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ライバル  作者: 宮澤花
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9 血と殺戮 -3-

 その言葉を、ツボタは無感情に言った。

 三人殺したなんて大変なことなのに、コイツにとっては大きなことじゃない。

 俺は腹がスッと冷えた気がした。そして同時にツボタのことをひどく気の毒に思った。


 自分で言ったように、コイツは戦地でたくさんたくさん人を殺してきて。人の命の大切さというものが分からなくなってしまったのだろう。

 先生の言葉が頭によみがえる。

『人を殺したら世界は変わる。元の世界には戻れん。アイツは、お前とは別の世界に生きる人間だ』


 だけど。

 俺は、それを認められなかったから。別の世界なんて嘘だと思ったから。

 コイツと正面から向き合いたいと思った。

 だから深呼吸をして、飛び飛びの話を続けているツボタの顔をまっすぐに見直した。


「仲間に入る代わりに僕の家族には手を出すな、って言った。家族がいればカムフラージュになるし、情報も手に入れやすいって言ったら納得してたけど。代わりに監視役と連絡役を兼ねた男を一人、家に入れなきゃいけなかった。仕方ないからさ。街で僕が襲われそうになったところを助けてくれた、って父親に言ったよ。恩人だしボディガードに雇ってくれって。笑っちゃうでしょ?」

 唇の端を吊り上げて、嗤う。


 それは皮肉すぎて、俺には何も言うことが出来ない。

 自分と家族の命を脅かす相手を命の恩人として家に入れる。自分と家族を守るために。

 それはなんて矛盾した、気分が悪くなるような状況なんだろう。


「僕はソイツらの仲間になって、情報は約束通り流したし、殺せって言われたら殺した。それで全部うまくいくはずだったんだ」

 声が震える。

 いや、声だけじゃない。肩も震えていた。

「アイツらの計画は把握してたし。僕たちの父親と母親のスケジュールも教えて、ソイツらがいるところは計画から外してもらった。正直、僕にはソイツらはどうでもよかったけど。トモにとっては大切な両親だから。ソイツらも守ろうと思った」


 淡々とツボタは言う。

 何年も別れていてやっと会えた両親も、コイツには何の意味もなかったのか。

 それはやはり、とても悲しい。


「あの日は」

 ツボタは。震える声で言う。

「教会にテロを仕掛けるって聞いてた。トモは別にキリスト教信者ってわけじゃなかったけど。教会でやっているボランティアにはいつも参加していた。だから、その日は僕、トモに絶対に行くなって言って。母親がトモを連れてどこかのパーティーに行きたがってたから、そっちに行けって勧めて。一緒に出掛けていったのを見てホッとした。僕はその日の作戦には参加しないことになってた。教会にはトモの知り合いがいっぱいいるから。皆殺しにする手はずだったけど、万一にも顔を見られちゃいけないから。だから、それで。問題なく、話は済むはずだったんだ」


 問題なく……って言っていいものか。

 一瞬ツッコみたくなったが。ここは空気を読んで黙っておく。



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