スターダスト
大変遅くなりまして、申し訳ないです。
次回はもう少し早く更新できるようにします。
お母さん。
私はここにいるよ?
お父さん。
私の話を聞いて?
お姉ちゃん。
私を見て?
ねえ?
皆……。
どうして私のこと見てくれないの?
私の話を聞いてよ。
お願い。
もう、喧嘩はやめて。
そんな声聞きたくないよ。
どうして、私の声は届かないの?
ねえ?
神様、どうして?
* * * * *
お母さんは今日も怒ってた。
私のテストの点が悪かったから。
私、一生懸命勉強したの。
でも、駄目だった。
「なんで、あんたはいつも駄目なの!」
お母さんはそう言って、私のこと叩くの。
ごめんなさい。
お母さん、ごめんなさい。
「目障りなのよ。あんた、どっか消えて?」
お姉ちゃんはそう言って、私を突き飛ばすの。
ごめんなさい。
私、良い子にしてるからお家から追い出さないでーー。
お父さんとお母さん。
今日も喧嘩してた。
私が駄目だからーー。
「紗菜があんな風なのはお前がしっかりしていないからだろう!」
お父さんの声。
「全部私の所為だっていうの!?」
お母さんのヒステリックな叫び声。
耳を塞ぎたくなる。
でも、そんなことしちゃ駄目だ。
全部私の所為だーー。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
私、いないほうがいいよね。
ごめんなさい。
生まれてこなければ良かったーー。
* * * * *
お父さんはお役所でお仕事してるとっても偉い人なの。
お母さんはいつも家にいるけど、きちんと大学を出て教師の資格をもってるの。
本当は先生になりたかったって、前に話してた。
お姉ちゃんは凄く頭が良くて、100点のテストを持ち帰って来るの。
私とは大違い。
私は一生懸命勉強するけど、いつも60点くらいしか取れなくて、お母さんを怒らせてる。
その度にお母さんは私を打つの。
ごめんなさい。
私、駄目な子だね。
ごめんなさい。
ごめんなさいーー。
私、いないほうがいいよね?
* * * * *
冬にみんなでキャンプに行った。
その日の夜。
私はこっそりテントを抜け出した。
私なんかいなくなればいいと思って。
でも森の中に入ったら、暗くて怖くて、お母さんのところに帰ろうと思った。
でもーー。
「帰り道……どっちだろう」
帰り道、分からなくなっちゃった。
私、やっぱり駄目な子だーー。
もう、足が痛いよ。
森は暗くて怖いよ。
それに、とっても寒い。
どうしよう……。
怖くて怖くて、
涙が溢れた。
「お母さん……」
地べたに座り込んで泣いた。
「ふえっ……お母さっ」
どれくらいの時間、そうしていたのだろう。
「どうしたの?」
優しい声がした。
鬼じゃないかと恐る恐る振り向くと、同じ年頃の男の子がいた。
優しそうに笑っている。
「迷子になっちゃったの? 立てる?」
そう言って手を差しのべる男の子。
その手を取って立ち上がる。
「大丈夫だよ。テントまで案内してあげる」
男の子は私の手を引いて歩き出した。
私は黙って男の子の後に続いた。
もうあちこち歩き回ってへとへとだったけど男の子に手を引かれると不思議と歩けた。
しばらく歩いていると、森を抜け開けた場所に出た。
どことなく見たことのある景色だと思い立ち止まると、昼間に来た丘だと気付いた。
父がテントをたてる間、邪魔だからということで姉と辺りの散策に出掛けたのだ。
しかし、姉は私と歩くのを嫌い一人で行ってしまった為、私一人でキャンプ地を歩いていたらこの丘に出たのだ。
遅くなるといけないと思い、すぐに戻ったのだが気持ちのいい場所だと思った。
「どうかしたの?」
