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リピート

残酷な描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

 つまらない毎日。





  退屈な日々を繰り返す。







 “リピート アフター ミー”


 “私の後に続いて”








 イヤホンを耳にさして、いつもと代わり映えのしない道を歩く。



 周囲を歩く人は大体いつも同じ人。







 “リピート”


 “意味は繰り返す”








 マイナーなアーティストのマイナーな歌が頭の中を流れていく。









 “繰り返しの毎日に意味なんてあるのか”



 “crash”








 掠れた声で歌うボーカル。





 歌詞を頭の中に思い浮かべる。


 歌詞カードが擦り切れるほど、読み込んだ。


 一字一句間違えることなく、そらじてみせることが出来る。








 “リピートアフターミー”



 “私の後に続いて”









 一曲だけリピート設定にして、同じ曲を延々と繰り返す。



 そうして、5回目のリピート再生が終わる頃学校の校門が見えてくる。




 校門には生活指導の教師が立って、スカートの短さや腰パンを注意している。



 校門に着く前に、音楽プレーヤーを止めてイヤホンを鞄の中にしまう。



 教師に挨拶して、校門を通りすぎた。



 上履きに履き替え、教室へと向かう。

 教室のドアはいつも開いている。


 一つの机に集まりそこで談笑する生徒。


 静かに本を読む生徒。


 廊下で騒ぐ生徒。



 それぞれがそれぞれの時を過ごす空間。



 私もまた、自分の時を過ごす。



 席について鞄を下ろし、中から先程閉まったイヤホンを取り出す。


 さっきまで聞いていた曲と同じ曲をリピート設定にして、イヤホンを耳に差し込んだ。


 そうして、机の上に伏せて目を閉じる。



 頭の中に響くハスキーな歌声。







 “ねぇ?思ったことはない?”



 “なんて、退屈な毎日だろう”







 * * * * *


 


 ホームルームが終わると真っ先に教室を出る。



 部活はしていない。



 けれど、家にも帰らない。




 私が帰ったところで、母は良い顔をしない。




 だから、いつも適当に時間を潰してから帰る。




 いつもと同じ曲をリピート設定にして、いつもと同じ道を歩く。




 変わらない街並み。



 でも、全てが変わっていないわけではない。




 少しずつ、街も人も変わっていく。




 私も変わった。




 私だって変わった。






 それなのに、どうして毎日から抜け出せないのだろう?





 毎日が酷く退屈だ。




 つまらない日常を延々と繰り返す。




 誰かの後に続く日々。



 リピート再生。



 同じ一日を繰り返す。




 いつまでこれが続くの?



 いつになったら終わりは来るの?




 こんな毎日に意味はあるの?







 “リピート アフター ミー”








 ハスキーな声が私の耳朶じだを震わす。



 * * * * *


 家の玄関を開けて、中へ入るとカチャカチャと母が食器を洗う音とテレビの音がした。

 玄関を開けると、正面にリビングがある。

 扉はいつも閉まっている。

 ドアを開けると、父と姉がソファでテレビを見ている。

 壁にかけられた時計の針は七時を示していた。

 テーブルの上にはラップをかけられ冷めた私の夕食。

 皆はもうすでに食べてしまったらしい。

「早く食べてくれる? 片付けたいの」

 台所で母が不機嫌そうに言った。

 いつものこと。

 冷めた夕食をレンジで暖め、ご飯を茶碗に盛る。

 一人で食べる夕飯。

 いつものこと。

 一昨日も昨日も今日も同じ。

 きっと明日も同じ。

 同じ毎日を繰り返す。




 * * * * *




 頭の中でリピート再生。






 “crash”



 “今日と違う明日を掴むために”





 ご飯を口に運ぶ手が止まった。

 それを、見て母が言う。

「何してるの? 早くしてちょうだい」

 けれど、その言葉は私の耳には入らなかった。




 頭の中でリピート再生。





 “繰り返しの毎日に意味なんてあるのか”




 “crash”





 “今日と違う明日を掴むために”





 そうだ。

 壊そう。

 そして、今日と違う明日を掴もう。





 箸を置いてゆっくりと立ち上がる。

 母のいる台所へ向かう。

「……紗菜さな?」

 母が訝しそうにこちらを見ている。

 私は笑った。

 だってとっても可笑しかったから。

 こんな簡単なことに何で今まで気付かなかったんだろう?

 私が近づく度に一歩、また一歩と後ずさる母。

「おい。何してるんだ?」

 こちらの様子に気付いた父が声をかける。

 姉もこちらを見ている。

 私は笑っていた。

 可笑しかった。

 可笑しくて可笑しくて堪らなかった。

 何がこんなに可笑しいのか自分でも分からないくらいに。

 洗ったばかりで、水切り台の上に置いてあった包丁を手に取る。

 それを見て、母が短く悲鳴をあげる。

「何してるんだ!」

 父の怒鳴り声がした。

 右手を振り上げて、思いっきり胸に突き刺そうとする。

 母はそれに抵抗した。

 足でお腹を蹴り、抵抗が弱まった隙をつき、胸に包丁を刺した。

 じわじわと赤く染まっていく服。

「お前……」

 振り返ると、父と姉が立っていた。

 口元を手で隠し酷く動揺した様子の姉。

 そんな姉に父が何かを指示していた。

 声が聞こえない。



 頭の中でリピート再生。






 “リピート”




 “繰り返すのはもう飽きた”




 走る。

 低く屈んで、そのまま走った。

 そのままお腹の辺りを刺す。

 まさか、自分に向かってくるとは思っていなかったのかあっさりと刺されてくれた。

 呻き声をあげる男。

 悲鳴をあげる女。

 腕で突き飛ばされる。

 しまった。

 包丁を抜けなかった。

 男の腹に刺さったままの包丁。

 しかし、包丁は一つじゃない。

 水切り台にもう一つ果物ナイフがあった。

 それを手にする。

 包丁に比べると少し小さいがこれでも充分だ。

 男はその場に座り込んでいる。

 額に汗がびっしりと浮かび上がっていた。

 女がリビングへと走る。

 逃がすものか。

 後を追いかけようとし、男に阻まれる。

 腹には包丁が刺さったままだ。

 柄を蹴飛ばし、もっと深く刺してやる。

 そして、手に持った果物ナイフでさらに胸を刺した。


 なんだ。



 意外に簡単じゃないか。





 動かなくなった男を見下ろしてから、女の後を追う。

 女は電話をかけていた。

 こちらに気付いて、悲鳴をあげる。

 受話器を放り捨て、逃げようとする。

 その腕を後ろから掴み、背中を刺した。

 地面に押し倒し、何度も何度も繰り返し突き刺す。

 最初は暴れたが徐々に動かなくなった。






 頭の中でリピート再生。






 “全て壊して”




 “新しいことを始めよう”






 笑っていた。

 声をあげて、思う存分に笑った。






 * * * * *



 鏡を見て、顔にも髪にも血がついていることに気付いた。

 はさみを持ってきて、長かった髪を切り落とす。

 ザクザクと切り落とすのが快感だった。



 それから、シャワーを浴びた。



 服を着替えて、ありったけのお金を持って外に出た。




 頭の中でリピート再生。





 “新しいことを始めよう”



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