有能な暗殺者。
俺は何も残さずに去っていく。
暗い夜道を駆け抜ける。
そして数分もしないうちに家まで着いてしまった。
「お帰り。」
そう言い出迎えてくれるのは母。
そして…厳しい形相の父。
「今回も上手くやれたようだな。」
表情から読み取ったのか、父がそう言い放つ。
「ああ。当然だ。」
俺はそう答える。
「服、替えてらっしゃい。」
母に言われ改めて自分の服を見る。
標的の血が服についている。
血なまぐさい。
俺は不愉快に思い、すぐに服を脱ぎ捨てた。
「また依頼が来たら頼むぞ。」
去ろうとする俺に言う父。
「わかってる。」
俺は小さな声でそうつぶやくと部屋へと帰った。
だいだい暗殺者の家系だった俺の家族。
そんな俺は小さな頃から暗殺に必要なことを教え込まれた。
そして…
厳しい父は俺に一番覚えてて欲しいことを告げた。
『人に情をうつすな』
と。
人に情をうつした時点で暗殺者失格だ。
ずっと言われ続けてきた。
優しさなんていらない。
同情なんてしなくていい。
ただ…
人を殺すことだけを考えろ。
と。
そんなふうに育てられた俺は…
表情のない能面。
殺すためだけに生まれた…
そんな男になっていた。
けれどそんな人間が暗殺では勝ち。
俺は有能な暗殺者に育ったのだ。
それが俺。
暗殺者の家系で育ち、表情のない有能な暗殺者…
『暗藤 千鬼』