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 プログラム3.とりあえず戦闘。

 自然の中を散策するというのはとても気持ちの良い事だと常々思う。

それでも限度というものがあり、昼間でも薄暗い鬱蒼として方向感覚を惑わされかねない大森林の中では楽しもうにもなかなかそうもいかない。


 一度方向を失えばそのまま迷子になり死ぬまで森の中でさ迷い続ける可能性だってある。

手には魚をさばく時に拾った鋭利な石。それで通過点の木に目印を付ける。


 もう一方の手には頑丈そうな枝を握ってガリガリと地面に線をつける。まぁこれは消えて無くなる可能性が高いので形だけのものだが。


 行けども行けどもどこまでも続く森。小屋などがあればいいなと思ったけれど、もしかしてここは人が滅多に踏み込まない場所なのだろうか。

 気を紛らわせるのに鼻歌など歌ってみた、うん空しい。


 もしこのまま夜にでもなれば方角も分からない暗闇の中に取り残される事になる。そうなる前にどうにかして寝床を確保しておきたいものだが、そう簡単に・・・


 簡単に・・・いった。


 まだやっと視界に入ってきたという程度のもので距離はあるけれど、前方に小屋らしきものを発見する。誰か住んでいるかもしれないがその時は泊めて貰えるよう交渉しよう。

 足早に小屋に近付くと煙突から煙が上がり、そこで誰かが生活しているらしい事が伺えた。


 小屋が目の前まで迫り、一歩ひらけた場所に踏み込もうとした足を・・・私は一度退いた。


 「止まりな嬢ちゃん、ここがどこだか知ってて来やがったのか?」


 もうすでに止まってますがと言えば、そんな事はどうでもいいんだよと乱暴に返される。理不尽だ横暴だー。


 そういえば言葉が通じるということは、ここは日本なんだ、良かった。

私、日本語以外は話せないから良かった。これでここがどこなのかとか、帰り道も尋ねられる。


 「何も知らないのですが、ここはどこなんでしょう?」


 「はぁ?お嬢ちゃん頭でも打ったのか?」


 よく聞け、という前置きをされて男が教えてくれたが、ここは盗賊団のアジトなんだそうだ。盗賊団?

 改めて話を聞いた相手を見れば確かに、物語の中に出てくる盗賊のような格好をしている。何と言うか荒くれ者?そんなイメージ。


 「すいません映画の撮影中だったんですね、お邪魔しました。」


 脳内でそう結論を出した私はその盗賊役さんに頭を下げて元来た道を引き返そうとするがそうもいかないようだ。


 「おっと、この場所を見つけられたからには・・・」


 「いくら女子供でも見逃せねぇなぁ。」


 木の影に隠れていたらしい数人が私の進行を妨げるように立ち塞がると、先程話をした男が呼んで来たのか小屋の中からも更に数人。

 現実逃避がしたかったのだけど、やっぱりそう簡単にはいかないものだなぁとため息をついていると怒られた。理不尽!


 「この状況分かってんのか?嬢ちゃん。」


 「大の大人が寄ってたかって女の子を取り囲んで優越感に浸ってるっぽいのは分かりました」


 で、本当の事を言ってみたらまた怒られると。しかも武器なんか取り出してじりじりこちらとの距離を縮めようとしている。

 相手は5人。小屋の中にあと何人いるかは分からないけれど、せめて荷物を置かないとまともに動けそうに無い。


 目下の目的は小屋と反対方向に立ち塞がっている二人を抜く事。

地面を蹴って、男二人が行動するよりも先に仕掛ける。


 慌てて反応する男が武器を振りかざしてくるが、本当に振り下ろしてくるだけだったので地面を擦り、横に避けてから時間稼ぎの為にガラ空きになった男の横っ腹に掌底を当てて体勢を崩す。


 男がよろめいた隙に、もう一人が寄ってこないうちに距離を取る。手早く鞄を後ろに置き、竹刀袋から木刀を取り出す。今の私にはこれが唯一の武器なわけで。

 警戒していた男たちは私の獲物が木の模擬刀ということにあからさまに安堵して気を抜いた事が分かる


 知ってる?木刀だって、鈍器にもなるんだよ?


