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ライバル  作者: 宮澤花
37/57

7 ヤツの願い -5-

 それにしても。

「大丈夫なのか、コイツ……」

 思わずつぶやく。

 礼子さんが困ったように言った。

「ごめんね。一応、知り合いの医者に来てもらったんだけどさ」


 老人が苦い表情になる。

「コイツ、熱があって朦朧としてるくせに暴れてな。医者の顔を殴りつけて、騒ぎになって。なんとか平謝りしておさめて、薬だけはもらったんだけどよお」


 うわあ。何か、すごくやりそうだ!

「すんません。何か、すごくすんません」

 何で俺が謝らなくちゃいけないのか、よく分からんが。とりあえず謝らなくちゃいけない気がして、頭を下げる。


「意識があると出かけようとするしよ。仕方ないんで睡眠薬出してもらって、それ飲ませて寝せてんだ」

 いや。それはどうだろう……。割と無茶するな、この人たちも。


「でも、心配しただろうね」

 礼子さんが言った。

「家出じゃないかなって思ってはいたんだけど。聞いても何も言わないし。何だか、放り出すのも可哀相な気がしてね」


「あー。家出ってわけじゃないんですけどね」

 叩き出されたのが真相なんだが。

「それに俺だって、その。別に心配していたわけでは」

 ただ。どこかで野垂れ死にでもしていたら、寝覚めが悪いから。それだけで。


「山城のお嬢さんが迎えに来るのかね」

 老人が質問した。

「熱が下がるまでは、このまま動かさん方がいいように思うが」

「えーと。その辺りのことは、先生と相談してみます」

 俺は言った。

「連絡先を教えていただけますか」

 店の電話番号が書いてあるチラシをもらった。


 ヤツの面倒を看ていてくれたことにお礼を言って。先生から連絡を入れてもらうようにすると約束して、帰ることにする。

 靴をはいた時、礼子さんに呼び止められた。

「ねえ。高原くん」

「何でしょうか」

 俺は振り向いた。

 何だか気がかりそうな、言うか言うまいか迷っているような顔をしている。

「あの?」

 俺は首をかしげた。


 それで決心がついたように、礼子さんは後ろ手に持っていたものを差し出した。

 それは、毛糸の茶色い髪とフェルトの素朴な服を着た、布で出来た人形だった。


「ええと。これが何か」

 俺がそう言うと、礼子さんはがっかりしたようだった。

「知らないか。あの子が持ってたから、大事なものかと思ったんだけど」

 ため息をつく。


 それは初耳だ。アイツは先生の人形を気持ち悪いと言っていたし、それどころかぶち壊しまくったくらいだ。人形を大事にしたりするようには見えないんだが。

 そこまで考えて。

 俺は引っかかることがあるのに気付いた。


「あの、それ、もしかして」

 俺は急きこんで訊ねる。

「壊されてませんでしたか。グッチャグチャに」

「そうなのよ」

 礼子さんはうなずいた。

「あんまり可哀相だったから、私が直したの。あの子と二人で」


「ツボタと二人でえ?!」

 思わず大声を上げてしまった。それくらい予想外な話だった。

 でも礼子さんは真面目だった。

「あの子がね。それを持って見てたの。首も腕も取れそうで、そこら中切り刻まれてボロボロで。ひどい有様だったね。見れば良さそうな人形だし。なんてヒドイことをするんだろうって思ったわ」


 まあ、先生の金のかかったお人形コレクションのひとつだしな。

 そして、そのヒドイことをしたのは二階で寝てるアイツです、って教えていいんだろうか?



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