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声無し魔法使いの声

作者: 黒崎 苑

それは、まるで歌のようで。

心に響き、染み渡り、満たされる。

そんな、声だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あなたみたいな下賤で落ちこぼれな者がこの学校にいるのもおかしいのに、更には彼の方のお側にいるなんて…おかしいですわ!!身の程をわきまえなさいな!!」


金髪縦ロールのいかにもお嬢様ー!!といった風貌の女子生徒に続いて、取り巻きをしている数名の女子生徒も相づちを打つ。

そんな方々に取り囲まれている私は、表面上は能面のような無表情を保ちながらも彼女達を見て、思う。


あぁ、またか。

よくもまぁ、飽きないですねぇ…



魔法や、摩訶不思議なものやことが存在するこの世界。

魔力を持つ人間は、その使い方などを学ぶために、数あるうちいずれかの魔法学校に行き、魔法をついてを学ぶ事が義務づけられている。

そんな世界の、一番有名で一番優秀で多くの偉大な魔法使いを育て上げ生み出した歴史ある超エリート校が私の通っている学校である。

この学校は基本的に、魔力の高い者が比較的多く生まれる傾向の貴族階級の人間が多い。

しかし、民間人がいないのか、と言われればそんな事は全くなく。

民間人でも魔力量が高ければ入学することは可能である。

そんな学校に通っているのだから当然私の魔力も高い


と、言うわけでは全くなく。

むしろ、下

なら、何かしら特化している事があるのか、例えば防御魔法に特化してるとか、攻撃魔法に特化してるとか、回復(以下略)とかでも全然全くこれっぽっちも無く。

全体の平均的な魔力量から見ても下。

ちょっと日常生活困るかなレベルで下である。

そんな、俗に言う落ちこぼれと呼ばれる私だが、諸事情によりこの学校に入学し、日々学生生活を送っている。

だからこそ、優秀と呼ばれる者たちから攻撃を受けることがある。

そして、冒頭のセリフに繋がるのであった。


「なによりも、あなたそれっぽっちの魔力でこの学校にいるのが恥ずかしくは無いのですか?」


おっと、どうやら私が少々トリップしている間も彼女の話しは続いていたようです。

全然聞いていませんでしたよ…まぁ、いいですけど。

なんだか、グチグチ言って取り巻きがそれに相づちやら同意して声を上げたりしているのですが、そろそろ飽きてきました。

しかもここ、裏庭の…しかも校舎の影が出来ているところに引っ張り込まれた為に、若干寒いのです。

スカートって不便ですよねぇ…

あぁ、しかもお昼休みがこんなつまらないことに刻一刻と減らされていっている…

今日は食堂で食べようと思っているのに…

このあとの授業はめんどくさい先生のめんどくさい魔法の実習なのに…

親子丼食べたいのに…


いろいろ思ってふぅ、とため息が漏れてしまいました。

それを目ざとく…耳ざとく?聞きつけた彼女。

彼女の目がギラリと光りました。


「ちょっと…その態度はなんなんですの?」


耳、いいですね、聴力いくつですか?

でもそろそろ本当にお暇させてもらいたいのでどうにか丸め込みに行きましょうか…とても面倒なのですが。

ですが、もお、そろそろ限界なのです。

なにって私のお腹です。

お腹空いたんです、親子丼食べたいんです。


よしっ、と意気込んで言葉を発しようとしたその瞬間。


「っあぁ!?あぐぅっ!」「きゃあ!…っ!!」


突然目の前の金髪縦ロールの少女が崩れ落ちました。

そしてそれを見た取り巻きの方々が悲鳴を上げますが、それも途切れます。

ものすごい威圧の魔力が彼女達を、この場を支配したからです。


あ、やっときましたか…


現れたのは、長い黒髪を後ろで一つに結んだ高身長の、恐ろしいほど顔の整った美青年。

彼は無表情ですが、その美しい夜明けのような蒼い瞳には怒りが滲んでいました。

ゆっくりと彼は近づいてきます。

そして、崩れ落ちた彼女の近くにまで来ると、無表情のまま、冷たい瞳で見下ろします。

その瞳をヨロヨロと見上げた彼女は「ヒッ…」と怯えたような声を出しました。

「もうこんなことは2度とするな」とでも言うように威圧感がさらに増したのち、解放された彼女達はヨロヨロと、しかし出しうる限りの力を振り絞って逃げて行きました。

それを見送った彼は今度は私の方へとやってきて、私の手を取りました。


『大丈夫?』


そう私に問うた彼の表情は先ほどの無表情とはかけ離れ、弱々しい仔犬の様です。

その様子にクスリと笑みがこぼます。


「はい、大丈夫ですよ」

『ごめん、来るのが遅くなっちゃって…』

「いいえ、そんなことはありません。助かりました」

『なにか、された?』

「いえ、なにも。」


そう私が笑顔で答えると、彼は心底安心したと言うように笑顔になりました。


「でも、とてもお腹が空いてしまいました…早く親子丼が食べたいです」

『そっか、そうだね、じゃあ行こう』


しっかりと私の手を握り、嬉しそうに歩き出します。

私よりも頭と少し高い高身長の彼は私の幼馴染。

そして、逃げて行った彼女が言っていた「彼の方」とは彼のこと。

高い潜在魔力と魔法コントロール、学生でありながら既に宮廷魔法使いの仕事もこなす、この学校に相応しい超エリートであり無類のイケメン。

学校内でも学校外でもとても人気の彼の側にいる落ちこぼれな私には、度々先ほどのような事態が発生します。

まぁ、3割自分で丸め込み、7割彼に先ほどのように助けられます。

その為面倒だなとは思いますが慣れっこです。

彼は基本的に魔法と私以外には無頓着かつ無関心なので、それに対する嫉妬ですね。

なんて恐ろしいのでしょー(棒)


