身分違いの恋を成就させるには
「では行って参ります。――アルンお嬢様、そんなに泣かないでください。これから歴史に名が残るような武勲を立ててきますから。楽しみに笑って待っていてください」
「グスッ……で、でも武勲を立てても死んだら意味ないからね!絶対、絶対死なないでよね!ハイルが死んだら……我が家の庭の手入れは誰がするのよ!」
「ふふっ、そうですね。では、絶対に生きて帰ってこなければなりませんね」
ハイルは少し笑いながらそう言って、涙でぐちょぐちょな私の頬に優しく触れた。
彼の手はとても暖かくて、触れられるとなんだかポワポワする。でも涙はあふれてきて、うまくさよならが言えない自分に、言いたいことが言えない自分に腹が立ってくる。
「では時間ですので行って参ります。アルン様、お体にお気をつけてくださいね」
ハイルはそう言うと私に背を向け、ゆっくりと門をくぐっていった。
これから戦場に赴く彼は、もう二度と我が男爵家の庭師として帰ってこないかもしれない。これが最後の別れになるかもしれない。思いを伝える機会はもう二度とないかもしれない。
……でもだからこそ、今思いを伝えるなんて無責任なことはできない。
私はハイルの背中を、黙って見つめることしか出来なかった。
*****
国歴287年、我がアレルンド王国と西のガレリア帝国の国境で兵が衝突した。と言っても、国境争いは良くある事だし、国境付近には陥落不能の要塞都市ドルトンがあるし、国境付近の兵は厳しい訓練を乗り越えてきた精鋭ばかりだしで、特に心配するようなことはなかった。
――ないはずだった。
開戦から数週間が経ったある日、王都に耳を疑うような報告が飛び込んできた。要塞都市ドルトンが陥落した、と。突然要塞都市内部にガレリア軍が現れ、そのまま占拠されてしまった、と。
そこから王都は恐怖と混乱の渦に包まれることになる。あのドルトンが数週間にして陥落したのだ。今すぐにここまでガレリアの奴らがやってくるのではないか、と。もうすぐこの国はガレリアの領土になってしまうのではないか、と。
そんな不安の連鎖をかき消すため国王は声明文を出した。曰く「ドルトンを取り戻すのに貢献した者にはそれ相応の報酬を約束する。そして、最も活躍した者には爵位を授与しよう」と。
基本的に世襲制が全ての我が国では、平民が貴族になる手段がほとんどない。まれに正妻に子供ができず、平民の妾の子供が爵位を受け継ぐなんてこともなくはないが、狙って爵位を受け継ぐことは不可能と言っていい。
しかし今回は違う。功績を挙げさえすれば、貴族になれるのだ。おそらく一代限りの領地のない子爵だろうが、それでも貴族は貴族だ。その誘惑は我が国の平民を震撼させ、戦場へと駆り出たせた。
そして、我が愛しのハイルも、爵位の魅力にとらわれた一人だった。
……まあどんなに贔屓目で見ても、ハイルが今回の戦争で功労者となることはないだろう。彼は賢いが体の方は普通以下だ。……いや、貧弱と言ってもいい。ハイルが敵将の首を討ち取っている所など、想像すら出来ない。せいぜい落とし穴をつくって、イノシシを討ち取るので精一杯だろう。
我が国は未だにドルトン要塞都市を取り戻すことは出来ていない。帝国軍が強いのはもちろんだが、それ以上に要塞都市が硬すぎる。堅牢な城壁に加え、魔法を打ち消すアンチマジックシールド、周辺に施された罠の数々に王国軍はなすすべがなかった。
正攻法は諦めて兵糧作戦も実施された。ドルトンは国境よりも少し我々の領地に入っている場所にあるので、包囲するのは簡単だし、ガレリア帝国からの補給を断つのも造作もない事だ。
が、奴らの食料がつきる気配はない。王都の一部では、奴らは魔族と契約しているのではと、まことしやかに噂されている。
何度か奇襲作戦も決行されたが、帝国軍の監視の目は鋭く、基本的に奇襲は通用しなかった。内通者がいるのかと思うほど、全く我が国の作戦は通用しなかった。
この前もハイルの所属している部隊も含めた大規模な奇襲作戦が決行されたが、見事惨敗に終わってしまった。ハイルは何とか助かったらしいが、私はその当時心配で全く寝ることが出来なかった。
