10 道 -2-
「なあ、和仁」
先生は言った。
「前にも言ったが、私には何の力もない。ただの平凡な五十代女子でしかないよ。お前の苦しみを救ってやることも、お前の悲しみを癒やしてやることも出来はしないだろう。だけれどな。一緒にお前の道を探すことは、出来るかもしれない」
「僕の、道を……?」
ツボタは首をかしげる。瞳には訝しげな色が浮かんでいる。
それでも。先生の言葉の何かがコイツの心を揺さぶった。それは見て取れた。
「ああ」
先生はうなずいた。
「それは、とうの昔に見失ったと思っていた私自身の道にも通じるものかもしれん。その道連れになってはくれんか?」
「僕の……道」
ツボタは、苦さを込めてそう呟く。
「そんなもの、あるのかな」
「あるさ」
先生は言った。
「お前は生きている。生きている者はな、好むと好まざるにかかわらず自分の道を歩いていくものだよ。それと知って自分の決めた道を歩む者と、暗闇を歩くように無自覚に歩いていく者の違いがあるだけだ。どうせなら辺りを見回し、自分がどこに向かっているか知って歩む方が良い。そう、私は思うのだがな」
「僕の、歩む道……」
ツボタはもう一度繰り返す。
「どこかに向かう道。そんなものが、本当に」
「あるよ」
先生はもう一度、力強くうなずいた。
「きっとある」
「そんなモノが本当にあるなら」
ツボタの声は大きくなり、ひどく震える。
茶色がかった目はすがりつくような光をたたえて、俺たちを見る。
「僕は……僕は、救われるのかな」
「さあ。それはお前次第だろう」
先生の言葉は優しいけれど冷たかった。
そして。
「地獄への道行きになろうが天国へのそれだろうが、私が付き合ってやるよ。こんなオバサンでは不満か?」
冷たいけれど、この上なく優しかった。
「僕、次第」
ツボタは呟く。その視線がまた下がる。
「でも、どうして。何で、僕なんかにそんなことを言ってくれる?」
「そんなの。お前を気に入ったからに決まってるだろうが」
先生はそう言って華やかに笑った。




