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短編

銭湯妖精ユキちゃん【企画競作スレ】

作者: まめ太

 皆様、ひと頃に比べ蒸し暑い日々が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか?

 わたくし、ここ、異世界に飛ばされてはや半年が経とうとしております、底辺作家ナニガシ。

 こちらの世界ではエンターテインメントの類が発達しておりませんゆえ、わたくし途端に困窮致しましたがなんとか糊口を凌いでおります。そこはまぁ、オフレコということで。

 え、わたくし、現在はこの世界に娯楽の定着、エンタメの種を撒くことを目標に、日々、不思議発見レポーターとして充実の毎日を過ごしておる次第です。

 そして本日、タレコミ情報を元に、ここ、寂れたダンジョン第三階層にあると噂の地下温泉へ潜入レポートを敢行いたしました。

 この地下温泉、かつては傷ついた冒険者の回復にも一役買い、まさに、まさしく、命を繋ぐ温泉として、数多くの人々の鋭気と気力を養ってきた、由緒正しき地下温泉なのです。

 この暗い洞窟、この奥に、まさにその温泉がほかほかと湯気をたてて旅人の到来を今か今かと待ちわびているわけですよ、皆さま。


 そして、この温泉、一つの噂がございます。

 いつ頃からか、定かではございません、しかし、いつの日からか、この隠れた名湯に住み着いた、愛らしい妖精の噂が囁かれはじめたのです……。

 その名は、銭湯妖精ユキちゃん!

 わたくし、本日はこの温泉に出没すると噂の、銭湯妖精ユキちゃんの真相を探るべく、突撃取材を敢行しに参りましたっ!

 お待たせ致しました、みなさま、いざ! 突入いたしましょうっ!


 もくもくと湯気にけぶる暗い洞窟の一隅。ここに、噂の主は果たして本当に存在するのでしょうか。

 そっと、足音を立てないように進むわたくしめのこめかみにも、湿気のためか、緊張による発刊作用か、じっとりと汗が浮いております、皆さま。

 見えて参りました、暗い洞窟内、かすかに発光しつつも大量の湯気を発生させるその源、い~い香りが漂って参りました、ジャスミンの香り、これはご婦人方に好評でしょう! さすがは秘境の名湯!

 色合いは、うっすらとグリーンです。清涼感溢れるエメラルドグリーン! 美しい風景です!

 わたくし、感無量でございます、皆さま!

 あっ! 今、ご覧になりましたでしょうか、ご覧頂けましたか!? さっ、と横切る小さな影!

 出ました、ついに姿を現したのです、伝説の地下温泉、その伝説のさらなる伝説!

 銭湯妖精ユキちゃんの登場でしょう!

 ユキちゃんさん! 一言! 一言、お願いいたします!

「えっと……。お背中、お流しいたしますー、どうぞ、お湯に浸かってゆっくりしてくださいね。」

 可愛らしい!!

 皆さま、お聞きになりましたでしょうか! まさしく、鈴を鳴らしたが如き愛らしい音色!

 彼女の存在がすでに愛! 愛でるべき存在、それはまさしくこの妖精族、いえ、ここに居るこのユキちゃんというべきです!

 ではさっそく皆さまには失礼致しまして、わたくし、温泉の方へ浸かってみたいと思います!

 …………


 うぉっ! なんということでしょう、皆さん!

 温泉が! エメラルドグリーンの、清涼感溢るる温泉が!

 実はモンスター、実はグリーンスライムだったのです! この巨大さは滅多とお目にかかれません!

 しかし! モンスターといえど、この湯気、いや、茹で上がったグリーンスライムの動きはまるで死に体!

 まさしく死に掛かっているかのように、ぐったりしております!

 どうした、なにがあった、グリーンスライム!

「ちっ、」

 おおぅ! そしてユキちゃんです! なんでしょうか、今の舌打ちは!?

 わたくしの聞き間違い!? いえ、そのような事はありません、なぜなら彼女は今まさに不満一杯にわたくしを睨んでいるのですから! え!? なんでしょう、わたくし、餌にされかかった!?

「溶けて消えちゃえばよかったのに溶けて消えちゃえばよかったのに溶けて消えちゃえばよかったのに溶けて消えちゃえばよかったのに……」

 恐ろしい呪文のごとき台詞を延々繰り返しております、銭湯妖精ユキちゃん!

 いや、その正体はまさしく悪魔! 温泉の悪魔、ユキちゃん!

「可哀想なのよ、その子。ぐったりしちゃってるでしょ? 餌が取れなくて死んじゃうかも知れないの。可哀想で見てられなかったの。可哀想でしょ?」

 食べられかけたわたくしは可哀想ではないのでしょうか!?

 茹で上がったスライムは依然わたくしに向かって、ほかほかと湯気の立ち上る香ばしい触手をじわりじわりと伸ばして参りますが、これはどうも、でろりんとして、まったくの無力!

 摘まんで持ち上げてみましたが、息も絶え絶え、放すとぺしゃんと力なく地に落ちます!

 なぜ温泉に潜ったのでしょうか!? 不可解、まさしく不可解というものです!

 まさしく無謀、まさしく蛮勇、まさしく奇奇怪怪、わたくし、湧き上がる疑念を禁じ得ません、皆さま。

 茹だると解かってなぜ入る!?

 あっ! ユキちゃんが! ユキちゃんが飛翔しました、ユキちゃん逃亡! 逃亡です!

 ほかほかのグリーンスライムを置いて、ユキちゃんが先に敵前逃亡です、皆さま!

「ばーか!」

 捨て台詞も愛らしい!

 しかし、いったい彼女は何者だったのでしょうか!? 謎は深まるばかりです!


 現場からの実況をお伝えいたしました、では皆さま、また!

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