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ライバル  作者: 宮澤花
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6 冷たい雨 -6-

「アンタ」

 ようやく、ツボタが口を開いた。

「何しに来たの」

 やっと口を開いたと思ったらコレだよ。イライラするな、コイツ。


「バカがバカなことをして濡れそぼってるんじゃないかと気になったから、来てみただけだ。来てみたら、やっぱりだ。バカだな、お前。本当にバカだ」

 俺は普段あんまり他人を罵倒したりしない方なんだが。コイツに対しては憤懣がたまっていたのだろうか、後から後から罵り言葉が出てくる。


 ツボタは不満そうに眉をしかめた。

「バカって。何だよそれ。四回も言ったな」

「こんなとこで、びしょぬれになるまで突っ立ってるヤツはバカだ。そして、数えてんじゃねえよ。ムダに細かいヤツだな」

「五回目だ」

 不服そうに言う。バカやろう、不満なのはこっちだよ。


「とにかく。これ、使え」

 もう一度、折り畳み傘をヤツに向かって突き出した。

「使い方くらい、分かるだろう」

 あれ、それとも分からないとか。折り畳み傘って日本だけのものか? 海外にはないとか。俺の今さしてる傘を貸してやった方がいいのだろうか。


「バカにするな。それくらい、使える」

 ツボタはムッとした様子で折り畳み傘をつかみとり、不器用な手つきで傘を広げ始めた。

「あー! カバーを捨てるな、俺のだぞ、それ!」

「ウルサイな。ジャマなんだもん」

 そんな理由で捨てようとするか、普通!


 それにしても、不器用だなコイツ。傘がおちょこになったりしてる。

 あ、今、指はさんだぞ。傘広げるだけで指はさむヤツ、初めて見た。

「あー、メンドくせえな! やっぱり出来ないんじゃないかよ。貸せ」

 仕方ないから、最終的に俺が傘をきちんと広げてやった。そうしないと、広げる前に壊されそうだったし。

 しかし、おかげで俺まで雨に濡れた。


 それでようやく、俺たちはお互い傘をさして向かい合った。

 考えてみると話をするのは、あの時以来だった。


「じゃ。俺は帰る」

 背中を向ける。

 これ以上、話すことなんかないし。何を話したらいいかなんて、分からないし。


「待てよ」

 後ろから声がした。俺は足を止めて、振り返る。


 ツボタはキレイな顔を少ししかめて、俺を見ていた。

「ねえ。アンタ、本当に何しに来たの?」

「だから」

 またイライラして来て、俺は言う。


「バカがバカなことして……」

「それはもう聞いたよ! 何回も言わなくてもいいよ」

「お前が聞いたから答えてるんだ」

「そういうことが聞きたいんじゃないってば」

 俺たちは、しばらくにらみあう。


 少しして、ツボタが視線を下に向けた。

「本当にこのためだけに来たの?」

 う。そんな風に言われると、自分が底抜けのお人好しのバカみたいな気がしてくる。

「悪いか」

 虚勢を張って、そっぽを向いた。

「悪い。ヘンだ、アンタ」

「それは悪かったな!」

 傘を持ってきてやって、何でこんな言われ方しなきゃならんのだ。腹が立ってきたので、もう一度背中を向ける。


「じゃあ、俺はもう帰るから。お前もどこで寝泊まりしてるのか知らんが、今日はサッサと帰って熱い風呂に入って早く寝ろよ。風邪ひくぞ、そんな恰好で」

 それだけ言い捨てて、大股に坂道を降りた。


 曲がり角で振り返ると。

 ツボタはまださっきの場所に立ったまま、俺の方を見下ろしていた。


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