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ライバル  作者: 宮澤花
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1 拘束から始まる物語 -2-

「しかし、やっぱり警察に任せた方がいいですよ」

 俺は言い張った。先生を犯罪者にさせてはいかんだろう、やっぱり。

「物を壊したなら器物損壊ですし、それに不法侵入。立派な犯罪者ですよ、ソイツ」

「不法侵入?」

 先生は不思議そうに俺を見た。

「誰が?」

「ソイツが」

 俺は茶髪のヤツを指さす。

 

 先生はますます首をかしげる。

「彼は私の客だが」

「客なんですか?!」

 衝撃の事実!


「ジブラルタルで知り合ったご家庭のご子息で、いろいろ訳ありでな。しばらく面倒をみることになった」

 いや待て。話がオカシイ。

「何でそんな、ちょっと知り合った家の、メチャクチャ訳ありそうな息子を先生が面倒看るんですか」

「え?」

 先生はちょっと俺の顔を見て。それからエヘ、と笑って下をペロッと出す。いわゆる『てへぺろ』というヤツだ。

 同年代の少女がやったら俺も心を奪われたかもしれんが。何しろ先生は、俺の母親よりも年上だ。率直に言って、そういう仕草はやめてほしい。

「だって。美形だったんだもん」

 やっぱりかー! やめてくれよ、ホントにもう。


 先生には悪癖がある。

 お人形コレクションにかける理解不能な情熱とか。アイドルヲタであることとかは、まあいい。許容範囲だ。しかし、この悪癖ばかりは大問題だ。

 アイドルヲタであることから予想はつくかもしれないが、とにかく先生はイケメンに目がない。そして、どういうわけだか。そういう、なよっちい男を弟子にしたがるのだ。

 俺の弟子入りはこの十年、ずっと断っているくせに。飲み屋で知り合ったとか、渋谷で逆ナンしたとか。そんなどこの誰とも分からない、顔だけキレイな男を家に連れ込んだこと、十数回。どうやって口説いているのか知らないが、半年に一度くらいはそういうのを引っかけてくる。

 もっとも、どいつもこいつも武道の武の字も知らないような軟弱なヤツばっかりだ。修行について行けず、三日と持たず逃げ出す……らしいのだが。

 コイツもそのクチだったのか。


 さっき自分がコイツを一瞬女と見間違えたことを思い出し。あの顔なら、先生の食指が動くのも無理もないと思いながらも。

 国境を越えてまで美形を家に連れ込むとは、先生の逆ナンもそこまで来たか、と俺はヘンに感心してしまった。


 それはともかく、先生はいったい何をしているんだ。

 まだ気分が悪かったが、俺は立ち上がって先生の傍に近付いた。先生の手元を覗きこもうとして、すぐに目をそらす。なぜならショッキングピンクのボンテージの胸元が開きすぎて、中味がチラ見えしていたからだ。

 言っておくが、決して色っぽい感情から目をそらしたわけではない。断じて違う。

 なんというか。見てはいけないものを見てしまった気持ちと言うか。それもトキメキ抜きで、むしろオカルトとかホラーよりな。頼むから勘弁してくれ、という気持ちと言うか。とにかく、端的に言って見たくない。ミニスカからのぞく網タイツの太腿も、勘弁してほしい。

 ちなみに先生の体型は、やせ形の五十代女性の典型的な感じで。骨と筋が目立つというか、ハリがないというか。鶏がらというか。まあ、そんなものである。


「先生。何でそんな恰好をしてるんです」

 昏倒する前にも聞いたと思うが、もう一度言った。

 先生は、

「ん?」

 と俺を見上げて、

「青少年には刺激が強すぎるか?」

 と言った。あーまあ、そういうことにしておいてもいいです。広い意味で確かに、刺激は強い。



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