赤色
手が氷のように冷たい。動作するたび、鋭い痛みが骨を貫く。
血は流れ落ちたと視認できたのに、何度も洗わずにはいられなくて、その結果がこれだ。
ひどく落ち着いている。熱い返り血を浴びた瞬間を思い返しても、記憶が途切れ途切れで、何の感情も湧かない。
初めての任務だった。
初めて黒いドレスを纏い、初めてこの部隊で任務を行い、初めて関係のない人を殺めた。
豪華なドレスを着せられた少女の胸に、私の手が、ナイフを刺す。
刃が肉に埋まる感触が、べっとりと手に張り付いて、消えない。
心拍は正常で、あの動揺も絶望も、沈黙しきっている。
私の中のすべてが、凍りついてしまったのだろうか。
ふと名前を呼ばれた。
目線を向けると、彼女は微笑む。
「おいで。」
いつもと変わらない彼女の声に誘われ、私は向かい合って、椅子に座る。
冷えきった私の手を取り、彼女が赤色のネイルを取り出した。
真っ赤な液体がすくわれ、私の爪に塗られる。
口角を上げたままの彼女は、戦闘前と変わらない。少しも汚れがない黒いドレスを、美しく着こなしていた。
ゆるくウェーブする髪に、黒いリボンが巻きついていて。薄く塗られた口紅が弧を描いていてる。
彼女は私を罵らない。私を軽蔑しない。
それに、安心感ではなく、ほのかに違和感を感じた。
「みさは赤色が似合うよ。」
解放された手を見ると、爪が赤くなっていた。
それが、ぬるりとした光沢を帯びている。
「……………血みたい」
つぶやいた私を、彼女は愛おしそうに見つめる。
その目を見つめながら、あぁこの人はちょっとだけおかしいんだと、思った。
まだ乾いていない赤い爪を見て、彼女は甘い目をする。
「やっぱり、似合うよ」
抱きついてきた彼女の胸に、ネイルの赤色が付いた。