そしてハイルが戦場に繰り出てから三年が過ぎた。
*****
「ロベルト伯爵から結婚の申し出があった。今まではお前の気持ちを汲んで、なんとかはぐらかしてきていたが、もう限界だ。すまない。諦めて嫁ぎに行ってくれ」
「承知いたしました。頭をお上げください父上。これが貴族の当たり前なのですから。私はなんともありませんよ」
申し訳なさそうにそう言う父に、私は無理矢理笑顔を作る。
貴族の娘として産まれたからには、望んだ結婚が出来る方が希で、むしろこれが普通なのだ。
私は自分にそう言い聞かせるより他なかった。
ロベルト伯爵は三十後半の男性で、社交界で何度かお会いしたことがあるが、お世辞でも素晴らしい人間とは言えない。貴族界では、階級が下の令嬢に絡んでは逆ギレを繰り返すという、意思を持った爆弾として知られている。表面が脂ぎっているのですぐに火が付いてしまうのだとか。うまいことを言う人もいるものだ。
最近は「俺ならドルトンを一日で奪還できるね」がお気に入りのフレーズらしい。私も何度か社交界でその話題を振られたことがある。なんでも昔ドルトンの領主をしていたとか何とかで、戦争の話題となるとどこからともなく現れ、自慢話を永遠としている。
……まあ他の人の噂によると、実際ドルトンの領主をしていた時期はあるのだが、民をおろそかにしすぎて反乱が起き、命からがら逃げ出してきたのだとかなんとか。
なんともまあ救いがたい人間だ。
婚約の話を承諾すると、待ってましたとばかりに結婚式の準備がすさまじいスピードで進められた。ハイルに結婚すると手紙を送ったが、忙しいのか返事は帰ってこなかった。
*****
「壮観だろう。言わなくても知ってると思うが、これは初代のグリード・アンドリュー。これは剣王として有名な私の祖父ロベルト・アンドリュー、私はおじいさまと全く同じ名前だがこれには意味があってだな……」
横に座っているロベルト伯爵が、壁にかかっている肖像画を指さしながら誇らしげにしゃべっている。
今日は結婚式。ロベルト伯爵家の大広間で開かれた会場には多くの貴族が訪れていた。
挙式の主役の私とロベルト伯爵は、会場に備え付けられた壇上の上で二人椅子に座ってさらし者にされている。……いや、さらし者にされていると感じているのは私だけかもしれない。隣のロベルト伯爵はとても楽しそうに肖像画としゃべっているのだから。
「それでは皆さんお待ちかね!二人の婚約を祝って、夫婦石授与のお時間です!」
進行役が大きく声を張り上げ、その声につられてご飯を食べていた来賓が壇上の方へ向く。
夫婦石の授与は我が国特有の結婚式のメインイベントだ。
夫婦石という二つ一組の石は不思議な能力を持っている。一つの石が少しでも傷ついたりかけたりすると、全く同じようにもう一つの石も傷ついたりかけたりするのだ。
我が国では、それを結婚式で教会から受け取ることによって、正式に夫婦となる事が神に認められるのだ。
司会の合図で私とロベルト伯爵は立ち上がり、司祭を出迎える。司祭は手にネックレスを二つ持っており、それぞれに全く同じ形をした翡翠色の石がつけられている。
ロベルト伯爵は恭しく司祭に向けて頭を傾けると、司祭はゆっくりとネックレスをかけた。
途端に会場にわれんばかりの拍手が響く。
ひとしきり拍手が終わると、今度は司祭が私の方にゆっくりと近づいてくる。私は予行演習通りゆっくりと頭を下げる。
司祭の手によりゆっくりとネックレスが近づき、スルッと首にかけられる。途端またしても拍手が響く。
そうか。私結婚してしまったんだ。
私がハイルと結ばれることはもうないんだ。
私は傷一つない夫婦石を手で優しく触る。私の気分に反して、夫婦石は会場の明かりを反射してキラッと輝いていた。
そのまま結婚式は滞りなく終わった。私の美しい恋の時間はそうして幕を閉じた。
*****
「さて結婚したわけだが、やることは分かるだろう?」
ロベルト伯爵は部屋のベッドに座りながらそう言った。
