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ライバル  作者: 宮澤花
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終章 NEVER -3-


「けど、俺にアイツを教えることなんか出来るんでしょうか」

 正直、自信がない。

「格闘となったらアイツの方が強いわけだし」

 三戦して二敗一分けといったところだからな。どう考えても威張れる戦績ではない。


「何、殺すつもりで踏み込むヤツとそうでないヤツの差だ。技量にはお前が思っているほど差はないよ。受け身とか型とか、まずその辺りを仕込むのだな。そのくらい出来ないとは言わせんぞ」

 うーん。

 その受け身とか型とかが一番大事なことだと思うんだが。そういうことを教えるのが、俺なんかでいいのか?

「放っておいたって、アレは殺人マシーンだ。誰が教えようが同じだろうが」

 それもそうか??


「ヤツに殺されないように気を付けながら、ヤツに格闘の基礎を叩きこめ。それが出来たら次の段階に進む」

 先生はそう言うと俺に背を向け、DVDのリモコンを操作して人気絶頂アイドルグループの新作PVの観賞を始めた。

 ううむ、最初の課題にしては難度が高いような。

 でもまあ。師に言われたからには、それをこなすのが弟子か。



 俺はひとりうなずいてリビングを出た。客間、転じてヤツの部屋になった場所の扉をノックする。

「ツボタ。いいか」

 しばらく待ったが返事がない。どうしたんだろう。作業に熱中していて聞こえないのか?

「開けるぞ?」

 声をかけて、扉を開けると。


 惨状!!


 部屋のあちこちに脱ぎ散らかした服が散らばり、壊れた人形がとっ散らかり、端切れやら毛糸の玉やらなんやかんやがそこら中に転がって足の踏み場もないってんだよ、この野郎!

 この前、俺と先生で掃除したばっかりなのに。今日の今日帰ってきてどうしてこんなに散らかせるんだ、特殊能力か!!


 そして張本人はと言えば、裁縫箱を開けっぱなしでソファーに丸くなって気持ちよさそうに眠ってやがる。

 さっきリビングを出て行ってから三十分も経ってねえよ! 何分作業したんだよコイツは!!

「起きろーっ!」

 俺はヤツの耳元で思いっきり怒鳴った。


「ん……」

 ツボタはもそもそと身動きした。

 それから白い長い腕が伸びて、いきなり俺はがしっと抱き寄せられた!

「ぎゃあ!? 何すんだ、てめえ?!」

 うわ、頬と頬がこすれあって、ツボタの熱い息が俺の首筋にかかって気持ち悪ィよ!!

 そして何でこんな馬鹿力なんだこの男は。振りほどこうとしてるのに振りほどけん!


 俺たちはしばらく、そのままじたばたともつれあった。

「愛してる……」

「バカ、俺だ! 離せ、気色悪い!!」

 腹に軽く膝蹴りを入れてやったら、やっと少し覚醒したようだ。

 薄茶色い目を開いて、まぶたをパチパチさせて、俺を見る。キレイな顔してんだ、これがまた。あー、これで女子だったら俺も言うことないんだが。殺人マシーンの男じゃ洒落にもなんねえよ。


「うわぁ……」

 目が覚めたらしいツボタは、俺の顔をつくづく眺めてつぶやいた。

「似ても似つかない……。気持ち悪」

 すごくイヤそうな顔と声で。

 おい!  なんで俺、ガッカリされた上に気持ち悪がられてんの? こっちが被害者なんですけど? 納得いかん!


「せっかくいい夢見てたのに」

 ソファーの上にあぐらをかいたツボタは、あくびをしながらため息をつくようにそう言った。そんなこと言われる筋合いねえっての。

「あのな。先生に言われた作業を放って、夢で女とイチャイチャしてたのかよ」

 俺の口調もキツクなる。

「お前。実は相当チャランポランだろう?」


 俺の言葉を聞いているのかいないのか。ツボタは長い吐息をつく。

「トモがここに来てくれてさ。『後は任せて。カズはもう何もしなくていいから』って、次から次に人形を直してくれてさ」

 いい夢だったな、色んな意味で。

 と、しみじみ呟くツボタ。


 トモというのは……コイツの死んだ弟ではなかったか。

「って。お前、弟とどんな関係だったんだよ!?」

 いや、コイツの弟についてはご愁傷様ですというか、実に不幸な同情すべき巡り合わせだったと思うのだが。

 兄弟であんなことしてたのかい?!

 気色悪いというか、もうどこからツッコんだらいいか分からんわ!


「お前……。今後、俺の半径三メートル以内に近付くな」

 思わずヤツから距離を取ってしまう俺だった。



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