 そういえば一度に複数相手というのは今まで経験した事はなかったなぁと思いながらも、落ち着いている自分に苦笑してしまう。


 「なに笑ってやがる小娘ぇぇぇえええっ!」


 それがまた癪に障ったのか男の一人が単独で向かってきてくれる。これは有難い、一人ずつ来てくれるなら対処はし易い。


 模造刀なのか真剣なのかは分からないけれど状況を考えると真剣だと思った方がいいだろう。それも考慮して、真正面から受ける事は避ける。

 そもそも筋肉が隆々と浮き上がった男性相手に、真っ向から力勝負して勝てると思うほど私は自惚れてはいない。


 恐らく私が彼らに勝るものを持っているとすれば、それは速さだけ。

怒りに任せ振り下ろす武器を後方に下がり避け、男が再度武器を構える前に懐に踏み込み、下段の構えから男の顎を打ち抜いた。


 小さな悲鳴を上げて男は倒れ、白目になっている。いい手ごたえを感じながら、次の自称盗賊さんを待ち構える。


 あと、4人。




 「ふー食後のいい運動したぁー。」


 木刀を袋に戻し、背伸び。この小屋にいた盗賊さんは5人だけだったようで、小屋の中にあった紐でしっかり木に縛り付けておいた。警察さんとか呼べたらいいのだけど携帯は圏外だし、そもそも本当に日本なのか彼らの存在を見てまた不確かになった。


 「う、ぐ・・・」


 呻く声に目をやると、最初に気を失った盗賊さんが目を覚ましていた。丁度いい、状況確認させてもらうとしましょうか。


 「おはよー、突然質問だけどここ何て森で何て国?」


 「てめぇっ!こんな事してタダで済むと・・・ぐふぉっ!?」


 「はいはいキリキリ答えるー」


 あんまり煩くされて他の盗賊さんまで目を覚ましたら色々面倒臭いじゃない、もう一回気絶させなきゃいけない的な意味で。

 その盗賊さんが言うにはここは名も無い森で、ユルグクという村の北に位置するらしい。国の名前はクロファイド共和国、らしい。


 はい日本じゃないこと発覚した!しかも世界自体違うような気がする。聞いた事も無いような国だし、私の言葉が通じるのも不思議な話だし。


 「くそ、久々の上物が・・・売り払えば大金ができたってのに・・・」


 もし何かの拍子でわけの分からない場所に来てしまったのだとしたら今のままでは少々危ないかもしれない。人身売買とか怖いし、性別なんかも隠した方が良さそうだ。


 「黒い髪が珍しいの?それともこの目の色が?」


 私はそこまで容姿がいいわけではないのは自覚していて、こういう場合高値になるような絶世の美女なんて事は絶対に無い。

 なら高値になる要素が別にあるとしたなら、目の前の男たちが持ち合わせていない髪の色くらいしか思いつかない。


 「どっちもだ。黒い髪に緑の目なんて見た事も聞いたことも無い。」


 そう、どっちもなんだねー。私の髪は本当に真っ黒で、光を浴びても茶色がかって見えないほどに真っ黒だ。


 そして目の色、日本生まれ日本育ちのはずの私だけれど目の色だけは青みがかった緑色というおかしな遺伝子をしている。


 優性遺伝とか劣勢遺伝とかどうなってるのと年を重ねるたびに不思議に思ったけれど、そういうこともあるのかと気にする事を止めていた。


 これは髪はともかく目の色は隠さないとなぁ。


 「あーそうだ、村ってどう行けばいいの?」


 村の北にあるということは、南に向かえばいいのだろうけど・・・南ってどっち?


 「・・・崖沿いにここから右に・・・」


 「・・・ほんと?」


 「ヒッ!すいません左ですっ!」


 目を泳がせている盗賊に、転がしてあった彼らの武器を突き付けると途端顔を青くさせて訂正してきた。


 「そっかー色々ありがとうねー。」


 とりあえず笑って返すと、直ぐに手刀を入れてオトす。さてじゃあ村に行く前に色々と準備をしましょうか。


 まずは服装をどうにかするべきか、と思って小屋を物色していると盗賊さんたちの戦利品らしきものが出るわ出るわ。


 流石に金品を拝借するのは気が引けたので、着れそうな服をコーディネートして手早く男装してしまう。


 簡素な長袖の上衣にダボっとしたズボンにブーツを履いて、胸を潰して誤魔化すために胸当て、手袋と小手も拝借する。マントというかストールっぽいものを首に巻いて完成。


 髪も束ねて一つにして、帽子を被り隠す。あとは目元を隠すものを・・・と、そこまで考えてそういえば盗賊さんの一人がゴーグルをしていたなぁと思い出し外へ。


 目当てのゴーグルを拝借拝借。有難い事にグラス部分が色付きだったので目の色もこれで隠せそうだ。


 学生鞄と竹刀袋が相当ミスマッチする格好になったが仕方ない。荷物を持ち、崖沿いを歩く。次の目的はユルグクの村、そこに辿り付いて休める場所を探して先立つものを手に入れる方法を考える。




 どうやったら帰れるのかなんて予想もつかないが、まずは目の前にあるできる事からコツコツ済ませて適度に楽しんでゆくとしよう。


やっとヒロインの容姿が揃ったところで男装。

次は村の中でひと騒動。

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