結婚式後の夜。寝室にいると言うことはつまりそういうことだ。
「黙ってないでこっちに来んか!」
「キャッ!!」
唐突にロベルト伯爵に腕をつかまれベッドに投げ倒される。目の前にロベルト伯爵が迫る。伯爵の首元の夫婦石が私の目の前にプランと垂れ下がり、細かい傷が見えるぐらい近づく。怖い。――でももう後戻りはできない。
ハイル。ハイル。ハイル……
「敵襲だー!」
遠くの方から声が聞こえる。
一瞬だったので勘違いかもしれないが、その声はどこか懐かしさを感じさせるものだった。
「何だ?まさかグリー王国か?それともレンブ公国か?」
ロベルトは私の腕を放すと、「ここで待ってろ」と言い残し、ガチャリという音と共に部屋から出て行った。
助かった……いや、助かってはいない。どうせここからは出られないのだ。もう結婚してしまったのだ。
でももしかしたら、このままロベルト伯爵が討ち死にしたら私も助かるのかな……なんて。ガレリア帝国の兵士に感謝しないといけないなんて不思議な気分だけど。
なんせハイルと離れることになった理由もガレリア帝国なのだから。
……待って。さっきロベルト伯爵はなんて言った?グリー王国?レンブ公国?確かにどちらも隣国ではあるが、今戦争しているのはガレリア帝国だ。しかもここは戦場から距離がとても離れているわけではない。ガレリアの兵が来ても何らおかしくはないはずだ。
それなのに、まるでガレリア帝国は初めから頭にないみたいに。いつもはあんなに話題に出してるくせに。
私は考えながら無意識に首元の夫婦石を触る。傷一つない夫婦石は周囲の……ってあれ?私の夫婦石、傷なんて一個もついてないじゃない。でもさっきロベルト伯爵の夫婦石には確かに細かい傷が……
何かがおかしい。何と明言することは出来ないけど、違和感が強烈に全身を駆け巡って気持ちが悪い。
ガチャリ
「猫を敵襲と勘違いするなどたるんどる。使えん庭師だ」
ロベルト伯爵が、そうブツブツ文句を言いながら部屋に帰ってきた。
「さて、余興の続きといこうじゃないか」
「そ、その前に一つ良いですか?」
「何だ?」
「ネックレスを外していただきたいのです。その、髪などに絡まったら怖いので」
私が即興で思いついた言い訳を口にすると、ロベルト伯爵は「なんだそんなことか」と言って夫婦石を机にコトンと置いた。
「さて続きと」
「すみません。もう一つ良いですか?」
「なんだ?まだあるのか?」
ロベルト伯爵は少しむっとしたような表情でそういう。
「服を脱ぐところを見られるのは恥ずかしいので、少しの間、ベッドに座って目を瞑って窓側を向いていて欲しいのです」
「今からお互い裸になると言うのにか?」
「女とはよく分からないものなのです」
私がそういうとロベルト伯爵は「まあいい」といってベッドに座り窓側の方を向く。彼が後ろをしっかり向いたのを確認した後、私は机に置かれた夫婦石をじっくりと眺める。
ロベルト伯爵が机に置いた夫婦石には細かい傷がいくつも付いていた。
しかもそれは見方によっては文字に見える、そんな傷だった。
私は咄嗟に机のネックレスをひっつかみ、部屋を飛び出した。
「おい!まて!誰かあいつを止めろ!」
後ろからそんな声が聞こえてくるが、私は構わず全力で走る。廊下を走り、階段を駆け下りる。
もしかしたら、私の考えていることは全くもって的外れなのかもしれない。でもだからといって目の前の違和感を無視するわけにはいかない。
私は後ろをちらりと見る。後ろにロベルト伯爵の姿は見えない。お腹に付いた贅肉のせいだろうか。
このまま行けば逃げられるかもしれない。
「キャァ!」
考えながら走っていると目の前に人が居るのに気がつけず、そのままぶつかってしまった。
ぶつかってしまった相手は「いてて」とその場で倒れている。
「すみません!大丈夫です……か……」
その倒した相手は、今戦場にいるはずのハイルだった。
ハイルはゆっくりと体を起こしている。
「ハイル!どうしてこんなとこに居るの!」