手を繋いでいた為、私が立ち止まったことに気付き男の子も立ち止まり振り返る。
「ここ知ってます。今日お昼に来たもの」
それを告げると、男の子は微笑んだ。
「良かった。じゃあここからは一人で帰れるよね」
男の子はそう言って、私の手を離した。
「じゃあ、バイバイ」
そう言って、もと来た道を引き返す彼の腕を私は咄嗟に掴んだ。
そして、掴んでしまってから後悔した。
「あっ、ごめんなさい」
謝って手を離す。
俯く私に彼は優しく声をかけてくれる。
「心細いんだね。少し一緒に話そうか」
そう言って男の子は再び私の手を掴んだ。
男の子はそのまま丘を登り、私は彼に連れられて後ろを歩く。
ちょうど天辺に着いたところで、男の子は私の手を離しその場に座った。
私が隣に座ってもよいのか迷っていると、男の子は私を見上げて微笑んだ。
「どうしたの? 座りなよ」
私はその言葉に頷き、少し躊躇いつつもその場に腰を下ろした。
そのまま無言で数分経つ。
そっと男の子の顔を伺うと、彼の顔は先程とは違いどこか寂しげであった。
ずっと見つめていると少年は私の視線に気付き、微笑む。
「どうかした?」
その笑顔が胸に突き刺さった。
私は首を横に振って言った。
「何でもないよ……」
「どうして、あんなところにいたの?」
私がそのまま黙っていると、男の子はそう尋ねてきた。
私は俯き黙りこむ。
「言いたくないなら話さなくてもいいけど、たまには誰かを頼ることも必要だよ」
男の子は私にそう言った。
「人は一人では生きていけないんだ。誰かを求め、誰かに依存し、誰かを傷つけ、誰かに傷つけられながら生きていくんだ」
私は男の子の顔を見た。
急に難しいことを言われ私にはよく分からなかった。
「全部父さんの受け売りだけどね」
そう言って少年は笑った。
その顔がとても寂しそうでーー。
「お父さんと仲良くないの?」
私はそう聞いてみた。
すると男の子は少しびっくりしたような顔をした。
それから少し変な顔をして、また笑った。
「まあ、悪いわけじゃないけど、良いわけでもないかな」
何となくその顔を見てたくなくて、ふと空を見上げた。
「うわぁ」
思わず声が漏れた。
釣られて男の子も同じように空を見上げる。
男の子が隣で息を飲むのが分かった。
私達が見上げた空には満天の星空が広がっていた。
初めて見る景色に圧倒され、私はただ星を見つめていた。
手を伸ばせば届きそうな星空。
その美しさに何故か泣きたくなった。
「綺麗だね」
そう男の子が言った。
私は黙って頷いた。
そうして、二人でいつまでも星を眺めていた。
空が明るんできた頃、ようやく男の子が立ち上がって私に手を差し伸べた。
「そろそろ帰ろう」
私は頷いてその手を取った。
「また、会える?」
そう聞く私に男の子は頷き、
「きっと会えるよ」
と笑った。
それはその日初めての心からの笑顔に見えた。
「名前、教えて。私は紗菜」
私が名乗ると彼も名乗った。
「僕の名前はーー」
* * * * *
しっかりと聞いたはずの彼の名前が、思い出せなくなったのはいつの頃のことだろう?
今では顔も朧気で思い出せない。
ただひとつ、はっきりと鮮明に覚えているのは、あの日二人で見た満天の星空。
あの星空だけが、今も忘れることなく覚えているーー。
* * * * *
あの日の僕は君に救われた。
君は僕を救ったなんてこれっぽっちも思っていないだろうけれど。
君を慰めるつもりが、僕が慰められちゃったよ。
君はいつもそうーー。
君の何気ない仕草、一言に僕はいつも救われる。
空を見上げなければ、人は頭上で星が輝いてることに気付けない。
ねぇ?紗菜。
今度は僕が君を救うよ。
誤字脱字があればお願いします。