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ライバル  作者: 宮澤花
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8 もう一度向かい合う -2-


 そのまま先生はしばらく黙っていた。それから。

「もう一度アイツに会いに行こう。ヤツの話を聞きたくなった」

 と言った。

「はい」

 俺はうなずいた。ずっと、その言葉が聞きたかったのかもしれない。


 先生はリサイクルショップに電話をして、いろいろ挨拶の言葉を並べ立てた。そしてその日の午後に訪問する約束を取り付けた。

 それから先生は俺に、

「康介。今夜、つきあえるか」

 と尋ねた。別段、用事はないので俺はうなずいた。

 ただ翌日の学校の準備があるのと外泊届を出さなくてはいけないのとで、一度寮に戻った。

 先生は俺の身元引受人扱いになっているから、山城家に行く分には外泊届は簡単に受理される。制服と学用品の入ったバッグを持ってもう一度先生の家に行く。


 昼食は冷蔵庫の物をあさって、俺が準備する。

 はじっこが固くなりかけたハムと、珍しく買いたての卵でハムエッグ。へたがカサカサになって少しぶよっとしたミニトマトを洗って添える。で、かびかけた食パンのかびたところを取ったヤツに賞味期限切れのとろけるチーズを乗せ、賞味期限切れのケチャップをかけてオーブントースターで焼く。


 つくづくアヤシイ食材ばかりだが、まあこれくらいなら人間、死なない。カップ麺だけの味気ない食事より少しはマシだと思う。

 しかし、この分だと夕飯の食材は買い出しをしなければならないだろう。俺だって出来るならマトモな食材を使った飯が食いたい。

 で、帰りにスーパーに寄りたいと先生に言ったら、

「その必要はない。夕食は外で取るからな」

 と言われた。


 午後、先生の車で出かける。

 大学前の『三軒堂』という和菓子屋の前で車を停め、手土産を調達。この店は創業明治三十二年とかの、いわゆる老舗である。地元の人はみんなここで茶菓子や手土産を調達する。

 俺は地元民ではないが父が頻繁にこの店の商品を持ち帰るので、自分にとっても子供の頃から馴染んだ味だ。


 先生はきんつば、俺は栗饅頭が贔屓だ。が手土産にするのにそれでは具合が悪いので、季節の上生菓子をいくつか購入した。和菓子屋の生菓子というヤツは、見た目が綺麗でなかなか風情があると思う。まあ、栗饅頭のようにばくばく食べるというわけにはいかないが。

 自分用に栗饅頭をいくつか買った。先生もきんつばを買っていた。


 リサイクルショップの前は、車二台ほどが停められる駐車スペースがある。そこに車を停め、先生は店内に入った。

 老人が、

「山城のお嬢さんにわざわざ来ていただいて」

 しきりに恐縮していた。


 肝心のヤツだが。礼子さんの話だとまだ三十八度以上の熱が続いていて、寝かせているままだということである。

「良ければ、落ち着くまではうちで面倒看たいんですが」

 礼子さんも緊張しながら、そう先生に言った。

 先生、本当に地元の重要人物なんだな。

 俺としてはその重要人物がピンクのラメ入りワンピースのままで出歩いていることが気になるというか、一緒に並んでいたくない気分なんだが。


 先生は少し考えて、

「ご面倒をおかけします」

 と丁寧に頭を下げた。

「また様子を見に来ます」

 そう言って俺たちは店を後にした。

 すぐ帰るのかと思ったが、先生は車で二、三回、その近くをぐるぐると回った。それから一度スーパーに寄る。ちょうどいいので明日の朝食用のパンだのジャムだのを調達した。先生はカップ麺だのレトルトだのを買っていたが、まあいい。肉だの牛乳だのの賞味期限の短いものを買うより経済的だろう、先生の場合は。


 一度先生の家に帰り、少し稽古を見てもらった。

「サボっているな、康介」

 すぐに見抜かれた。


 夕方になって、やっぱり食事の支度をしようかと思っているところで、先生に声をかけられた。

「出かけるぞ。支度をしなさい」

 先生お気に入りのミソノというレストランに行く。なかなか美味いものを出すイタリアンで、お値段も手ごろなのが魅力的だ。先生はゴルゴンゾーラのニョッキを、俺はアンチョビピザとペペロンチーノを頼んだ。

 パスタもいいんだが、腹にたまらないところが難点である。先生のおごりだが、遠慮なく注文させてもらった。明日の朝食の食材は俺が買ったし、それくらい甘えてもいいだろう。


 ゆっくり食事をして、九時少し前に先生が立ち上がった。

「そろそろ行くぞ」

 家に帰るのかと思いきや、車はそれとは逆方向に発進した。どこに行くのかと思ったら、例のリサイクルショップの筋向いにあるファストフードの駐車場に先生は車を停めた。



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