そんな事を思いつつ、彼に連れられるまま食堂で念願の親子丼を平らげ、お昼休みが終わり、めんどくさい先生のめんどくさい授業が始まりました。


「んじゃあ、さっき教えた呪文通りに詠唱して特殊植物のゲアナの花を開花させて見せろ〜」


なんともやる気のない先生の号令で、一斉に生徒たち一人ひとりが自分の作業に取り掛かります。

そして、私は


『よし、いつでもいいよ』

「それでは…《大地に咲きしえにしの花よ、世界にある稀なる花よ、その眠りより目覚め、陽の元に咲き誇れ》」


私が先生に先ほどの教わった古代語を詠唱し、彼がの詠唱により術を発動させました。


他の生徒たちは一人で発動する魔法を私たちは2人で発動させます。


何故ならそれは、彼が喋ることが、声を発することが、出来ないからです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あなたのこえ、とってもキレイですね!」


記憶のない頃から声の出せない僕に、彼女はそう言った。



赤子の時に捨てられて、けれども尋常でないほどの魔力を持って生まれた僕を拾い育ててくれた師匠が連れてきた女の子。

彼女は僕と握手をした際にそう言ってきた。

でも、僕は声なんか発していないし、何より喋ることができないのに、彼女はまるで僕の声が聞こえた様な事を言う。

疑問と困惑と疑いと…様々な感情が生まれてくる。

思わず思ってしまった。


…は?なにいってるんだろ…


「む、なんですか、しょたいめんなのに失礼なんですよ」


ギョッとした。

僕が思った事に彼女が平然と返事をしたから。

思わず彼女の手を振りほどいて、師匠の後ろに逃げ込んだ。

その様子を彼女はポカンとした様子で見ていたが、直ぐに笑顔になると「今日からおせわになります、よろしくおねがいします」と言ってぺこりと頭を下げた。


彼女に出会う前は声を発することができない事に釣られるように、あまり感情と言うものが僕の中には無かったはずなのに、顔を合わせて数秒で僕の内側は様々な感情に揺さぶられた。


彼女は異能という能力を持って生まれた子供だそうだ。

異能とは、魔法とは違う別種の力であり魔力を必要としない。

今だ解明されていない特別な力であり、とても稀な力で、個体によってその能力は変化するという摩訶不思議な力だった。


彼女の能力は《触れた人の心の声を聞く》能力。


彼女はその力が原因で親に君悪がられ、預けるという名目で師匠に引き取られた。


最初は戸惑った。

誰とも会話をすることが出来なかった僕に、突然現れた意思疎通の叶う相手が現れたから。

そして、怖かった。

理由はわからないけれど、理由のわからない恐怖があった。


なるべく彼女とは距離をとって接していたけれど、同じ家にいて、同じ人に教えられているこの状況ではとても難しいことだった。

そんな日々が続いたある日、事件が起きた。


師匠が留守の時に街に盗賊が現れたから。


街はパニックになり、荒らされていく。

そして、とうとう僕達の所にもやってきて、僕達を連れ去ろうとする。

魔力を多く持っているから、異能を持っているから。

でも、僕には欠陥がある。


声が出ない。


それは、魔法を使う時ために必要な詠唱ができないことを指している。

詠唱無しでの魔法は師匠の様な高位の魔法使い程にならないと出来ない高等テクニック。

いくら魔力が高くてもまだ僕がそれをすることは出来ない。

もう、ダメだと思ったとき。


「大丈夫ですよ」


彼女はそう囁いた。

そして、僕に手を差し伸べて言った。


「一人でできないなら、いっしょにやりましょう!」


迷って、出来るのかと疑って、でも、僕は、彼女の手を取った。


そうして、わかったこと。

彼女が詠唱すれば僕は魔法を使える。


2人でなんとか教えられていた魔法を使って、せめて師匠が来るまではと踏ん張った結果、盗賊は無事捕縛されて街は助かった。


それからは、彼女とともいた。


渋々といったのを隠そうともしないが同じ学校に通ってくれた。

魔力は少ないけれど、凄まじいほどの記憶力によって生まれた豊富な知識量と美しい古代語を紡ぐ彼女は、決して落ちこぼれなどではない。

魔力の豊富な僕と共にあれば出来ないことはない。

だからこそ、宮廷魔法使いの仕事もこなせるんじゃないか。


僕のこえに答えてくれる声。

僕の代わりに僕の声を伝えてくれる声。

最初にあった恐怖はきれいさっぱり消え去って、愛しさが胸いっぱいに、身体全身を満たしてる。

君はまるで僕の半身のようで、いつも寄り添ってくれる。

君にしか聞こえない僕の声は君のもの。

僕の代わりに紡いでくれるそれは僕の言葉。


『ねぇ』

「ん?なんですか?」


こうして、何気ないものでも会話ができることが幸せだから。


『僕は君が好きだよ』

「はい、私もあなたが好きですよ」


気持ちが通じ合うことが嬉しいから。

キレイと言ってくれた僕の声は君に捧げるよ。

その代わりに、声なしの僕の声であり続けてね。


この作品は、随分前に別のサイトで連載していた物をダイジェスト的な感じで載せてみました。

どうもありがとうございました。

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