青色 7-5
「兄さんはさ」
サミュエルの捜索にイーセルとビアーが飛び出していって(強制的に駆り出されていって)、子どもたちの見守りにエルディアがつくと、パスはやっとシアと話すことができた。
「どうして僕に教えてくれなかったの?」
キッチンで立って話すには疲れていて、だけどほかのみんなの前では男の子のプライドが傷つくから、夕食を食べた窓際で足を投げ出して座っていた。
「僕が青色であることで、お前まで危険にさらすことのないようにしたかったのさ」
「……じゃーどうして今日僕を連れてったの」
俯いて自分の手をいじるパスとは反対に、隣で気ままそうに星空を見上げるシアは笑みを含んだ声で答えた。
「僕はやはり、どこまで行ってもリーデルなんだろう」
目的がなく、意味のない会話だとパスはわかっていた。だけど、自分は話したいことがあるのではなくって、ただ保護者の注目を集めて自分は兄の大切なものだと確かめたいのだと認められなかった。
パスがもう少し成熟した自意識を持っていて、それでもう少し頼りがいがあったなら、彼らリーデルの痛みをひとつでも預けてもらえただろうかと思う。今、誰よりもどうでもいい恐ろしさに駆られてシアの袖を引っ張る以外のなにかができていただろうか。
パスは大人になった気でいた。なにかできる気でいた。
「お前が青色を見てどんなふうに思うのか気になった」
──パスには味方が誰もいなくなったように思えた。それと同時に、幸福で嬉しくてしかたなくなった。美しい色彩がまた一つこの世界に生まれたことを祝いたい気分だった。
僕たちは、とシアは続けて言った。
「僕たちは──きっと、リーデルは──心底『色』というやつを嫌えないのさ。美しいと思っているんだ。諦めることができなかったんだ。パス、つまり僕らは、リーデルをモノクロームに変えるすべを知っているんだよ。ほかのやつらもきっとそのうち気づくだろう。そのうえで、多分僕たちと同じ結論に至るだろう。無知な子どもを親元に帰さないで逃げ惑わせることに僕らは価値を感じてしまう。それはけして、正しいことじゃない」
「……僕はそれをほとんど正しいと思ってた」
パスは自分の膝に頬杖をついて泣きそうなのをこらえた。これだからこの子どもはバカで幼いのだ。
「綺麗だから見ていたいだけだった。兄さんたちが、どんな思いでリーデルでいるかなんて、考えたことなかった。みんな幸せでいてほしいって思うだけ! それを望むことがどういうことかなんて……僕はなにもせずに与えてもらってばっかりだった……!!」
ぐいぐいと中心にパーツを寄せて涙をこらえている顔を覗き込んで、シアはその若さに吹き出しそうになったけれど、頑張っているところの青少年にそんなことをしてはかわいそうだからにこりと微笑むに留めた。足を組みなおしつつ弟の肩を抱きよせて慰める。
「そう泣くな。そもそもお前は僕らのように、賭けに出たり命を懸けたりする必要はまるでないんだから。お前にそんなことをさせたら、ただリスクだけを負わせてしまう。モノクロームの子どもにそんなことさせるほど僕らは堕ちてないよ。それに今回は、ちゃんと勝ち目があった」
パスはしばらく黙ったあと、それはそうかもだけどぉ~、とほとんど泣き声になった声で悔しく言い返した。
「家族の力になりたいよ~……」
と、シアの手がわしゃわしゃ髪をかき混ぜてきて、パスは思わず悲鳴を上げる。
「こないだまで僕の腰に頭も届いてなかったくせに……」
「さすがに何年前の話してるの!?」
「お前ならきっとお前にしかできないことを見つけるよ。その結果がどう終わったとしても、僕はそれを見つけられたことが素晴らしいと思う」
相手の肩に頭を抱き寄せられつつ、パスはもぞもぞ顔を上げてシアを見上げた。目を閉じて微笑むシアからはいつものタバコの匂いがした。吸ってすぐだと胸の中が埋められたみたいに苦しくなってしまうけど、その残り香の匂いがパスは好きだった。
「それがたとえ、本当にお前にしかできないことでなくてもいいんだ。僕たちの母さんもきっとそう思っているよ」
兄の声を聞きながら、まつげを緩い風がくすぐっていくのに、パスは目を伏せてうとうとと温まった体から力が抜けていくのを感じていた。
「……ねぇ、母さんってどんな人だった?」
普段は気にもしないことをふと思い出して、問いかける。シアが見下ろしてきて、珍しいな、と頷いた。
「多分、すごく普通の人だったよ。だけど最後には人に流されずに僕たちを見てくれていた。多分、すごく強い人だった」
パスが眠いのに気がついたみたいに大きな手のひらが目元を撫で下ろす。その仕草に甘えて目を閉じながら、これきりにしようと思った。手を引いてもらって歩くのはこれきりにして、パスは一人で歩いて、それで隣に並ぼうと思った。
「僕があやしても泣き止まないのに、母さんが抱っこするとお前はすぐに泣き止むんだ」
そう決め込んでみると、今度は寂しくて不安な気持ちが浮き上がってくるのだった。
「兄さんにとって彼女はそういう人だ」
だけど、今なら途方もない空を飛んでどこへでもゆけるような、自由な感じがした。
「追いつけそうで全然敵わない人だったよ」
んむ、とパスは寝言をこぼした。シアがそれに気づいて、しかたなさそうに夜空を見上げながら右手の中指にある幅広のリングを撫でた。
おまけ:エピソードを更新できなかった代わりにXにて投稿していたお茶濁し裏設定話
【酒】
イーセルはお酒に弱く、ワイン一杯で撃沈します。ですが、ストレス解消にとシスターエヴェルに時々渡されるさくらんぼの果実酒(inジャム瓶)はちまちまと食べ進めて、数粒でぽやんぽやんしているそうです。ちなみに酔っぱらうと気持ち悪くなるタイプなのであまりストレス解消にはなっていません。ただ、シスターからもらったものを食べるのが一番嬉しいらしいです。
ちなみに『ワンパレ』内の酒強Tear(in成人組)は
ベラ/イトミネ(酔わない)
シスターエヴェル/フゼル(酒豪)
ビアー(飲み慣れ)
ハイン(普通)/メイデイ(絡み酒)/リーデルシア(陽キャになる)
エルディア/タヒネ/サミュエル(飲み慣れてない・飲んだことないが強体質)
モノクロシア(緊張とストレスで悪酔い)
イーセル(話にならない)
となります。抜けてるキャラがいませんように。
【アデイラの細かな設定】
アデイラは貿易に強く、移民や他文化に寛容で、それらが混ざった日本に近いいいとこどり文化となっています。肌の色もバリエーション豊かですが、アデイラ人らしい特徴、というと、(カラーで言うと)オレンジっぽい肌とそばかすがあげられます。
主要メンバーでそばかすの民と明言されているのはサミュエルだけですが、エルディアやイーセル、カルファ、シアの父親など、描写するほどじゃないうっすらしたそばかすがある人が多いというイメージです。
あのオレンジっぽいまだら模様が肌の陽のあたる場所に散っているのがヘルシーでいいですよね……




