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青色 7-9

「馬車の中のほうがいくらか静かだ」


 多少バカにする声音を含んで言うのに、子どもたちが『引っ越ししたばかりだもん』とむっとした顔をする。パスが大人にはとても都合の悪い勇気を出してしまったがために、子どもたちが真似をする可能性があって、イーセルは早く出て行ってくれと必死にシアに目で訴えた。ここで、双剣を手に持って『動くな』なんてしでかしてしまったら即座に鉛玉が飛んでくるだろう。


「……殿下」


「ロエノス、と。兄上。呼び捨てにしてください、敬語も必要ありません」


 ずっと言いたかったというように食い気味に言われて、シアは遠慮なく彼を呼び捨てにした。


「君が僕を探していた理由を教えてくれないか? 僕は国王とは関係を切っているはずだが、君は誰から青色のことを聞いたんだ」


「母上が、僕の誕生日に兄上のことを話してくださいました。それで、王家の血を引く者ならばたとえ正式な生まれでなくとも保護するべきだと、僕は父上を説得したのです」満足げに言い、シアを見つめる。「許可が下りましたので、新聞社に捜索願を出すよう言いまして、今にいたります」


「じゃあ、僕はこれからどういう立場になるのかな」


「僕が父にかけあってきちんと家族として迎える予定ですよ。あとは基本的権利や財産の復帰……安全のためにも、爵位は用意しようかと」


「ほほう」


 ロエノスがかなり使えることを知って愛想のいい笑みを浮かべるシアに、ハインが精いっぱい牽制しようと睨みつける。王子の後ろで、彼の従者だろう男がちらりと懐中時計を見て、「殿下」とロエノスに笑いかけた。


「そろそろここを出ないと、次のご予定に遅れてしまいます」


「……もうそんな時間なのか?」


 ロエノスがつまらなさそうに言うが、その従者は穏やかに繰り返し促した。ロエノスがシアに声をかけ、廊下のほうへ歩き出す。その瞬間、青い目が不意にもう一人の兄弟へ移動して、体の後ろに隠した手に一瞬だけ剣を掴んだ。白い指の間を青色の光がくぐり抜けて消える。

 王宮の人間には見えないその一瞬の仕草は、彼らには見せない意図があるのだと、それだけを示していた。見事なあやし方をされてもう子ども扱いに怒るのも面倒になり、パスは脱力して大人しく床に伏せる。


 パスが抵抗しなくなったのを感じて、イーセルは男の子を離した。そのあと立ち上がり、ためらうような足取りで歩き出す。


「……シア!」


 呼び止めると、余計に五、六人振り向いた。焦ったような表情のシアが慌てて数歩戻ってきて、偶然、大広間からも、王宮の人間からも、キッチンから覗く惨状からも多少距離を得る。


「……本当に大丈夫か」


 腕を引っ張り寄せられたかと思うとそんなことを囁かれるのに、シアは思わず小さく吹き出した。生真面目な決意に燃える目を間近で見返す。ただ一人の相棒が絶望の中にいたときそばにいてやれなかった、その後悔を繰り返さないという決意に。


「誰が大丈夫かだって?」


「手紙だけでもやり取りさせてくれないか。お前だけに全て負担がかかるのは心配だ」


「その便箋を用意するのも僕なんだろうが」


 シアが意地悪に言い返すと、イーセルは本当になにも言えない様子で口をもごもごさせた。思わず声を立てて笑いながら、シアは相手の腕を掴み返した。ぐっとさらに強く掴み返される。


「俺がどれだけ無力だろうがいい、十八年前のままにはしない」


「わかってるよ」


「お前は一人じゃない」


「現代社会でそうなるのは難しい話だな」


「シア」


 軽口に耐えかねてイーセルが言うのに、彼は少年のように屈託のない笑顔を浮かべた。こんなやり取りを真面目にやるほうが耐えられないだろうがとか、そういうのは省略して、「お前は変わらないな」と別れの挨拶代わりに返す。二人はどちらからなく手を離して、それぞれの方向を振り向いた。


「すみません、行きましょう」


 シアがロエノスのほうへ急ぐ。イーセルはおずおずと近づいてくるミオルに、ゆっくりと微笑んで頭を撫でた。シアがリーデルを守るために変わるなら、イーセルがすべきことは、変わらずに居場所を守り続けることだ。


「おはよう、よく眠れたか?」


     *








「今日のお星さまの位置は面白いわ」


 少女の柔らかくのびやかな声が響く。その部屋はほとんどのものが純白で揃えられていて、窓際にいる少女の白い肌、髪、そのドレスまでが光の中に溶け消えるように見えた。


「昨日は散らばって、今日は集まって……ふふ」


 夢見心地な声が、彼女の透き通るような肌の中で唯一色づいた唇から紡がれる。彼女は窓に頬を押し付けながら、目を閉じていた。時折、見事にカールしたまつげがぴくりぴくりと揺れる。そうすると、透明な、白く輝いて見えるまつげが光を反射して、()()の帯が揺れて見えた。


「ねぇ」少女が部屋の中に呼びかける。「綺麗よ。あなたにも見せたいくらい」


 部屋の扉の隣には、背の高い女が微動だにせず立っていた。軍服のようなつくりの服は少女の部屋と同じように真っ白で、一文字に引き結んだ薄い唇だけが少女と同じように色づいていた。


「お返事してよ」


 少女がふてくされて言うと、彼女はかすかに開いた唇の間から「はい、姫」と空気を押し出すように言った。返事かどうかもわからないような不愛想なそれに、姫と呼ばれた少女は満足げに窓の外を振り返って、また目を閉じた。


「どんなお話をしてるの……わたしのお星さまたち……」


 歌うような声音で言う華奢な背中を女が見つめる。それはまるで、かわいらしいお姫様へ送る視線ではなかった。ざらついた感情の渦巻く、瞳孔の開き切った目で瞬きもせず彼女を見つめ続ける。


 その瞳は影の中にありながら、自ら発光するように輝いていた。


ひのたけです!いつも読んでくださっているみなさま、こんにちは。


『カラーズ・オブ・ワン・パレット 上』はこれで完結となります。完結というのはストーリー上のでっかい区切りであり、話がここで終わりというわけではありません。今後のストーリーの制作がまだまだ進んでおらず、しばらくお待たせいたしますので一旦畳ませていただくことにしたという運びであります。シリーズ設定をしてこいつを『上』としましたので、次は『中』だか『下』だかを冠して同じ名前で投稿いたします。

改稿や挿絵の追加などまだちまちま手は加える予定ですので、次回作投稿のめどがつくまで、そちらを楽しんでいただければと思います!


ではでは、『ワンパレ』は楽しんでいただけましたか?

よければ、感想・評価などなどであなたの存在を教えてくださいまし!

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