詳細鑑定しかできない勇者、魔王を戦わずして討伐する(魔法使いシグレ視点)
この物語は、短編「詳細鑑定しか使えない勇者、戦わずして魔王を討伐する」に出てきた魔法使いシグレ視点のお話です。
冒険者ギルドの片隅で、私は安酒を煽っていた。
三十路を過ぎた魔法使い。専門は「精神魔法」。
世間は無知だ。精神魔法がどれほど強大かを知らず、成功率の低さと燃費の悪さだけを見て、私を「役立たず」と切り捨てる。
(……フン、理解されぬ天才とは孤独なものだ。この乾いた魂を癒してくれるのは、酒と、そして……「適度な肉体的苦痛」だけだよ)
私は、秘かに締めた「ふんどし」の心地よい圧迫感に身を委ね、目を閉じた。
その時だった。
「……なるほど。君、最高に面白い仕様をしてるね」
目を開けると、そこには得体の知れない光を宿した瞳で私を見つめる少年勇者、サトウ様が立っていた。
彼は私の「精神」ではなく、私の「仕様」そのものを愛でるように笑った。
「君のMP、僕なら無限に供給してあげられるよ。――少し『痛い』思いをしてもらうけど、いいかな?」
その瞬間、私は直感した。この少年は、私の魂の理解者だと。
◇◇◇
サトウ様の采配は、まさに「神の遊戯」であった。
私は、戦士ミザルーナ殿の拳を受ける。
彼女の筋力は凄まじい。本来ならば、私の貧弱な肉体など一撃で四散するだろう。
しかし! 彼女の装備している「呪いのビキニアーマー」が、その破壊的な威力を「至高の刺激(ダメージ1)」へと変換する!
「あ……あぁっ! 素晴らしい、ミザルーナ殿! もっとだ、もっと私を打つがいい!」
殴られるたびに、私の魔力炉が熱く、激しく、再充填されていく!
ダメージを受けるほどMPが回復する。この「仕様」をこれほど美しく運用する者が、かつていただろうか。
溢れ出す魔力を使い、サトウ様の指示通り、神官リーネ殿に「狂化」をかける。
抵抗されるなら、成功するまで一秒間に十回叩き込む。燃費など気にしなくていい、私にはミザルーナ殿の拳があるのだから。
狂気に歪んだリーネ殿が、モンスターを片っ端から肉片へと変えていく。
その阿鼻叫喚の図図の中に、サトウ様はただ一人、涼しい顔で立っていた。
「シグレ、MPが余ってるね。ついでにミザルーナさんの羞恥心を認識阻害で消しておいて」
効率。徹底した効率。
このパーティにおいて、我々の感情や尊厳など、勝利という名の完成図を描くための「リソース」に過ぎないのだ。……ゾクゾクする。
◇◇◇
極致は魔王城であった。
サトウ様は、あろうことか魔王城の「正門」を、ミザルーナ殿の装備スロットにねじ込んだ。
物理的には不可能なはずだ。しかし、サトウ様の「詳細鑑定」が世界の使用を見抜き、私の「認識阻害」がミザルーナ殿の常識を書き換えることで、それは「事実」となった。
門を背負い、涙を流しながら歩くミザルーナ殿。
意識を飛ばし、返り血で真っ赤に染まったリーネ殿。
そして、殴られすぎて法悦の表情を浮かべる私。
我ら「地獄の軍勢」を前に、あの魔王ですら戦慄していた。
いや、あれは戦慄ではない。
「戦わずして勝つ」
サトウ様が魔王を異空間へと追い込んだ時、私は確かに見た。
魔王の瞳に浮かんだのは、強者としてのプライドではなく、**「こいつらとは関わりたくない」**という切実な拒絶だった。
◇◇◇
王城での謁見。
称賛の拍手の中、サトウ様は淡々としていた。
英雄譚? 友情? 絆?
そんなものは、この効率的な虐殺の旅には一片も存在しなかった。
あったのは、システムへのハッキングと、適切なリソース管理だけだ。
「サトウ様って……意外と、怖い人なんですね」
王女が震えながら言った。
ククク、分かっていないな。
このお方は、怖いのではない。「正しい」のだ。
私はそっと、ふんどしを締め直した。
サトウ様は次は何をしでかしてくれるのだろうか。
きっとそこでも、私はミザルーナ殿に殴られ、MPを供給し、魔法を使い続けるのだろう。
そこには、サトウ様のお気に入りのリーネ嬢も一緒にいるに違いない。
「……楽しみだ。次はどんな痛み……いや、『役割』を与えてくださるのか」
私はサトウ様の背中を、熱い視線で見つめ続けた。




