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緑色 2-2

「パス・ディークと言います! 僕! 昔黄色のリーデルさんに助けられたことがありまして! 以来リーデルの皆さんが大好きなんです!」


「黄色か」


 パスが興奮にわきわきと腕を振り回すのを薪の山に腰掛けて見上げながら、イーセルが自分の顎に触れる。二人に連れて来られたのは、木こりの小屋だった。使い勝手がいいのか、建物周辺や外の台所なんかはモノクロのままで置かれている。今では誰も来なくなったのがこの一画にいくつかあるらしい。


「十二年前の事件は、俺も知っている。じゃあ君が巻き込まれた五歳の」


「はい」パスは、間髪入れずに両腕を掲げるように広げた。「でも最近再会してっ! 兄が家に保護してくれたんです。今はおうちにおられます」


「ほう」


 イーセルの隣でずっと黙り込んでいた緑色までもが、ぴくんと顔を上げて反応する。その緑色の瞳に影を落とす枯草を編んだ硬い帽子と、同じ素材のサンダル、ありふれたシャツの上に着込んだ『着物』は見慣れないものでありながら、同時に先進的でおしゃれな装いに見えた。


「そのリーデルさえよければ、ぜひ俺にも会わせてくれないか。ビアー……」彼はビアーと言うんだが、と開き直ったイーセルが紹介を挟んで、緑色が舌打ちする。「こいつのところへは半月ごとに顔を出すから、君もまたおいで」


「お前ん家でやれよ」


「残念なことに、こっちの方がみんな安全なんだなぁ」


 〝よ〟だか〝や〟だかわからない濁った発音で、ビアーが口を大きく開いて威嚇するように言うのを間延びした声でかわして、イーセルがぽかんとしているパスのために加えて説明した。


「君はここを通り道に使っただけだと言えるし、リーデルの縄張りにリーデルが出入りしててもなんらおかしくない。ちょっと捜索隊の数が増えてこいつに迷惑がかかるだけさ」


「俺に迷惑かけんな」


「俺は捨てられていた空き家に住んでるんだ。そこで幼いうちにリーデルになって、親元から離れた子どもたちを保護している。託児院みたいなものだ」イーセルが構わずにパスに向かって話し続ける。「人数も多いし、ほとんどが幼すぎてとっさには逃げられない。悪いが周辺の住民に空き家のことを思い出されたくもないんでな、人を出入りさせるのは避けさせてくれ」


 リーデルの子どもたちというパスを釣る餌のようなワードに唇をむずむずさせながら、でも詳細を聞いたら余計会いたくなるのは目に見えているので、パスはサムズアップして黙り込んだ。イーセルが足を組んだ膝の上に頬杖を突いてにっこりと笑う。


「だが、君とはぜひ仲良くしたいなぁ、パス。君の存在はリーデルの救いだ。やっぱりモノクロームは教育によってリーデルを汚らわしく思い、奴隷にしているんだ。その刷り込みさえなければ、リーデルはただの人間と変わりなく認識されると君が証明してくれた……」


 きらきらと目を輝かせて語り始めるイーセルに、ビアーがげぇっと大げさなリアクションをした。薪の山から数本薪を取り上げると、パスにひょいと渡す。


「あ、ええっと?」


「長くなるから座っとけ」


「刷り込みがされる前の子どもたちに接触するのはやはりうまく行くんだ! 時間はかかるかもしれないが、しかしパスのような子が大きくなったとき、きっとリーデルの無害性を裏付けしてくれる! そうすれば平和的にリーデルの解放が認められるはずだ」


 ビアーが薪の上で長い手足を投げ出して昼寝の準備をし始めるのを見て、パスは渡された薪を尻の下に引いて座った。


「肌の色の違いで迫害された人々が解放されたなら、髪や目の色が違うだけのリーデルもきっと解放される。それに、アデイラとその周辺の地域以外じゃあリーデルの数が違って、変わった病気として受け入れられている事例もあったらしいじゃないか。知っていたか? ……その人はアデイラ人に見つかって普通の生活から追われるようになったらしいが……しかし、やはりこの地域の特殊な文化さえ変えられればリーデルの勝機はある」


「よォ、旦那」ビアーが寝転がったまま冗談っぽく笠を持ち上げた。「そんなにアデイラにこだわるより安全な海外に逃げちまったらいいんじゃねぇの」


「それじゃ根本的なリーデルの地位向上には繋がらないだろう」イーセルが楽しそうに反論する。「たとえ海外で安全が得られたとして、俺やその周囲だけが差別から逃げても、ほかのリーデルはどうなる。俺が望んでいるのはリーデルが迫害されず、自由に筆やインクを使えるような世界だ。どこでも、誰でもな」


 よどみなく展開される理想論に、ビアーが笠の陰の下からパスに『この通り』みたいに視線を送って、肩を竦めた。


「見つけたリーデルは海外に送ってお前はここで活動家をするのが最善か?」


「手段を考えると現実的じゃないが、俺に金と協力者があればそれもありかもしれないな」


「金と協力者」


 ビアーがパスを唐突に指差して、男の子は思わず姿勢を正してその発言の意味を考えた。イーセルがちらりと唇を舐めて、即座に次なる議題に関して語り始めようとする。


「うるせぇうるせぇ、喋んな。俺に話しかけるんじゃねぇ」


「えぇーっ」


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