プログラム2.とりあえずご飯。
――――――行か・・・いで・・・
あれ?いつもの夢?
気を失ったりしたのかもしれない。もしかしたら暴走バイクが森林公園を突っ切っていてそれに巻き込まれたとか・・・
不思議に思うことは沢山あるけれど、この夢を見るとつい癖で手を伸ばしてしまう。
きっといつもと同じようにまた触れられないのだろうけれど、そう思っていた。
なのに、今回は違った。
指先から広がる血の気の失せた冷たい手の感触。私の手を確認するように優しく撫でて、その手は遠慮がちに握ってくる。
初めての邂逅に言い様の無い感情が込み上げてくる。
今なら私の声も届くだろうかと口を開いた。
『もう泣かなくていいよ、傍にいるよ。』
ずっと言いたかった一言、今まで一度も通じた事は無いけれど今回はなんとなく、そうなんとなく伝わるのではないかと、本当に直感のようなものだけれど。
ふと、声の主がふわりと微笑んだような気がした・・・
泣き声は、もう聞こえない・・・――――――
そしてここでもう一度私の意識はブラクアウトした。
「・・・ん・・・うん?」
次に目を開いた時、傍に居た窪塚くんは居らずただ一人。その手に竹刀袋と学校鞄を持っただけの私は鬱葱とした大自然の中に佇んで居た。
あれ?森の規模が大きくありませんか?ここ、どこ・・・・・・?
見上げてみても何処を見ても木 木 木ばかり。僅かな枝木の隙間から差し込む光で何とか周囲を見渡せはするけれど、本当にここは何処なのだろう。
そもそも気を失って居る間に何があったのか、気を失っていたはずなのに何故私は棒立ちのまま目覚めたのか、うん全く分からない。
そもそもなんで私の髪の毛はこんなに伸びているんですか。
呪いの市松人形じゃああるまいし、気が付いたらベリーショートから急に肩を越えるほど伸びるなんてどんな超常現象ですか。
普段は面を被るため、髪を纏めるのが面倒なので常に髪は短めにしていた。
こんなに長い髪は何年ぶりだろう・・・感傷に浸っている場合ではないのだけれどちょっとくらいは現実逃避をしてもいいと思う。させてください。
「うん、よし風雨を凌げる場所を探そう。」
近くで水の音がするので小川があったり滝もあるのだと思う。
何であるのかはもうこの際、気にしないことにした。気にするものか。
木々が光を遮らない小川のほとり。そこでは水面がキラキラと光を反射して輝き、時折川魚らしきものが、その綺麗な鱗を光らせながら飛び跳ねる。
とりあえず先ほどまで夜だったのに今が昼間だということも気にしない事にした。
さて水があるわけだが飲める水だろうか?生水は下手をすればお腹を壊す可能性もあるし、最悪未知の病原体に感染する事も考えられる・・・が、何故かこれは大丈夫そうだと勘が告げる。多分大丈夫、たぶん。
水分補給も終わり、僅かな空腹を感じる。
ここの川魚は美味しいのかなぁ?いざ実食!
近くに落ちていた小枝を拝借し、靴とソックスを脱ぎ捨てて浅瀬に入る。
冷たくて気持ちいい水の感覚を一通り堪能すると、片手に小枝を持って体から余計な力を抜く。
距離を取っていた魚たちが私を単なる岩などと同じ障害物と認識したのか、なんとか手の届く場所まで戻ってきた。
ゆらゆらと煌く魚影を見定め、無駄な動きを出来るだけ排除して私は小枝を振るった。
「そこっ!」
しなる小枝の先端に、確かな感触。振り抜いた切っ先にはまだ元気に水滴を散らす魚の姿がある。
うん、まさかこんな所で二年前の強化合宿の際に遭難した経験が役に立つとは思わなかった。一緒に遭難した当時三年生の先輩、有難うございます。おかげさまで美味しそうなご飯にありつけました。
更にその後、もう一匹を仕留めてからナイフ代わりになりそうな尖った石で魚の処理をする。味付けは出来ないけれどそこは我慢我慢。
大きめの石を組んで小枝を集めて魚を焼く準備も整った。あとは火・・・だけどどうしよう?ここは意地と根性で古代の方の英知を拝借して頑張るしかない。
美味しいご飯にありつくために!
苦戦する事1時間。木と木の摩擦で起こった火種をノートの切れ端に移すことに成功する。そこからはノートを破いたものを小枝の上に乗せて、火種を移す。
「や、やっと点いた・・・」
出来上がった焚き火の周りに小枝に串刺した魚をセッティングして準備完了。後は火を消さないように小枝を追加しながら暫し待つ。
うーん、我ながら大した順応性。それでもあのサバイバル経験が無ければ今頃途方に暮れてお腹を空かせていた事だろう。
もう一度偉大なる先輩にお礼をしながら、焼きあがった川魚を美味しくいただいた。
さてお腹も膨れたことだしもう一度現状を思い出そう。
まず私はつい数時間前まで地元の小さな森林公園にいた。なのに、今は広大な森に居る。
まさか窪塚くんのお目付け役さんに気絶させられて、口封じの為に山奥に捨てられたなんて事は・・・うん、無い。それは無い。
それでは私が棒立ちで目覚めた事、突然髪が伸びた事の説明がつかない。
気を失っていた間の時間経過で昼間になっているというのはありえない事ではないので思考から除外して、問題はその二点。
「日本じゃなかったりしてー」
まさかねー、と空笑いしながらも二匹目も美味しく頂戴した。
とっても美味しかったです、マル。
食べ終えた魚の骨は埋めても野犬などがいる場合、掘り起こされて意味が無いので川に還すことにした。
「命をありがとう、ごちそうさまでした。」
手を合わせ、暫し黙祷。後はまたソックスと靴を履いて、焚き火に土を被せてからその場を後にする。
水場の確認はできた、あとは風雨を凌げる小屋か洞窟があるか散策する。サバイバルで大事なものは水の確保と安全の確保、これが先輩の最大の教えである。
何だかんだ言って、私は徐々にこの状況を楽しもうとしていた。
現在のスキル:サバイバル能力
やっと容姿の一端が出ました。髪の長さだけ。