「いてて。久しぶりですねアルンお嬢様。説明すると長い時間がかかってしまうので、また今度にしましょうか?どうもお急ぎの様子ですし」
「と、とりあえず一緒に逃げましょう!ハイルがどこまで知ってるか分からないけど……私結婚したの。で、でもロベルト伯爵が持ってる夫婦石が私のと違ってて、文字みたいな傷があって、その、突拍子もない話なんだけど」
私は乱れる呼吸を整え、こう続けた。
「ロベルト伯爵が今回の戦争の内通者じゃないかって気がしてならないの!」
ハイルは私の突拍子もない話を、黙って耳を傾けて聞き、ゆっくりとかみしめるようにうなずいた。
「なるほど。少し分かってきました。アルンお嬢様ありがとうございます。しかし逃げるのは賛同いたしかねます。もう少しここでゆっくりしていきませんか?」
「で、でも伯爵に追いつかれちゃう!」
「大丈夫ですから」
ハイルはそう言って優しく私の腕を握った。
「待て!その石を渡さんか!」
後ろからした声に振り向くと、ヒーヒー言いながら、伯爵が迫ってくるのが見える。
「ほら来ちゃったじゃない!」
「大丈夫ですから」
「でももうそこまで来てるわよ!」
「大丈夫ですから」
ハイルはそう言って動かない。私の腕をつかんだまま動こうとしない。
「はぁはぁ手間をかけさせやがって!」
「も、もう行くわよ!」
私はハイルの手を振り払ってでも逃げようとする。でもハイルはがっしりと私の腕を握ったまま動かない。
「なんで!どうしてよ!ハイル!離してよ!」
私がそう言うとハイルは小さく首を横に振った。
「はぁ、なんだ、お前達知り合いだったのか?クックック。これは傑作だな!」
「な、何がよ!」
「その男は契約魔法でしばられているんだ。私の言うことを聞くようにな!」
「なっ!」
契約魔法は禁忌の魔法の一つである。
曰く、契約魔法でしばられた者は、契約者の言うことには逆らえないのだとか。
「さあハイルよ。その女を私に渡せ!」
「はい。ロベルト様」
ハイルはそう言って私の腕をつかんだままロベルトの元に動き出す。
「ハイル。どうしちゃったの!ハイル!」
「だから言っただろう?そいつは契約魔法でしばられているんだ」
私は抵抗を試みたが、ハイルの力は予想以上に強かった。
そして私はなすすべなくロベルト伯爵に引き渡された。ロベルト伯爵は乱暴に私の腕を取り、強くねじる。
「痛い!」
私反射的に掌を広げてしまう。掌からはポトリと夫婦石達が落ちていった。
「ふはははは!私の勝ちのようだな!」
ロベルト伯爵が大きな笑い声を上げる。
「にしてもこんな小娘がどうやって私の裏切りを知ったのか……」
ロベルト伯爵がぽつりとそう言う。
「やっぱりあなた、内通者だったのね!どおりで襲撃されたと気づいた時の反応がおかしいと思ったわ!それに、夫婦石を使って帝国と通信しているわね?」
「ほぉ。まさかそれに気づく者がいるとは」
「わ、私を捕まえたって無駄よ!こんな私でも気づいたんだから!賢い人たちにすぐにばれちゃうんだから!」
「ばれるわけがないだろ!毎回使った後は粉々に砕いている。魔力妨害の影響もうけない。それに結婚していたら持っていても怪しまれることがない。帝国側からこれを通信に使うと言われたときには驚いたが、実に合理的じゃないか。こんなにも誰も気づきやしないなんてな!」
「でも私が言うわ!私が長いこと社交界に出なかったらさすがに皆疑問を抱くでしょうし、私があんたのしたこと全部暴いてやるわよ!」
「ふん。その前にこの男と同じ契約魔法の書類に名前を書かせてやる。書かなかったらそうだな、――この男を殺そうか」
「こ、このろくでなし!」
「国を裏切ってるやつにろくでなしとは笑わせる。おい、こいつをいったん牢にぶち込んどけ」
「分かりました」
ハイルはそう言って、懐から何かを取り出そうとする。
「ハイル止めて!ハイル!あいつの言うことを聞いちゃダメよ!」
「ハッハッハッ!その男は私の言いなりだ!しっかり契約書に私の血を垂らしたんだ。こいつは私の所有物なんだよ!」
ハイルは黙ったまま懐から太い棒のような物を取り出した。
