目も良いものなのでお客様が来られる度によくお客様の相手をしている。
「まったく、旦那様も変わり者だ。何故お前の様なものを雇ったのか。」
「なんだと!」
「ふん!当たり前だろう、お客様の前にも出せないような見た目のお前はいつも旦那様のプライベートの時か食事の時しかお使いになられないではないか。……お前の代わりなど他にもいくらでもいるのに、まったく何故旦那様はーー」
「……。」
確かに僕はこの国ではない極東の島国から船に乗って奉公に来た。この国とはまったく価値観の違う所から来た僕は馴染むことも出来ず、さらに見た目も使い勝手も悪かった俺を見て誰1人として興味をもつ者はいなかった。……旦那様を除いて。
ふむ。なかなか珍しい見た目だな。……いくらだ?
その時買われた値段は1日の食事代にも満たなかったらしいが。……気にはしまい。
当然、旦那様の下でも周りと馴染むことが出来ず奇異な目で見られていた。そんな僕とよくしてくれたのがサラだ。
サラもグラス同様名のある家の出で美しく気品があり周りからも旦那様からも一目置かれている。天使と呼んで過言ではない、それなのに何処で生まれたかもわからない俺みたいなやつにも平等に優しく接してくれる。とても素晴らしい方だ。
そして、そんな優しさに恋をしてしまった。……旦那様に雇われている身でありながら、身分違いの恋に僕は夢中になってしまった。
確かにグラスの言う通りこの国のマナーを知らない僕は旦那様のお客様の前では失礼なため表に出る事は出来ない。だが、僕は細かい事は得意なので裏での仕事を頑張り旦那様のために毎日動いている。一応、旦那様は僕の事を気に入っているようで旦那様一人だけの時などは呼ばれて食事中などは手伝いもしている。
その時、よくサラやグラスも呼ばれる。仕事上、サラと近くにいることが多いので触れ合うことがある。そんなときどうしようもないほど心が掻き立てられる。近くで見るサラは透き通る白さに思わず目が離せられなくなる。壊れてしまいそうなその華奢さに関係もなく触れてしまいたくなる。だが、旦那様の前でそんな事は出来るはずもなく僕は旦那様の指示通りにしか動けなかった。
だが、それでも僕は想いだけは伝えたくてこうしてサラに会う度に言うんだ。
…君が好きだと。
「ーーお前みたいなやつを使われるのか。」
そう、グラスは僕を冷めた目で見る。
「気品もない、見た目も悪い。」
……わかっているんだ。
「サラといても不釣り合いだ。」
僕たちが結ばれる事はないなんて事は。
「お前みたいな10や20かそこらのガキが、」
年の差なんて関係ない!だけど、
「80歳を越えるサラや私のようなの物たちと一緒にいようというのが愚かなのだ。」
越えられないものはある。
「せめてサラのようにエルメスと名を持てるくらいにならないとな。」
グラスにはルイという名がある。
「わかったか。…………箸。」
そう食卓に恋は持ち込んじゃいけない。お腹いっぱいになってしまうから。