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ライバル  作者: 宮澤花
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終章 NEVER -5-


 まったく、髪の毛がグシャグシャになったじゃないかよ。

 俺は指で髪を整える。横を見ると、ツボタは俺から顔を背けてむすっとしている。

 やっぱり、コイツってホントに分かりやすいのな。

 顔を背けるのは顔を見られたくないからなんだ。今、何考えてるのか全部顔に出てるもんな。


「分かった。そこまで言うのなら、お前に礼は言わん」

 俺は言った。

「だから。それでいいって言ってるじゃない」

 ツボタの口調は不機嫌だ。

 アホだなコイツ。そんな機嫌悪いフリしたってムダだっての。


 俺は、手を伸ばしてその柔らかそうな茶色の髪の毛の生えた小さめの頭をつかみ、力づくで俺の方を向かせる。

「ちょ! 何?! 痛いんだけど!」

 騒ぐツボタ。

 わははは、お返しだ! 思い知れ!


「ツボタ。貴様なあ」

 俺は茶色がかったヤツの目をまっすぐに見る。ツボタの瞳が怯む。俺から目をそらそうとする。

 ばーか、そんなことさせるかよ。何のために頭をつかんでると思ってんだよ。

 いいか。大事なことだから、しっかり聞け。


「そんなに後悔してるなら! もう二度と人を殺そうなんて思うな!」

 俺ははっきりと、力を込めてそう言った。

 茶色の目が大きく見開かれ、それから困ったように伏せられる。

「でも。僕はもう、数えきれないほど人を殺してきた」

 呟くような声。


「まあ、それはそうだな」

 俺はちょっと考える。

 過去は変えられない。なかったことには出来ない。

 だけど。


「だが、これからは簡単に人を殺さないようにすることは出来るだろう?」

 そう言った時。

 さっきより、もっともっとツボタは意外そうな顔をした。

 思っても見なかったことを言われた人のような、そんな顔だった。


「アンタって……」

 ずいぶん長く黙り込んでから。そう、ツボタはため息のように言った。


「何だ?」

 聞き返すと。ううんと言って、首を横に振る。

「バカはいいよね。単純で」

 長いため息。


 ああ? 何だコイツ。

「ケンカ売ってるのか? 誰がバカだ!」

「アンタ」

 シレッとした顔で返す。よーし、いい度胸だ。やるつもりか、と拳を構えた時。


 ヤツが聞いた。

「アンタ、なんて言うんだっけ」

「あ?」

「名前。なんて言うんだっけ?」

 今度は俺の方がキョトンとする番だ。


「高原だ。高原康介。前に言ったじゃないか。漢字まで説明してやっただろう」

「ああ。あれ、漢字の説明だったんだ。何かの呪文かと思った」

 そう言ってからツボタは、『タカハラ』と小さく俺の名前を呟いた。


 それにしても、最初コイツに会った時は、ニタニタしてばかりいる気持ち悪い男だと思ったものだが。

 その後のあれこれを考えあわせてみると。

 

「お前さ。もしかしてニコニコしてるのは外面で、そのぶーたれて拗ねたような顔してるのが本性か?」

 聞くと。

「何それ?!」

 ものすごく心外そうな顔でにらまれた。

「何だよ、その幼稚な表現? 他に言い方があるだろ?」


 いや。表現の問題じゃなくて、お前が。

 お前の本質が幼稚くさいと思うんだが。


「あと、いい加減アタマ離せ! 痛い!」

 あ。首、固定しっ放しだった。

「悪い」

 言いながら俺は手を離した。今度はツボタが髪を直す番に。俺より髪、長めだから大変そうだな。


「あー」

 俺は軽く咳払いした。

「何?」

 ツボタが不機嫌そうに俺をにらむ。今度はポーズじゃなくて本気で不機嫌だな。ホント、分かりやすいヤツ。


「まあ。いろいろあったが今日からは晴れて兄弟弟子だ。仲良くやろう」

 俺は右手を差し出す。しかしツボタはそれを冷めた目で眺め、手を出さない。

「何だ、その目は?」

「だって。兄弟弟子って曖昧に言うけどさあ」

 嫌味っぽく言う。

「僕の方が先に弟子認定されてるでしょ。僕が兄弟子じゃないの?」


「何だ、その言い方。俺は十年前から先生に弟子入りを申し込んでいるんだぞ?」

「ただ、勝手に言ってただけじゃない。認められてなかったんだろ?」

 偉そうだな! ムカつくヤツだ、コイツはやっぱり。


 けど。

「知らないと言うのは幸せなことだな」

 俺は、ふふんと笑う。

「お前と違って俺は武道の基礎は身に着けてるんだ。俺はな、先生にお前の基礎指導をするようにって言い付けられてるんだよ」

 どうだ。言い返せるものなら言い返してみろ。

 つまり、俺の方が一歩進んでるってことだ。


 ツボタは横を向いてこれ見よがしにため息をつく。

「おばあちゃんに便利使いされてるよね、タカハラは」

「何で、そこで俺を憐れんだ目で見るんだよ?!」

 納得いかねえ!!



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