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ライバル  作者: 宮澤花
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1 拘束から始まる物語 -3-

「仕方ないな。そうまで言うなら着替えるか」

 先生は立ち上がった。

「こんな時でないと着る機会がないと思って着てみたんだが」

 こんな時ってどんな時だ。すごく気になったが、答えを聞くのがコワイのでツッコまないでおく。


 俺は先生から視線を外し、茶髪のヤツに目をやった。がっくりとうなだれたまま椅子に座らされ、先生の手で厳重に縛られていた。

 まず胸の下あたりを、ロープで五重巻きにして椅子の背にくくりつけられている。それと、両脚は片足ずつ、椅子の前足の右左に足首のところで固くくくりつけられていた。両腕は後ろに回されている。多分、後ろ手に手首をも縛られているのだろう。

 どう見ても青少年監禁の現場以外の何物でもない。警察に踏み込まれたら、間違いなく俺と先生は捕まる。そしてニュースになる。それくらいショッキングな光景だ。


「あの、先生。これはやりすぎでは」

「何を言う。コイツは危険だぞ」

 先生は平然と言った。

「それはお前が身をもって体験しただろうが」

 むう。それは確かに。あの時のコイツの攻撃は常軌を逸していた……と思う。人を傷付けることに対するためらいのなさ、みたいなものを感じた。


「しかし、これはやっぱりマズいのでは」

 俺は犯罪の片棒を担ぎたくはない。

「だいたい、針金なんか持って、何に使ったんです」

「ん? ソイツの後ろに回ってみろ」

 俺は言われたとおりにした。

 思ったとおりヤツの手首はロープでグルグル巻きに固定されていたが、その上。両方の親指を立てさせ、それを針金で一緒に締め上げ固定されていた。


「ロープだけだと、器用なヤツなら関節を外して抜けるからな。だが、こうしておけば絶対に拘束を外せん」

 なぜか得意そうに言う先生。

 俺は、こんな場面を誰かに見られたら絶対に申し開きできない、と思って目の前が暗くなった。

「先生。やめましょうよ」

 本格的に説得に入る。

「これはマズいですって、ホント、洒落になりませんから」


「安心しろ。いつまでもこのままにしておくつもりはない」

 先生は無責任に笑った。

「コイツが目を覚まして、性根を入れ替えれば解放してやる」

 それ……どのくらい時間かかるんですか。

 俺の頭の中を『警察』『逮捕』『新聞沙汰』などと言う言葉が駆け巡る。


「何で、こんな危ないヤツを家に引き入れたりしたんです」

 そう言った俺の声は、ちょっととがっていた。

「こんな危ないヤツとは思わなかったんだ」

「そうじゃなくて」

 いかん。コイツに食らった蹴りの痛みのせいか感情が昂っている。言葉が止まらない。

「何で、こんなヤツを家に入れるんです。下天一統流の跡取りにするためですか」

 言ってしまった。

「俺が継ぐ、って十年前から言っているのに。何で、俺じゃダメなんですか」

 情けない。みっともない。俺は、コイツに嫉妬している。


 先生は困ったように俺を見て、淋しそうに言った。

「お前は真面目だからダメなんだ、康介」

 そして、着替えてくると言い残して、部屋から去った。


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