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ライバル  作者: 宮澤花
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7 ヤツの願い -2-

 翌朝、六時に起きて寮を出る。うちの寮は夜の門限には厳しいが、朝早く出かける分には何も言われない。いやもちろん、あんまり早すぎても鍵が閉まっているのだが。

 寮監のオバちゃんが朝六時に門を開ける。その後だったら問題なしである。

 朝メシが出るのは七時からなのであきらめる。これは覚悟していたので、昨日買っておいたコンビニのおにぎりで我慢する。ツボタのヤツ、この借りは必ず返してもらうぞ。


 先生の家に向かう。私道に入る角のところまで行く。ここから先は先生の家に用がある人しか通らないから、行ってもムダだ。

 目撃者があるとしたらこれより前。逆に道をたどってみるしかない。


 しかし朝早すぎたのか、住宅街の路地では誰にも遭遇しなかった。

 すぐに商店街に出てしまう。そちらでは魚屋や八百屋の前に、開店準備をしている人の姿が見えた。

「すみません」

 声をかける。忙しそうなところ悪いが、こちらにも事情がある。


 携帯の画面を操作しツボタの写真を見せる。昨日、先生に頼んで送ってもらったものだ。

 ツボタの写真なんかあるのかという話だが、実はパスポートの写真である。アイツ、結局パスポートを持って行かなかったのだそうだ。


 魚屋のご主人は仕事を邪魔されて不機嫌そうだったが、奥さんの方が、

「あら。もしかして、この子」

 と反応した。

「見覚えありますか」

 俺も身を乗り出す。

「うーん。顔写真だし、私も遠くから見ただけだからハッキリしないけど」

 首をかしげる奥さん。

「茶髪っぽくて色が白くて、足が長くてスタイルが良くて、王子様みたいにキレイな子じゃない?」


 王子様……。すごいイメージ来たな。

 俺の中ではアイツは、問答無用で襲いかかってくる猛獣みたいなヤツなんだが。 その上、不平屋で宵っ張りの朝寝坊で、不器用でストーカーだ。

 まあ、そんな文句をたれても仕方ないので奥さんの話を聞く。


「初めはキレイな子が通ったな、と思ったくらいだったのよね。そのうち気付いたら毎朝通ってくな、って思って。ここ何日かは見ないからどうしたのかしら、って思ってたの」

「ソイツです」

 俺は苦り切った表情で言った。間違いなくビンゴだ。

「どっち方向から来てるか、分かりますか」


「大通りの方からよ。いつも決まった時間」

 奥さんは指を指して方向を教えてくれた。

「ありがとうございます。参考になりました」

 礼をして、そちらへ向かおうとする時。

「探してるの? お友だち?」

 と聞かれた。


 俺は言葉に窮した。

 俺とアイツの関係はいったい何だ。そして何で俺は、寮の朝飯をフイにしてまでヤツを探しているのか。やはり俺はお人好しなんだろうか。そう思うと面白くない。


 その後も聞き込みを続けた結果、案外簡単にヤツの足跡をたどることが出来た。アイツ、めちゃくちゃ目立っている。特に女性に聞けば一発だ。


 商店街のオバちゃん。

 ゴミ集積場に集まっているばあちゃんたち。

 犬の散歩の奥さん。

 そういう人たちが皆、

「あのキレイな子」

「あのカッコいい子」

「あの王子様みたいな子」

 ……として、認識しているのである。

 何かムカつくな! 折り畳み傘を開くのに指を挟むようなヤツのくせに。


 しかし商店街を抜け、駅前から海の方へ抜ける大通りを下り、俺の父親が理事長を務める大学の近くまで来たところで、目撃情報が絶えた。

 その時点で八時を過ぎていたので、移動中のヤツを目撃した人たちとは違う時間帯になってしまったのだろう。

 後はまた明日、ということになる。


 あんまり遠くから来ているのではないといいんだが。

 学校のある日になってもこの聞き込みを続けることになったら、かなりウンザリする。

 明日には見つかることを祈って、俺は寮へ戻った。



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