終章 NEVER -1-
俺は学校が終わると急ぎ足で先生の家に戻った。するとツボタは何事もなかったかのように、リビングでゴロゴロしていた。
「何だ。アンタ、来たんだ」
どうでも良さそうに言う。
なんかバカにしてんのかという態度が気に障って、俺はいきなりアイツの頭をぺしっと叩いてしまった。
「何するんだよ、いきなり。ふざけるな」
子供のように口をとがらせるツボタ。
「ふざけんなはこっちだ、このバカが!」
罵りかえす俺。
にらみ合う俺たち。
そこへ先生が現れた。
「康介、来たか。ちょっと話がある」
と言ってそれからツボタを見て。
「そんなところで何をしている、和仁。誰が休んでいっていいと言った。今日中にあと五十体だ。出来なかったら叩き出すぞ」
と厳しい口調で言う。
ツボタは途端にうんざりした顔になった。
コイツ、結構なんでも顔に出るのな。
「何で僕があんなこと」
「お前のやったことだろう。きちんと尻拭いしろ」
先生の声が大きくなる。
「別に、イヤなら出て行ってもらっても構わんが?」
高圧的に言う先生に。
「やるよ。やればいいんだろ?」
ツボタはヤケクソみたいに言って、そのままフラリとリビングを出て行った。
やれやれと先生はため息をつく。
「困ったものだな」
「先生」
俺は。
ひとつだけ、それまで聞きたくて聞けなかったことを聞いた。
「いいんですか? アイツは先生の言ったとおり危険なヤツです。一緒に暮らすなんて、怖くないんですか?」
先生は笑った。
「生まれながらの悪党なんかいないよ、康介。生まれた時はみな、ただの赤ん坊だ」
俺は返す言葉がなかった。
「今でも、アイツの魂は泣き声をあげ続けている」
先生はポツリと付け加えるように呟いた。
「ところで私の話だが」
気を取り直したように先生は言った。
「はい」
俺はうなずく。
しかし先生は何だか気後れしたようにしばらく黙ってしまう。
「先生?」
「ああ。それなんだが」
先生は、なおもためらい。
それから短めの髪をちょっとかきあげ。
「そう。それなんだ」
わけわからんな。
「それってなんです」
俺はたずねる。
「あー、だからその。お前の言う『先生』というヤツだ」
ううむ。ますます意味が分からん。
同居するようになって、ツボタの支離滅裂が先生にもうつったか?




