10 道 -4-
「今夜はまだ、うちにいてくれるんだろ?」
礼子さんが言った。
ツボタはそっちを振り向く。
「……うん」
少しして、照れくさそうに言った。
「じゃあ、ゆっくり眠れよ」
先生も肩をすくめる。
「渡邊さん。遅くに騒がせて失礼した。ソイツが全快したら連絡を下さい。改めてお礼かたがた、迎えに伺います」
「いや、お嬢さん。そんなにしていただかなくても」
老人が恐縮する。
その時。ツボタの体がグラリと揺れた。
え、と思う間もなく。ばったりと地面に倒れ込んだ。水しぶきが飛ぶ。
全員の驚きの声が上がった。ツボタは倒れたまま、ぴくりともしない。
俺はあわてて駆け寄って、助け起こした。
そして、げんなりした。
「言わんこっちゃない」
そんな場合じゃないかもしれないが、思わずため息が出る。
「すごい熱じゃないか」
このバカ。こんな熱があるのに温かい寝床を脱走しようとして、その上雨の中であんな長話を。ホントどこまでバカに出来てるんだ、この男は。辛いなら辛いって言えよ、クソバカ野郎。
「どうも」
先生が後ろで、俺に負けず劣らずの深いため息をついていた。
「何かと人を騒がせる男のようだな」
その後はもう、面倒くさかったというか。
ツボタは倒れてぐったりしたままだし。どれだけ無理してたんだよっていうか、痛覚ニブイのかコイツは。
しかも、よりによって水たまりに向かって倒れやがったから服も下着もびしょびしょ。
仕方ないから俺と老人(欣治さんと言うらしい)で玄関先まで運んで、そこで服を脱がせて礼子さんが用意した熱いタオルで体を拭いて。
何の因果で男のパンツを脱がさなきゃいけないのか。俺が前世で何かろくでもないことでもしたとでも言うのか。ホントに勘弁してほしい。
で、パジャマに着替えさせたヤツをまた欣治さんと二人がかりで二階へ運ぶ。俺の方が力があるから、先頭に立つことになるんだが。これがまた重い。ムダにタッパありやがるし。
具合悪いなら最初からベッドで話せ! 迷惑なんだよ! 本当、スペシャルバカだなコイツは!
深夜に訪問した詫びを改めてして、その夜は渡邊家を辞した。
先生の家に帰って、部屋で熱いシャワーを頭から浴びた。
翌朝、学校に行くのがかなりしんどかったが。休むとあのバカと同レベルになるような気がして気合で登校した。
そして何日かは何事もなくすぎ、先生からメールが来た。
ツボタが全快して、今日から先生の家に戻るということだった。