「おい、なんだそれは?」
ハイルはロベルト伯爵を一瞥した後、私を見てにこりと笑って、それを天に突き出した。
キーーーーーン
甲高い大きな音が辺りに響き渡る。あまりの音の大きさに私は思わず身をすくめた。
その間にハイルは素早くロベルト伯爵に組み付き、私を握っている伯爵の腕をねじ上げ、地面にたたきつけた。
耳がキーンと鳴っている。
唐突過ぎて、何が何だかよく分からない。
「な、何をするんだ!手を離せ!俺の言葉が聞こえねえのか!」
「離すわけないだろ。国家反逆罪の容疑でロベルト・アンドリューの身柄の確保する!お前の自供はバッチリ録音済みだ!」
ハイルがそう叫ぶ。
それから程なくしてたくさんの兵士がこちらに到着した。どうやら先ほどの大きな音は、ハイルの仲間を呼ぶための物だったらしい。
こうして、ロベルト伯爵はどこかに連行されていった。
*****
「先のドルトン奪還にて、多大な貢献したことを称し、ここに居る庭師のハイルに叙爵することを宣言する!これからはハイル改めハイル・ファブリス子爵とする!」
立派な王宮の大広間で、ハイルは爵位を授与された。
あれからハイルはロベルト伯爵の夫婦石を調べ、通信をどのように行っていたか解読し、石を使って帝国に偽の情報を流した。
情報が偽物だと知らない帝国は、要塞都市の機能を自ら弱体化させ、罠とも知らず多くの兵士を外に出してしまった。そして都市の守りが手薄となったタイミングで総攻撃を仕掛け、ドルトン要塞都市はあっけなく奪還に成功した。
「どうやったのよ?」
式典終わり、私はハイルとゆっくり王宮の庭園を歩きながらそう聞いた。
「?あぁ、もしかして帝国が、始めどうやって都市を奪ったかという話ですか?どうもロベルト伯爵がドルトンの領主をしていた際、秘密の通路を作ってたらしく、その通路を使って内部から攻め落とされたみたいですよ」
ハイルは「まあロベルト伯爵が秘密の通路を作った理由が、民の反乱から逃げるためらしいのですけど」と笑いながらそう言った。
「そうじゃなくて、ハイルがどうしてあの場所にいて、どうやって魔法に打ち勝ったのかって聞いてるの」
「あぁなるほど。まずあの場所にいた理由は簡単です。あまりにも奇襲攻撃が鮮やかに躱されるので、内通者が居るんじゃないかと疑いまして、怪しい家の者に別々の奇襲情報を流したのです」
「なるほど。もしかして、それでロベルト伯爵家に流した情報だけが……?」
「その通りです。それでロベルト伯爵を怪しく思い、軍部の協力を得て潜入することにしたのです」
ハイルはにっこりと笑ってそう言った。
「契約魔法はどうやったの?」
「あれはロベルト伯爵の祖父、剣王ロベルト・アンドリューさんの血を使わせてもらいました」
「ロベルト・アンドリューって名前が一緒じゃない!」
「そうです。契約魔法は名前と血が一致していれば結ばれる物なので、伯爵の血をつけられる前に軍部で保管してあった剣王の血を紙につけました。たまたま名前が一緒の方がいらっしゃって助かりました」
ハイルはそう言って私をジッと見つめる。
「さて、アルンお嬢様、実は私の本番はこれからなのです」
「それってどういう?」
「アルンお嬢様。私が今回この戦争に貢献するために死力を尽くした理由、おわかりですか?」
「……爵位を得るためよね?」
「その通りですが、それは最終ゴールではないのです」
ハイルはそう言うと急にその場に片膝をついた。
「アルンお嬢様。幼少期よりお慕いしておりました。もしよろしければ私と結婚を前提にお付き合いいただけませんか?」
ハイルがそう言って私に手を差し出してくる
何故だろう。ハイルの輪郭が、風景が、どんどんぼやけてくる。
幸せが心の底からあふれてあふれて止まらない。
「私もお慕いしておりました。よろしくお願いいたします」
私はハイルの手をしっかりと握った。
最後まで読んでいただきありがとうございます!少しでも面白いと思ってくださったら、ブックマークと下の☆で評価をしてくださると嬉しいです!
応援宜しくお願いいたします!




