7 ヤツの願い -4-
しばらくして奥から女の人が出て来た。
俺を連れて来てくれた女性と同年代。ただ、喫茶店の女性はやせぎすで派手系。この人は少しぽっちゃり目で、どことなく愛嬌のある感じだ。
ええと、礼子と呼ばれていたから、面倒なので礼子さんでいく。
「サチコ。何、朝から」
礼子さんはちょっとつっけんどんに言った。サチコさん(喫茶店の女性)も同じ調子で返す。
「アンタのところの居候。探してるって子が来たから、連れて来てやったのよ。感謝して?」
そこで礼子さんと老人の視線が俺に集まる。
「ホント? ホントに、あの子の知り合い?」
「やっぱり探しとったのか」
二人が一斉に俺に話しかけてくる。えーと、どう対処したものだか。
とりあえず俺とツボタの関係をぼかしつつ、ヤツが俺の知り合いのところの客であったこと、しばらく姿が見えないので先生も心配していることを話した。
話を聞いて、三人はうーんと首をかしげ。
「それはもしかして、山城さんのところのお嬢さんか」
と老人が尋ねた。
何でピンポイントで先生のことが分かるんだ!
驚愕したのが顔に出てしまったのか、女性二人が『やっぱりねー』とうなずき合う。
「あ、あのう。何で、分かるんですか」
恐る恐る尋ねてみると。
「あら。だって、昔からの地主のお嬢さんだもの。有名人よね」
「そうそう。若い頃は海外留学とかして、カッコ良かったしね」
「武道の家元だって話は、古くから住んでる者なら知ってるしね」
そして。
「あのお嬢さんで、あの子なら納得だわー」
とサチコさん。
「そうだね。あの顔ならあのお嬢さんに目を付けられるわ」
と礼子さん。
先生……。地元民にどんな目で見られてるんですか……。
「あの。それでツボタは」
尋ねると。
「へえ、あの子ツボタっていうんだ」
と驚かれた。
「うちでは、カズヒトとしか聞いてなかったから」
俺にはカズヒトって呼ぶなって言ったくせに! 何だ、アイツはよ! 意味分かんねえな!
「その、ツボタカズヒトに会いたいんですが!」
つい語気が荒くなってしまう。いや、この家の人が悪いわけじゃないんだが。
礼子さんと老人は顔を見合わせた。
「うん。あの子なんだけどねえ」
「まあ、上がれや」
俺はそう言われて、ワタナベ家の住居部分にお邪魔することになった。
狭い階段を上がった突き当りに、広い部屋があった。
寝台が左右の壁に付けて二台置いてあり、その片方にツボタが寝ていた。顔が青白い。ぐっすり眠りこんでいる様子だ。
「この前、雨が降った日の夜にびしょぬれで帰って来てさ。その時にはもう熱が高くって。四十度くらいまで上がってさ」
と礼子さん。
「それから、ずっとこんな具合だよ」
と、老人が補足する。
……ってよお! 何だ、このスペシャル大馬鹿野郎は!!
だから早く帰れって言ってやったんじゃねえかよ! 何で夜まであそこに突っ立ってんだ! 傘を持ってった俺の気遣いを何だと思ってんだ!
俺は脱力した。ガックリとツボタの枕元で膝をつく。
徒労感がハンパない。
「ああ、もう……! こんなことになってるんじゃないかと思ったんだ」
つうか、誰かこのクソバカを何とかしてくれ。コイツの頭の中はどうなってるんだ、一体。




