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ライバル  作者: 宮澤花
33/57

7 ヤツの願い -1-

 その数日後、俺の携帯に山城先生から電話があった。

 何だろう。別に約束もしていないし、それなのに先生の方から連絡があるのは珍しい。


「はい。高原です」

 俺が出ると、

「康介か。首の傷はどうだ?」

 と当たり前だが先生の声がする。それを心配してかけてくれたのかと思い、ちょっと感動した。

 でも、治って来ていたのは先生も知ってるはずだけどな。


「ありがとうございます。もうほとんど治りました」

「そうか。良かった」

 そこで先生はちょっと黙りこんだ。それで切れるのかと思ったが、先生はためらいがちに次の言葉を発した。


「康介。お前、和仁がどこへ行ったか知ってはいないだろうな?」

「ツボタですか?」

 俺はきょとんとした。

「えーと。四日くらい前、雨が降ってた時に傘を貸しましたけど。あの、たまたま近くを通りかかったので」

 わざわざ行ったと言うのはきまり悪くて、誤魔化す。


「そうか。それが最後か」

「そうですけど」

 俺は、そこに至ってようやく先生が言っている意味に気付いた。

「いないんですか」

「ああ。三日くらい姿を見かけていない。ちょうど、お前が会ったという翌日くらいからだな」

 俺は黙り込む。


「いや、すまなかった。ただ単に諦めたというだけのことかもしれん。そうしてくれたなら、これで解決だ。騒がせてすまなかった」

 そう言って、先生は電話を切ろうとする。

「待ってください」

 俺は思わずそれを遮った。


「探しましょう。探した方がいい」

 だって、あの日ツボタはびしょぬれだった。具合でも悪くなってるんじゃないだろうか。

 どこかで苦しんだりしていたら。最悪、死んでいたりしたら……?

 俺は急いで、その想像を振り払う。


「とにかく、これから行きます。あの林を探してみましょう」

「ああ、いや。私は今、大学なんだ」

 繰り返すが、先生の職業は大学教授である。


「分かりました。一人で探します」

 そう言って俺は電話を切った。そのまま寮を飛び出して、先生の家に向かう。

 

 簡単に諦めるようなヤツじゃないのは分かってる。そうじゃなきゃ、あんなに何日もストーカーめいたことはやってられない。

 だから、もしアイツがあの場所に立っていないなら。

 立っていられないような何かが、起きたってことなんだ。


 先生の家の前の林に着く。

 何日も何日もツボタがぼーっと突っ立っていた木の下は空っぽだった。

 それがフツウのはずなのに、なんだかとても空虚に見えた。


 俺は林の中に踏み入った。

 心臓がドキドキする。もし、この奥でアイツが倒れていたりしたら。

 そんなに広いわけではない。それでも、藪だのなんだのが結構生い茂っている。

 その隅々まで探して、倒れているツボタも誰かが生活していた形跡もないと分かって、ホッとしたような残念なような気持ちだった。

 ここで倒れたりしていないという点ではひと安心だが。どこにいるか分からない、という点では何の前進もしていない。

 どうしよう。どうやったら探せるだろうか。


 しばらく考えて、思い当たった。

 ここに隠れ住んでいたのでなければ、ツボタはどこかから通って来ていたはずだ。

 だったらアイツの姿を見ている人がいるかもしれない。


 ただ。アイツは日中ほとんど、ここで幽霊みたいにボーっと立っていた。

 朝、俺が学校へ行く時間……八時少し前にはもういたし。先生が電気を消すように言う、夜の十時頃になってもまだ突っ立っていた。

 だから探すなら、朝早くか夜遅くの二択だ。


 寮の門限があるから、夜の十時過ぎに町をウロウロするわけにはいかない。

 となると、明日の朝か。幸い明日は土曜で学校は休みだ。

 俺は行動計画を立て、ひとつ息をついた。


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