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一時のうたた寝

 晴れた朝

 今日は何日だっけ…………ああ、3日か

 今何時だ…………6時、半……か



 俺はいつも通りに、目を覚ます 顔を洗う

 そして、いつも通りにスマホを弄る

 小説投稿サイトの反応を見つつ、いつも通りであることを理解した




 ああ、お腹が空いた

 俺はいつも通りに、台所にあるプラスチックの籠を取りに行く


 そこから、袋に入った一つのメロンパンをとって、食べる

 もちろん、頂きますを忘れてはだめ


 きちんと、一つだけ部屋にあるテーブルで、皿に受けて食べる

 両親から、教わったこと 今では感謝しかない


 うまい

 俺はべたべたしたクリームが嫌いで、さくさくしたクッキー生地が乗ったメロンパンが大好きだ


 まだ何個かあったから、数日は持つはず


 買っておいて良かった

 たまたま半額になっていたから買った、という記憶は、今のところ思考の底に沈んでいた





 食べると、ご馳走さまを言って、自分の机に向かう

 今日は、日曜日 やったな、ゆっくりできる

 それは、一時の喜び


 また明日から仕事だなんて、今だけは忘れられる


 机のすぐ横にある押し入れから、数々の漫画を取り出す

 俺のことだから、マイナーでコアなやつなんかまでは持っていない


 けれど、流行りの物は一通り揃えることができた

 俺は暫しの満足感に浸り、それに手をつける





 漫画をある程度読みふけった後、あることに気付いた


「今日、マイティアドベンチャーXの発売日……」


 すっかり忘れていた


 ある漫画に書いてあった一節

「マイティな冒険達はいつまでも俺の味方さ!」のおかげだな


 ネットでは意味がわからない、という理由でネタ名言扱いされているが、今回ばかりは感謝する


 早くしないと、特典付きの初回限定版が無くなってしまう

 急いで買いに行かねば



 そうと決まれば、さっきまでの眠たさとはおさらばだ


 自分でも、目が輝いて、興奮が押さえきれていないことがわかった


 まず歯を磨く 外出用の服に着替た後だと、歯みがき粉が付いてしまうことがあるからだ


 これも、両親から教わった、一つの知恵



 着替えて、見た目が可笑しくないことを確認して、スマホを持って、家を出た


 鍵をかけて、近くのゲームショップまで愛車という名の自転車で向かう




 でも、俺はとんでもないことに気付いた


「財布忘れたわ…………」


 そうと決まれば、自宅まで一直線


 やばい、早くしないと売り切れになる


 あれでも、かなりの人気シリーズなのだ 誰かが大量買いでもしてしまったらどうする


 ここは、(いち)ゲーマーとして負けていられない


 自宅に到着すると、急いで扉の前へ


 自宅といっても、アパートだから、静かにしないと


 日曜日なのだから、なおさらそうしないといけない


 鍵をあけると、ちょっとした廊下が目の前に

 いつもの見慣れた、俺の家


 っとっと、そんなこと考えてる暇はない



 多分、漫画を読んだ机においてあるはず…………




 ……あったあった



「あ」


 俺は、さっきとは別の、衝撃的なことを思い出した




「来週だ………………発売日」



 今まで、俺はいったい何をしていたのだろう

 なんだ、一人で慌てて、一人で落ち着いて、一人で呆然として



 ふと、一つだけある目覚まし時計に目をやると、7時45分




 俺は、一つ決断したことがある



「寝よう」


 朝から、疲れた

 たまには寝よう



 だって、明日からまた仕事だろ



 そして――









「朝からうるさくしても、二人を起こしちゃうしな…………」



 愛する、妻と子が、狭い居間に敷かれた布団で、すやすやと眠っている


 彼女と結婚したのは、僅か五年前

 子供は男の子で、まだ二歳


 ゲームは、息子がずっと、かってかってと喚いていた物


 少ない給料だから、またいつかな、と笑顔で断っていたけど、たまたまボーナスが入ったから、買える!と思っていた


 でも、早とちりした結果が、これ

 ……まあ、いいか


 俺は、二人を大事に思って、大切にしたい

 愛している





 ……愛しているから、俺も愛してもらいたい



「でも、仕事くらいしか、二人に見せる顔ないからな……」



 まだまだ小さい地位にいる平社員の俺にはなんの興味も湧かないだろう


 あと十年くらいしたら、もっといろんなゲーム、息子と一緒にやれるかな



「……よし」


 俺は二人の間に丁度空いていた隙間にそっと足を入れ、丁寧に布団をかぶり、横になる



 また、明日な……



 ……あ、明日仕事だ 二人が起きる前に家出ないと




 ――まったく、遊んでやれる暇がないや



「待ってろ、すぐにでも出世して、デカイ肉と海外旅行プレゼントしてやるからな」


 そんくらい出世したら、ゲームなんて1ヶ月に一本以上買えるくらい給料入るかな



 そして、俺は眠る




 この、愛する二人と一緒に


 ゆらーり、ゆらーりと、天使のゆりかごに揺られながら



「……愛と給料は、俺が掴みとってやる」



 そんな願いは、カーテンに遮られた日光に吸い込まれて、どこまでも、俺の心に響いていった

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― 新着の感想 ―
[良い点] 身近な主人公が良かったですね。 これ俺じゃん……と思うようなそういうリアリティがありました。 また、それが何だかすごく心地よい……そんな作品でした。(上手く表現出来ずすみません) 何気な…
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